第四十髪 それぞれの 想い巡る夜 更けてゆく

 夜更けになり、用意されたベッドでそれぞれの床に就いた。

 慣れない登山道で皆疲れていたのだろう、すぐに寝息が部屋の中を満たしていく。

 慎太郎はというと、一番疲労していたはずなのに、不思議と寝付けずにいた。

 目を閉じて羊を思い浮かべてみたり、姿勢を変えたりしたりとあれこれやってみるも上手く行かず、仕方ないので、少し夜風に当たろうと宿の外に出る。

 すると、そこには一人の男性が木陰こかげで立っていた。

 よく見ると、常に族長の横にいた青年だ。

 灰色の翼を持った彼は何をするでもなく、ただ族長の家の少し奥にある、工房エリアを見つめている。

 慎太郎もそこに目を向けると、暗くなった家屋の中でそこだけ灯りがついたままであった。

 また、そこからかすかにではあるが、決まった間隔かんかく機織はたおりの音が空気をふるわせ、ここまで届く。

 しばらくそれをなぜめていると、男が慎太郎に気づき、近寄ってくる。

 不思議な雰囲気であった。

 敵意があるわけではない。

 だが、何かを決心したかのような緊張感を彼は持ち続けていた。


「やあ、こんばんは。あそこで羽衣を作ってくれているのかね」

「ええ。……明日必ず、約束のものをお渡し出来ると思います」


 必ず、と念を押すようにもう一度小さく呟くと、彼は会話を切って、その方向を見つめ続ける。

 その時の慎太郎は、彼の言葉が持つ重みには気付けずにいた。

 それを知るのは、半日ほど後のことになる。

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