第二十八髪 君選ぶ 数々の想い 噛み締めて

「……気づいていらしたのですか」

「ああ、これでも気配には結構自信があるのでね」


 暗がりから姿を現したのは大巫女だいみこだった。

 どうやら起こしてしまったらしい。


「……そんなことが」


 大巫女は肩が触れ合うほどの隣に座ると、慎太郎から里に起こった一連の話を聞き、沈痛ちんつう面持おももちとなった。


「君が言おうとしていたのはこのことかね」

「ええ。過去に人間との間にいざこざがあり、人間不信になっているとの話を聞きました。ですが私もくわしいことはぞんじませんでしたので……」


 突然の来訪は辛い過去を思い出させてしまったかも知れませんね、と大巫女は少しなみだぐむ。

 そんな彼女を見て、慎太郎は改めて彼女の本質を垣間見かいまみたような気がした。


「……明日、私一人でうかがおうと思うんだ」

「お会いして頂けるでしょうか」

「分からない。だが、彼女は思うところがあって、一人で会いに来てくれた」


 そしてまた明日、とも言ってくれた。

 慎太郎は、その言葉の意味をめる。

 不安そうに見上げる大巫女の頭に慎太郎は自然と手を延ばすと、優しくなでつける。

 大巫女は咄嗟とっさのことでただされるがままになり、この暗がりでも分かるほどにみるみるうちに全身が真っ赤になった。

 慎太郎もあまりに自分の動作が自然過ぎて、大巫女の表情に気づくとあわてて手を引く。


「あ、その、すまない」

「あ、えっと、良いんです、その……」


 お互いしどろもどろになると、なんとなく気恥ずかしいまま夜が更けていく。

 森に住む者達のざわめきが、二人を見守るようにかすかに鳴り響いていく。

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