第三十八髪 打ち明ける おさな軍師の 過去話

 うたげが終わり、一行は里にある宿屋へと招かれた。


「もうずっと馴染なじみの行商人しか泊まってないからね。こんな大人数のお客さんは本当に久しぶりで嬉しいねえ」


 宿屋のおかみはそういって高らかに笑うと、やけに目立つオレンジ色の翼をばたばたと激しく羽ばたかせた。

 やはり、彼らは感情が羽根の動きに出る。

 それは本当に心からの喜びを表していた。

 宿屋の最上階にある一部屋で、一行はようやく一息つく。

 地下には浴場もあるとのことで、大巫女とクオーレは早速昼間の労働でかいた汗を洗い落とすために向かおうとする。

 二人はマリーナも誘ったが、


「いや、ボクは後で行くよ。あんまり汗をかいてないからね」


 と、やんわりと断られたので二人だけで向かうこととなった。


「……」


 慎太郎はというと、ここに来てどっと疲れを感じて、バルコニーにあるリクライニングチェアに座ってぼんやりと空を眺めていた。

 今日も月には薄雲うすぐもがかかり、ぼんやりとしたにぶい明かりを地上へと届けている。


「……シンタロー」


 備え付けのソファーで持ち込んだ本を読もうとしていたマリーナはすぐさまそれを閉じると、慎太郎へ声をかける。


「ん、なんだね」

「話したいことがある」


 やけにしんせまった物言いだ。

 慎太郎はリクライニングチェアから立ち上がると、マリーナの前にすわった。


「……ボクのことだ」

「ああ、例の未来からって言うやつだな」


 このひときわ小柄こがらなせいで幼く見える少女は、この異世界出身ではなく、慎太郎の世界の「未来」からここへ来た存在だということだった。


「まず、これだけは理解してほしいのだけど。ボクが居た未来は、シンタローの暮らしていた地球の未来

「ふむ……というと?」

「ボクの未来は、本当に酷い世界だった。特別な力によりまもられた領域エリア以外は全て、死に絶えた世界といっても過言かごんではなかった。少なくとも、生命がまともに生存出来る地球ではなくなっていたんだ」

「……なるほど。それで、私の場合はそういう地球にはならない、ということかね」

「正しく言語化するのは難しいけれど、決してそうはならないはずだ」

「そうか、ならば良かった」


 地球が死の惑星ほしになるなどと考えたくもない。

 どれくらい未来のことかは見当もつかない。

 だが、マリーナの雰囲気がそんなに遠い未来に生きている者のものではないことは間違いないだろう。

 ということは、ともすれば莉々りりの生きている時代には、ということだ。

 莉々にはそんな世界を経験させたくはない。


「それで、あの黒き神の再活性化はおそらく、ボクがこの世界に流れ着くことになった決戦の時、ボク達の『敵』を倒しきれずに、持ち込んでしまったのが原因だ。だから、今、この世界が危機にさらされているのは」


 ――ボクの、責任だ。

 そう、小さく押し殺したような声でつぶやくマリーナの両手は、ひざの上できつく結ばれ、少しふるえていた。

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