第三十二髪 翼人の 真なる願い 想い馳せ  

 そこには、本で見た通りのちょうの形をした青い花が、これでもかと言わんばかりに咲きほこっていた。

 地面にほど近いところから生えた大きな葉は四方八方に広がり、群生しすぎていて押し合いし合い、みっしりとしている。

 しかも、密集したそれらは互いの葉同士がこすれ合い、フサ、フサ、という音を響かせる。

 慎太郎はげんなりとした表情になった。

 予想とは全く違う展開であり、予想だにしない繁茂はんもを見せつけられたせいだ。

 標高の高い所ならではの強い風が舞いおどり、慎太郎の髪がふわりとね上げられ乱れる。

 風による追い打ちに、大きくため息をついた。

 とはいえ、すぐに見つかったことは幸運であった。

 一行はさっそく作業に取り掛かる。

 大地のめぐみに祈りを捧げ、大巫女による毒除どくよけの加護かごを受けた手袋を各々おのおのが装着し、花茎かけいからんでいく。

 本によると全く害がない花の一種とのことだが、念には念を、である。

 ゆるやかな陽射しが入り込む中で、大巫女の花をむ姿は、神々しくあると同時に可憐かれんだ。

 それを横目で見ながら、慎太郎は疑問がぬぐえずにいた。

 どれくらいの距離が飛べるかはさておき、飛行が可能なハーピィ達はここへ来るのはさほど「難しく」はないだろう。

 天馬という飛びきりの秘密兵器があるとはいえ、現地人ではない慎太郎一行ですら、やすやすと来られたのだから。

 しかも、先日のような迷宮のような脅威きょういも、がいわなもない。

 

 要するに、簡単過ぎるのだ。


 では、なぜこの依頼が出来れば引き受けるとしたのか。昨日の拒絶がまるで幻だったのではないかと感じられるくらいだった。

 あれこれ考えているうちに大巫女が手提げのかごに例の花を満たし、戻ってくる。

 ほんのりと甘酸あまずっぱい香りがただよい、慎太郎は思考を一旦止めた。

 疑問は、後で本人に聞けば分かる、と。

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