第六十二髪 物事は 思うようには いかないもの

「――ルピカにも確認したが、黒き神は接着せっちゃくした足元の大地から力を得ている」

「ふむ、そうなのか」

「どうやら大地神エルザビの力をうばい、自らの動力源としているようだ。だが、あの巨体だ。維持いじするためには、常にそのエネルギーを吸い上げなければならない」

「ということは、まさか」

「ああ。本体としての機能がある胸部から上が地上から切り離されてしまえば、みるみるうちに力を失う。その瞬間こそが、へと吹き飛ばす最大の機会チャンス、ということだ」

 

 マリーナの言葉をまえて生み出されたプランが、以下のものであった。

 まず、交戦し、ある程度黒き神の戦力をぐ。

 そして、砲撃準備が整ったマリーナの「スヴァローグ」により、上半身と、エネルギーを吸い上げている下半身を切り離す。

 一時的でも力を失うそのタイミングで、ルピカが白き光弾となり、前回と同様に黒き神を目標の封印が可能な地点まで吹き飛ばし、力を取り戻す前に、封印を行う。

 と、まあ、そんな感じだったのだが。


「ここまでうまくいくとはな」


 天才軍師マリーナ、そして既に過去一度経験している白き神のつるぎルピカの実務的な助言もあってのことだろう。


「慎太郎様」


 結界けっかいいた大巫女だいみことなりにやってくる。

 慎太郎の召喚しょうかんからここまで、気を張り、力をるっていたからか。

 表情には疲労ひろうの色がありありと見て取れた


「君もよく頑張ってくれた。本当にありがとう。……さて、封印の場所へ向かおうか」


 急に静まり返った戦場を後に、天馬は南東へと向かっていく。

 だが、空をおおう暗い雲は変わらず、れ果てた大地に光を届けない。


     *


 予定の地点に近づいてくると、通信用にと分けていたミニサイズのルピカが目を覚ます。

 どうやら本体とのやり取りが再開され、休眠モードから回復したようであった。

 だが、その表情は今まで見たことがないほどに陰鬱いんうつで、普段ふだんであればピンと立ち上がっている耳の先が力無くれ下がってしまっている。


主殿あるじどの、すまない」

「お疲れ様、ルピカ。……何かあったのかね」

「……失敗した」


 そういうと、ミニルピカは小さく身をちぢこませる。

 慎太郎はあわてて立ち上がり、進行方向へ目を向ける。


「なっ、これは……!」


 慎太郎が見たもの、それは。

 予定落下地点である古い神殿跡しんでんあとがある封印の場所。

 その巨大遺構きょだいいこうの手前に広がる青々とした森林帯で、再び両足を大地にしっかりとつけ、急速に力を取り戻すくろかみ雄々おおしい姿であった。

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