第三十五髪 帰還した 一行に意外な 厚遇が

 慎太郎と謎の共感シンパシーを生んだ巨大鶴と別れた一行は、青い花をかごいっぱいにして下山し、太陽が空のはしを少し赤く染め始める頃、里へと戻ってきた。

 帰りも特にアクシデントは無かった。

 いて上げるなら、足腰あしこしにやや力のない慎太郎が、二回ほど足をすべらせ、服が少し汚れたくらいであった。

 彼らの姿を見るやいなや、里の正門はすぐさま開かれ、例の守衛が無言で先導する。

 心無しか少しだけ表情が柔らかくなったように見えるのは、慎太郎の気のせいだろうか。

 馬の世話で残ったクオーレを除く三人は族長の家へ入る。

 既に人数分の椅子いすがセットされており、座ると奥から長い髪を一まとめにくくった族長のセファラが出てきた。


「おかえりなさい。いかがでしたか」

「ああ、これだと思うのだが……」


 慎太郎は大巫女が両腕で抱えていた籠を取り、テーブルの上に置く。

 ちょうの形をした花は、青の色味が摘み取った直後より増して、瑞々みずみずしさとあでやかさを併せ持った光沢のある美しいものになっていた。

 セファラはじっくりとそれを確認し、そっと一輪を手に取ると、


「まさしくこれです。皆様、ありがとうございました」


 そう言って、一行に初めて、心の底からの笑顔を向けた。

 それは、抱いた花に負けずおとらず、誰もが見惚みとれるような魅力にあふれていた。

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