第三十四髪 けばけばし 鶴とこころを 通わせる

 慎太郎が慌てて手を離すと、辺りのふさふさの葉っぱごとくるりと回転し、辺りに風が舞う。

 そこに居たのは、くちばしが黒い、鶴のような頭部を持った巨大な鳥であった。

 羽は例の青い花デルフィニテルナの葉にそっくりであり、境界の見分けはつかないほどだった。


「トゥルッパーーー!!!!」


 怪鳥は羽を逆立てると、怒りの鳴き声を場に響かせ、翼を広げる。

 すると、青い羽は見る見るうちにそれぞれが赤や黄色、オレンジや緑など、様々な色に変化していく。

 その色合いは、まさに毳毳けばけばしいと言うにふさわしい、人目を引く鮮やかなものであった。

 ただならぬ雰囲気に、別のところで作業を行っていたマリーナが駆け寄ってくる。


「シンタロー、どうしたんだ? ……これは?!」

「ああ、どうやらお休みのところ邪魔をしてしまったようだ……」

「これは、極楽丹頂鶴ごくらくたんちょうづるだな……。あった、これだ」


 先程の本の違うページを開けると、そこには頭部が妙に強調された鶴が書き記されている。

 慎太郎は、今にも飛びかかりそうな鶴を前に、急いで目を通す。

 

極楽丹頂鶴ごくらくたんちょうづる。非常に憶病おくびょうで普段はしげみなどに隠れ、擬態ぎたいし、休息をとる。敵がせまると、派手な色合いに変化し、大声で威嚇いかくし、まるで毒性をもっているかのように見せかける。が、ただの見掛みかだおしでその頭ちょ」

「トゥゥゥゥッルッパアアアーーー!!!」


 慎太郎の朗読ろうどくさえぎるかのように、鶴はひと際大きな鳴き声を響かせる。

 あまりの音に、近くの木々から鳥達が羽ばたいて行く。


「……すまん、私が悪かった。いきなり引っ張って申し訳ない」


 そう、よくよく考えてみたら、せっかくの安らぎの時間を奪い、痛い思いをさせてしまったのだ。

 深々と頭を下げる慎太郎。

 その特徴ある部分を見た鶴は、急速に怒りのボルテージを下げていく。


「トゥ、トゥッルッパー」


 妙に温和な視線に戻った鶴は、翼の先を慎太郎へ向ける。

 慎太郎の指先がそれに触れると、見る見るうちにあの毳毳けばけばしい姿はなりを潜め、鮮やかな青色へと戻っていく。

 そして、鶴も深々と頭を下げると、


「君もそうか……、そうだったのか」


 鶴の頭頂部は体毛が一切なく、き出しの地肌があらわになっていた。

 慎太郎の指先が、再び鶴の青い翼と触れ合う。

 大巫女やマリーナ、クオーレが生暖かい目で見守る中、一人と一羽の間には、不思議な友情が芽生えようとしていた。

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