第二十九髪 決意する 艱難辛苦 乗り越えて

 翌朝。

 慎太郎は一人、里の正門前に居た。

 深呼吸一つすると、下腹に力を込め大きな声で名乗りを上げる。


「エビネの大神官、慎太郎だ! 族長にお目通り願いたい!」


 まるで時代劇のような口上こうじょうになってしまい、やや気恥ずかしい心持ちになってしまったが、門の横にある物見櫓ものみやぐらからその姿を見守っていた見張みはりの男は、真面目な顔でそれを聞き届けると一旦いったん姿を消す。

 そして、しばらくすると門が開かれ、先程の見張りが慎太郎をまねき入れる。


「お会いになるそうだ」


 簡潔なひと言の後、族長の家へ先導するその表情は、昨日に比べ、少し和らいでいるように慎太郎には感じられた。

 数分の道のりを歩くと、族長の家のすぐ手前に見知った人物が立っていた。


「また来られたのですか」


 セファラであった。あの後眠れなかったのだろうか、少しれぼったい目をして、羽のいろどりも心無しか元気が無いように見える。

 また、昨日はセファラを守るようにして複数居たきの青年達は、今日は遠巻とおまきに二人の姿を見守っている。


「おはよう。……あきらめきれなくて来てしまったよ」

「あれだけお断りしても、ですか」

「ことが事だけに、ね。この世界の命運とそこで暮らす全ての命がかかっているんだ。とはいえ、無理強いは出来ないが、ね。もしお願い出来るのならば、君達の力をお借りしたい」

「……」


 少しまくしたてるようになったことを心の中で後悔する。

 のどかわき、思った以上に緊張しているのだと実感した。

 それから数十秒くらいだろうか。

 あまりにも長い間が二人の間にあった。

 セファラは視線を外し、ゆっくりとめるように言葉を伝える。


「私達に残った傷は今もえてはおりません。皆、人が恐ろしいのです」


 ですが、とうつむいていた顔を上げ、慎太郎を真っ直ぐ見る。

 そのひとみとも覚悟かくごは、慎太郎を少したじろがせるほどに、強い。


「あの時、私達を救ったのもまた、人間でした。様々な人間が居るのです。そして、大神官様。昨晩のことで、貴方様は私達が信じても良いのでは無いか、と思うにる人物であると、私は見定めました」

「……」

「ですが、貴方の要求を無条件にんだのでは、里の皆に示しがつかないでしょう。ですので、依頼を一つ受けて頂きます。まずは里の外にいる大巫女だいみこの少女と共に、家にいらして下さい」


 そう言うと、族長はすぐに背を向け家の中へと入って行った。

 慎太郎は彼女の一番近くにいた青年をちらりと見ると、彼は目をつむり、族長の言葉を心の中で刻み込むような面持ちであった。

 ほんの数秒で目を開くと、慎太郎をその場で待機させる。

 そして、話を聞いて合流した慎太郎と大巫女の二人は再び族長の家へと招かれた。

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