第六十三髪 命燃ゆ 場で相対す 白と黒 

「持ちこたえろ! あと五分だ! 何があっても突破させるな!」


 切迫せっぱくしたルビンの怒声どごうが戦場にひびく。

 状況は、暗転した。

 切り札である赤い閃光せんこうくろかみはらった直後。

 あれだけ猛攻もうこうをかけていた黒きけもの達はその力を徐々じょじょに失い、さらにはあの光かがやく一撃で黒き神が吹き飛ばされたその瞬間しゅんかん戦場せんじょうは多くの喝采かっさいちどきで満たされていた。

 防衛線は最終ラインが瓦解がかいするまでもって数分というところであった。

 まさに、危機一髪ききいっぱつであったのだ。

 ルピンは武器を捨て勝利にいしれる将兵しょうへい達に号令ごうれいをかけ、地にしたままほぼ身動きすることの無くなった獣達の掃討そうとうと、万が一にそなえて、最終防衛ラインの再構築を指示した。

 普段ふだん豪快ごうかいに見える兵士長ルビン慎重しんちょう過ぎる態度に一同は苦笑いをかべたが、素直にしたがい進めていた矢先、それは起こった。

 黒き獣達は次々に起き上がり、再びその爪先つめさき大神殿だいしんでんへと向けたのだった。

 油断していた者達がすべなく蹂躙じゅうりんされる中、東門前では再び死闘しとうり広げられていた。


「ひるむな! 通すな! 確実に仕留しとめろ!」


 根元から折れた剣の代わりに、地に伏した兵士の長槍ながやりを取り、数匹の獣をはじき飛ばす。

 彼の全てが、敵を倒すための一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくとなる。


 だが――、天候てんこうまでもが


 唐突とうとつり始めた雨で大地はぬかるみ、視界しかいさえぎられ、体力をうばわれていく。

 そんな中、共に戦う仲間の数は一人、また一人と減っていき、黒き獣達は一向にその数が変わることは、無い。

 そこかしこに裂傷れっしょうを受けながらも、がむしゃらに武器を振るい続けた男の顔にも、絶望の色が浮かぶ。

 その瞬間、猛然と目の前にせまる黒き獣に対し、身体が反応出来なくなる。


 ついに、限界が訪れたのだ。


 脳裏に、き妻の顔が浮かぶ。

 彼女はめてくれるだろうか。それとも、研究者らしくここまでの戦いぶりを分析された挙句あげく能書のうがきをれるのだろうか。

 後者だな、と、口元をゆるめた、その瞬間。


あきらめるのはまだ早いぞ、坊主ぼうず!」


 後方からやけに威勢いせいのいい声がひびく。

 それと同時に、目と鼻の先まで来ていた黒き獣を白い何かが吹き飛ばす。

 よく見ると、それは塊であった。

 思わず声のした方向を振り返ると。


「良く持ちこたえた、坊主。いや、異国いこくで名をせた若き将軍しょうぐんよ。ここからは我々の出番じゃ」


 大量のカプラを引き連れ、また本人も巨大なそれの背に乗ったカプラ牧場の主、オウバクの姿があった。


「オウバクじいさん! これは……!」

「準備はしていたのじゃがな、天はようじゃな。ほれ、カプラと言えば」

「――れれば最強のたてとなる!」

「いかにも!」

「フモッ!」


 空からはさらに強い雨が降り注ぎ、カプラ達をさらに濡らしていく。


「フモー!」

「フモモー!」


 カプラ達は威勢のいい鳴き声を次々と上げると、積み重なり、巨大なたてとなる。

 一方の黒き獣達はさらにより合わさり、巨大な黒く太いほことなる。

 そして、刹那せつなのち


 白と黒が、東門前で激しく衝突しょうとつした。

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