第二十髪 また一歩 獣の影が にじり寄る
帰り道の足取りは軽やかだった。
怪物相手に大立ち回りを見せたクオーレの、過去の武勇伝などでひとしきり盛り上がりつつしばらく歩き、
「よし、ここからはヤナギノクを使うか」
慎太郎は迷宮を進む時に使用した
「なびかしてかみのちずではげんなりよ!」
が、しかし。
「む……、何も起こらないぞ」
何度か詠むが、符は光らず、頭部も熱くなってこない。
符の回数制限の部分は「-」となっており、何度でも使えるものであるのだが。
「それでは、いつもの攻撃のやつはどうだ。やみはらう、ひかりかがやく、とうちょうぶ!」
イメージし、詠み上げるが、やはり何の反応も無い。
動揺する慎太郎に向けて、例の声が通路中に響き渡る。
「ゲハハ、ゲハ……、そのような
下品な
「何てことだ……」
大巫女はそんな失意の背中を撫でさすり、クオーレはどうしたもんかね、と何かを思案しているような
そんな中、マリーナは普段通りの落ち着いた雰囲気で皆に声をかける。
「とにかく行こう。私に案がある」
ランタンを右手に持ったマリーナが先頭に立ち、それに三人と一匹がついていく。
少し歩いては左の壁に近づき、左手に持っていた青いチョークのようなもので数字を書き込んでいく。
「マリーナ君、それはまさか……!」
「念のため『最奥』に戻れるように
マリーナが指を差した反対側、つすなわち右の壁を一行が見ると、ピンク色で何やら数字が記されている。これはつまり。
「そう。プランBとして、これまでのルートが分かるようつけながら進んでいた」
マリーナが途中少し遅れ気味に歩くようになったのは、これが理由だったのか。
一行は軍師の秘策を感心しつつ、いったん重くなった足取りは再び軽くなり
その後。
「マリーナ君、どうした」
「……無い」
マリーナは少しだけ目を
先程までほぼ一定
マリーナは駆け足で少し先に進み、次に当たる場所をチェックするが、首を小さく横に振ると三人の元に戻ってくる。
「やっぱり無い」
「むむ……道を間違えたのだろうか」
「どうでしょう、間違いなく印のあるところを進んでいったと思うのですが……」
大巫女の言葉に、クリームもフモッと鳴き声を上げる。
どうやら同意見のようだ。
一行が立ち止まっていると、天井からあの
「ワラワの一部に付けていた落書きなら、さっき気づいて消しておいたぞ。ちょうどここから分かれ道ばかりになる、せいぜい楽しむがよい、ゲッハ!」
そう言うと、またもやぷつりと音を途切れた。
マリーナは壁を背に座り込むと、ため息をつく。
慎太郎は全員を見回す。
クオーレは体力が有り余ってそうで鼻息でも歌いたそうなくらい陽気な雰囲気だが、大巫女とマリーナは少々疲れた顔をしていた。
「みんな、とりあえず休憩しよう」
体感でもう一時間以上は歩いている。
一旦冷静になって考えるためにも、一行は休息をとることにした。
「とはいえ、どうしたものかね」
頭を
「む……?」
と、美しい乳白色の床に、黒く細い何かが点々と落ちていることに気付く。
これは、まさか――。
「みんな、何とかなるかもしれないぞ!」
急に声を張り上げ、慎太郎は一同へ振り向く。
その顔には力強さが戻っていた。
慎太郎は少しだけ回廊を戻り、床を見回す。
そして、三人の元に戻ると、彼にしては珍しく、やけに自信のある態度で言う。
「みんな、私について来てくれ」
「……? シンタロー、何か打開策を見つけたのか?」
「ああ、実はな……」
と、一行にある事実を伝えようとしたその時だ。
大巫女が、少し青ざめた表情で、
「皆さん……来た道から何か、音が聞こえませんか?」
その言葉を受け、耳をそばだてる。
じゃら……じゃらり……。
通って来た道の奥から、床と金属とが
しかも、その音は
「まずいぞ、急ごう! みんな、ついて来てくれ!」
その号令で、それぞれ歩くスピードを早めていく。
慎太郎が念のため後ろを振り返る。
と、そこには。
二つの
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