第三十九髪 想い知り 厚く励ます 薄き漢

 一見してほぼ感情が出ない、まるで機械のような冷たい雰囲気をかもし出すマリーナだが、そこにめる本質を慎太郎はようやく垣間見たような気がした。

 慎太郎はふっと相好そうごうくずすと、真正面からしっかりと彼女の目を見て、口を開く。


「マリーナは、その敵と精いっぱい戦ったんだろう? 命をけて、全力で」

「……もちろんだ」

「それでも倒しきれなかった。それを負い目に感じている。だからこそ、今、軍師として、この世界の皆と共に戦ってくれている」

「ああ、……そうだ」

「過ぎたことは、仕方ないさ。今はマリーナの手ほどきで、皆、一丸いちがんとなって、それぞれやるべきことに全力を尽くしている。それが出来たのは、この世界に君が居たからこそだよ」

「……」

「これからだ。黒き神を倒して、この世界に平和をもたらす。そのために、マリーナの出来る最善をやってもらえれば、それでいいんだ」

「そう、……うん、そうだな」


 壮年男の言葉はひびいたのか。

 彼女の表情からはうかがい知ることが出来ない。

 慎太郎は自分の台詞を反芻はんすうし、照れ隠しのように頭を軽くかくと、そういえば、とねてより未来からの客人にたずねたかったことを聞いてみた。

 

「それにしても、マリーナは未来の世界でどんなことをしていたんだ」

「パイロットと博士を兼任していた」

「なんと。……その、回答は任意でいいんだが、君はいくつなんだ」


 どう見ても若い。

 が、人は、特に女性は年齢が分からないものだ。


「ボクか? こっちに来てから十三歳になったはずだが」

「なんと。とすると、やはり凄いことなんじゃないか、博士でパイロットとは」

「……うん、まあ。歴代最年少だったよ」

「やるなあ」


 慎太郎は、軍師としての彼女も見てきた。

 帰って来てからそれぞれの進捗について報告を受け、問題があればすぐさま対応策を示す姿は、一般人のそれではない。

 明らかに人の能力をはるかに超越した存在だ。

 おそらく一般的な範疇はんちゅうの事象については、事前に想定がなされているのであろう。

 彼女の才能について改めて納得したところで、次の気になることを聞いてみることにした。


「ところで、パイロットということだが」

「うん」

「その、機体ごと、こちらに来たのか」

「そうだ。……といっても、主武器(メインウェポン)とコクピット以外はバラバラに砕け散ってしまったけど」

「そうか、残ってないか」


 未来のロボットというものは、慎太郎世代の夢でもある。

 ゲームに登場するような、勇ましく夢のあるかっこいい機体スーパーロボットを拝めるのかと思って期待しただけに、少し残念であった。


「ただ、主武器は今回においても切り札となる」

「ほう。やはり、こう、荷電粒子砲かてんりゅうしほう……みたいな、アレかね」


 少し身を乗り出す慎太郎に、マリーナは苦笑しながら答える。


「考え方自体はさほど違わないんだが、おそらくシンタローの世界と良くも悪くも運用技術が大きく違うんだ。でも、得られる結果はそれに近い」

「そうか、いやあ、それは見ものだな」


 顔が自然とにやけてくる。

 色モノ雑誌アシュタのこともそうだが、慎太郎は根っこのところではゲームやSFモノが大好きなのだ。


「最終決戦についてのプランは、当日のブリーフィングで話すことになる。主武器の輸送も今週中に終わる予定だ。設置が終わったらせっかくだし見てもらおうか」

「ああ。是非、頼む」


 マリーナにとっても主武器はよほど大事なものなのだろう、話をするだけで表情が柔らかくなる。

 そうこうしているうちに彼女がまとっていた鬱屈うっくつとした雰囲気が解け、再びそのアイスブルーの瞳の奥に強い炎が灯ったように、慎太郎には見えた。


「……ありがとう、シンタロー」

「どういたしまして、天資英明てんしえいめいの軍師殿。一緒にこの世界をさくっと救おうじゃないか」


 そう言うと、慎太郎は握りこんだ右手をマリーナの前に突き出す。

 彼女はほんの少しだけ口角こうかくを上げると、一回りは小さい左手を彼のそれに軽くくっつけた。

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