第四十三髪 念願の ブツも手に入れ 喜ぶも

 長い毛そのままに作られたものと、短くそろえた毛で作られたものがある。


「こ、これは、まさか」

「これは余り物の毛で作った帽子ぼうし。『ラーズ』と呼ばれているものです。被ると、髪と全く同じ効果を発揮はっきすると言われています」


 慎太郎は短い方の帽子をとると、恐る恐る頭に装着する。

 まるで、頭皮と完全に一体になったような甘美かんびな触感に、あわてて取り外す。

 もはや、口にするまでもない。

 慎太郎は心の中でつぶやいた。


 これは、いわゆる、ヅラだ。


「いや、その、こんなものまで、いいのかね」


 再び慎太郎は助けをうかのような視線を大巫女へと向ける。

 と、大巫女だいみこは大真面目な顔、ではなく、明らかに口元をふるわせながら彼にささやいた。


「いいも何も、ふ、これは黒き神と戦うために、その慎太郎様のさびしくなった自毛のスケープゴートとなるものでして、っくふ」

「君! 今、絶対笑っただろう! いや、まあ、嬉しいんだが、付けるとなると、その、なんだ、気持ちの整理というか。ほら、色々あるじゃないか。例えば昨日までハゲていた上司が今日になって突然ふさふさの髪が生えそろっていたら、あ、こいつやりやがったな、みたいな感じに、その、なると思うわけで」

「それは平和になって、あちらに戻ってから考えましょう、ね?」

「いや、まあ、そうだな。うん」


 飛躍ひやくしすぎてしまった。

 改めて、セファラに向き直る。

 彼女もさぞかし笑いをめているに違いない、と焦点を当てると。


「……うっ」


 顔は青ざめ、くちびるの色も昨日のような美しい桃色ももいろではなく、むらさき

 視点も定まらないのか、どこを見ているか分からない、光の無い目で。


「セファラ君、大丈夫か?!」


 そう、慎太郎がさけんだその瞬間。

 セファラは足に力を失い、前のめりに倒れ込んだ。

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