第三十一髪 意外にも ゆめまぼろしは すぐうつつ

 半刻はんこくもしないうちに一行は行動を開始した。

 プランとしては馬車で空を飛び、近くの降りられそうな場所までショートカットし、そこから徒歩で山道を登るというものであった。


「あそこら辺が良さそうですね」


 クオーレが指差した先にあるのは、森林の中にあって少し開けた野原だ。

 着陸に適した十分な広さがあり、目的地までの距離も目視出来るほど近かった。


「改めて、天馬の力を思い知らされるな」

「シンタロー、ナイス符術ヤナギノク


 マリーナがグッと親指を立てる。

 彼女の時代でもそのジェスチャーは良い意味であるようだ。

 一行は野原に降り立ち、大巫女が天馬の四方に小指大の白い石を置くと、それに祈りを捧げる。

 迷宮でも行った、魔除まよけの術だ。

 その後、一行は布袋に食料などを詰め込み、移動を開始する。

 先頭はクオーレとクリームだ。

 特にクリームはやはり山羊の一種であるカプラだからだろうか、木の根とごろごろとした大小の石と硬軟ある土で歩きにくい悪路を、スイスイと登っていく。

 まるで歩き慣れた道のように、先に進んでは後ろを振り返り、皆が登りきるのを待つ。

 いまやパーティーの顔とも言える、実に頼もしいリーダーぶりを発揮している。

 一方の慎太郎はふらふらだ。

 普段から出勤である程度歩くとはいえ、このような山道にはえんがない。

 しかも、先日の地下迷宮でのハードワークからまだ完全に回復していないところでの登り坂であり、ここに来て体力のおとろえを嫌というほど痛感させられる四十六歳アラフィフである。

 とはいえやるしかない。

 クリームを目印にして一行は苦労しつつも登山を続け、しばらくすると山の中腹ちゅうふくあたりにある、急に平たい場所へ到着した。

 そこは、背の高い広葉樹林に囲まれており、木々の間から陽光が降り注ぎ、足元の葉にまった上露うわつゆはそれらを浴び、きらきらと輝きを放っている。

 奥に少し進むと、セファラが言った通り、低木の草木で覆われた野原へと出る。

 そこは先程までの鬱蒼うっそうとした雰囲気に比べると、人の手によって定期的に整えられているような人工的なおもむきがあった。


「ふむ。さて、着いたが、幻の花だからな……、一体どこに……」


 一行は辺りをくまなく見る。

 おおよそひっそりと隠れてあるものなのだろう、比較的背の高い草むらの中だろうか、と左右を確認していると。


「慎太郎さんありました!」

「なにっ?!」


 意外と早い発見に驚く。

 やはり神職たる彼女は神に祝福されているのだろうか、と大巫女が見ている方向へと振り向くと。


「へ?」


 あった。というより、しげっていた。

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