第四十二髪 袖通し 着慣れた服に 意気揚々

 それは、明らかに、どうからどう見ても、現代のサラリーマンが愛用する装束しょうぞく「スーツ」であった。

 群青色ぐんじょういろに美しくめ抜かれており、気品とオーラをただよわせている。

 どうやら、あの花は染色せんしょくに使われたようであった。

 それにしても。


「その、神八重かみはえ羽衣はごろもというものは、これで本当にいいのかね」


 大巫女に視線を送ると、彼女は大きくうなずく。


「ええ。まごうことなき伝説の羽衣。あらゆる災厄さいやくを防ぐまもりの力を持ち、白き神カピツルの『つるぎ』を呼び出すための神具しんぐにございます」


 大巫女の顔は大真面目だ。それはセファラも同じであった。


「試着してみますか?」

「う、うむ」


 セファラの言葉に応じ、隣の部屋へ誘導され、そこで着替えることとなった。

 ワイシャツにネクタイらしきものまで用意されており、一式着てみる。

 と。

 信じられないほどピッタリで、しなやかで軽く、も言えぬ心地良さがき上がってくる。


「これは、まごうことなき最高級品だ……」


 過去に一度だけお試しで試着だけした最高ブランドの着心地が、量販店の既製服かと思ってしまうほどの圧倒的な代物しろものであった。

 鏡を見ながらきっちり整えた四十六歳サラリーマンが試着室から出ると、なぜか里の者達から拍手がき上がる。

 何となく気恥ずかしくなり、頭をく慎太郎を見ながら、セファラはさらに、羽衣を包んでいたものより一回り小さい包装布ほうそうぬのを開く。

 そこにあったのは、黒々とした毛で作られたかぶものであった。

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