第七十二髪 園庭に まばゆい青の 花開き
夜も深くなり、慎太郎と
あれだけ飲んでいたというのに、大巫女はむしろ少し酔いが覚め落ち着いた様子で、足取りもしっかりしている。
だが、酒が入った
咲き
二人は中央の泉の前にある、いつものベンチに座る。
目の前には、首から上がない先代大神官の石像が泉の中心に
石造りなので気づいていなかったが、確かに彼も
やはり、あの
頭のないその石像が、何者かは分からない。
ただ、
もしかすると、私の石像も造られるのだろうか。
正直なところ、それはとてつもなく気恥ずかしいし、もし、ほんの少しだけわがままが許されるのなら、あの
慎太郎はそんなことをぼんやりと思っていると。
「うふふ」
大巫女は身を
こうして触れ合うと、その
そんな熱っぽい彼女の姿と、先程のタガが外れた飲みっぷりを思い出しながら、改めて思うことがある。
彼女はここに
ともすれば、異邦人である自分よりも、はるかに重たいものを。
天から
──
慎太郎は素直に、そう感じた。
それと同時に、頭の深いところが疼く。
頭痛ではない、じんじんとした
「うふふ、――ですわね」
大巫女の言葉は、上手く聞きとれなかった。
何を言ったのか問い
大巫女は
大きく口の開いた手の
それを見ていると、記憶の欠片が、どうにも
やはり、私は。どこかで、彼女と――。
泉の周りを一周し、帰ってきた大巫女は、座っている慎太郎に手を差し伸べる。
その小さくほっそりとした手を握りしめると、次の瞬間、光の
「ああ。もう、時間ですのね」
大巫女の言葉がやけに遠い。目の前にいるはずなのに、
「これは一体……」
「今回は無理やり、こちらにお呼びしましたから。私だけでは少し力不足でしたけれども」
優しい表情のまま、笑顔の大巫女の声は、語尾が少し
気がつくと慎太郎は大巫女を強く、と言っても筋肉痛のためさほど力は入らなかったが、気持ちが
「私は、おそらく君を知っているはずなんだ……。どこかで、出会っているんだ」
息を飲む音がする。
そしてすぐに、小さな声が耳元をくすぐる。
「何だね、んうっ」
振り向いた慎太郎のタイミングに合わせるように、大巫女はそのネクタイを引っ張り、顔をぐいと引き寄せ、
――どれくらいの時間そうしていたのか。
慎太郎が我に返った時には、すでに大巫女はベンチから立ち上がり、ホタルブクロで淡くライトアップされた噴水の
「奥様によろしくお伝えくださいね。あと、
「全く、君という子は……。だが、分かった」
どうやら
慎太郎の全身が
「また、会えるといいな」
「ええ、きっとまたすぐに、会えますわ」
少し涙が混じるその声に慎太郎は切なくなりながら、だが、意識は一気に暗がりへと落ちていく。
夢うつつの狭間のようなひと時の闇の中で、ふとあることに疑問を抱く。
彼女に娘の名前を話したことは、無い。
どうして、知っていたのだろうか。
遠くに落ちていく意識の中で、音だけが聞こえてくる。
大広間の方からだろうか、
誰もが喜び、
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