第六十髪 薙ぎ払え 機神の燃ゆる 閃撃よ  

 その時、マリーナは砲身ほうしんの根元に接続されたコクピットの内部にすわっていた。

 計器は半分以上がダウンする中で、ひび割れた前面のディスプレイの一部は、砲身の先端から見える外の世界をかろうじて映し出すことに成功している。


「……」


 マリーナは大きく深呼吸をすると、口ずさむように確認をする。


運動域うんどういきβベータ回路かいろ、切断。メイン電源、滅失ロスト。バイタルエリア損傷度72%。サブ電源、正常、出力安定。高次元位相HDP乖離D-虚数因子Spitiron反振動オープン、レベルチェック……」

 

 手も足もこの機体にはもう、ない。

 それでも、予備の電源は生きており、今一番必要な回路は動いている。


疑似処理エミュレーション、成功。――斬れる」

 

 マリーナは小さくうなずくと、機械におおわれた金属のガントレットをつけた右の腕をコンソールの上に置く。

 すると、コンソールから樹脂じゅしのようなぬめりがき上がり、マリーナのガントレットをつつんでいく。

 彼女は一瞬目を閉じた後、カッ、と見開く。

 と、今まで誰もに見せたことがない、どうもうな笑みを浮かべ、高らかに声を上げる。


「さあ、再び祈りに応じ、我がたましいらいくせ、機神きしんスヴァローグ! 創世の火焔かえんもって、穿うがつらぬけ!」


 その声に呼応して、砲身にられた幾何学模様きかがくもようみぞが赤く発光したその瞬間しゅんかん

 砲身の先に、明滅めいめつひとつ、そして。


 大気をふるわせるするどい音と共に、一条いちじょう灼光しゃっこうが黒き神の両足をはらった。

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