第三十髪 カミハエの 羽衣求め 挑む課題

 二人が椅子いすに座るやいなや、族長はすぐに本題に入る。


「まず、確認させて下さい。ルミーノの創造神そうぞうしん七柱ななはしら分霊神ぶんれいしんの力が宿る、神八重カミハエの羽衣。先代大神官がまとったと言われる、あらゆる災厄から身を守る一羽織ひとはおりをご所望ですね」

「おっしゃる通りです。が、なぜその事を」


 大巫女の疑問はもっともだ。

 今まで、詳細を話す機会すら与えられなかったからだ。


「エビネの大神官に大巫女、そして世界の終わりとくれば、それしかないでしょう。……そちらの要求は分かりました。では、私達の要求するものは『エガハルス』です」

「ふうむ、聞きなれない名前だ」

「私達の言葉でそう呼ばれているモノです。この里からさらに先の、深い山々に囲まれた奥地に、それが咲く小さな野原があります。このかごが一杯になるまで、それをんできて欲しいのです」


 そう言うと横に広げてある地図でその地点を指差す。

 確かに山深い所で、容易には辿たどりつけなさそうだ。


「無事こなしたら、お約束の物を準備します。それでは、行ってらっしゃい」


 質問の時間も与えず、少女は席を立つ。

 この依頼に対する注意事項やヒントは一切与えないということが、その動きから見て取れた。


「行こう、時間は有限だ」

「慎太郎様……。はい、それでは失礼いたします」


 慎太郎と大巫女は再び里の外に出ると、クオーレとマリーナは既に準備万端であった。


「大神官様、大巫女様! ほら、これを見て下さい!」

「里の人から食料をもらった」


 マリーナが指さした方向を見ると、簡単に食べられそうな野菜や果物、下処理した穀類こくるい等が置かれている。

 何も言わずに置いていったらしい。


「ありがたいな。というよりこれは、……いや。今は作戦会議をしよう」


 慎太郎は思うところがあったのだが、それはさておきと、任務達成への話し合いを四人+一匹で開始した。


「しかし、『エガハルス』と言われても、これだけノーヒントではな」


 一行に概要を伝えたはいいものの、見当もつかず途方に暮れる慎太郎であったが、こんな時に頼れるのはやはり、とチラリと隣を見ると。

 既に何かしらひらめいていたのだろう、マリーナは背負っていたリュックから、一冊の本を取り出し、ぺらぺらとめくる。


「何か分かりましたのね」

「ああ、エガハルス。ハーピィ族の古い言葉で、青いちょうという意味だ。そしてセファラはそれは咲き、摘むものとも。つまり」


 マリーナは本のちょうど真ん中辺りでめくるのを止めると、三人と一匹に見せる。

 そこには、茎と葉の長さちょうど同じくらいなのが特徴的な、まるで蝶のような見た目をした真っ青な花のイラストが描かれていた。


「幻の花デルフィニテルナ、これが彼女達の求める品だ」

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