第四十六髪 呼び起こす 神の力持つ 白き獣  

 首都エビネに帰ってきた一行は軽く夕食をとり、慎太郎と大巫女はそのまま大神殿の中央にある中庭へと足を運んだ。

 以前見た時と同じく、そこでは花々が青白い輝きを放っており、自然が見せる光によって幻想的なライトアップがなされている。

 中央にある円形の泉も淡い輝きを放つ中、その中心部分にそびえ立つのは、例の頭から上が切り取られた先代大神官と、彼を支えたという虎のような生き物の石像だ。

 先日、大書庫で様々な記録を読み解いた時に判明したことがある。

 この虎めいた生き物は、白き神カピツル神の一部であり、『つるぎ』なのだそうだ。

 そして、黒き神がもたらす滅びという絶望的な危機にひんして、大神官が羽衣スーツを装着し、その前に姿を現した時。

 いにしえの封印から解き放たれるというのだ。

 慎太郎はじっと石像を見つめる。

 と、何かに導かれるように右手を前に出し、自分でも聞いたことのないような異国の言葉が口から漏れ出ていく。


「テリド・デュタス……、テリド・フィナス……、ロニウム・カルプ、コサミン・アセチ・ルグル……、プチド・アセチ・ルデカペ……、プチド・アセチ・ルテ・トラペ……!」


 それに呼応するかのように、石であるはずの石像のが、まばたきをする。

 その直後、中庭全体の空気がふるえる。

 それと共に、石像の『表面』がどろりとけていく。

 まるで、コーティングががれるように。

 白いどろが土台に滴り落ち、中から現れたのは、白きけものだった。

 その美しい毛並みは発光しており、薄ぼんやりとした光源しかなかった中庭は、昼の陽光に照らされているかのように、その鮮やかな色彩を取り戻している。

 獣は全身の毛を逆立てると、ぶるりと震わせ、残っていた泥を振り払う。

 そして、閉じていたひとみをカッと見開き、その鋭い金の輝きは二人の姿をとらえた。

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