第十九髪 毛を求め 激しさを増す いくさばよ
それから、どれくらいの時間歩いたのだろうか。
少し狭まった
一行が入ると、地中深くとは思えないほどの大空間が広がっていた。
天井まで
その中央には、入口の門で見た石像に良く似た巨大な
それぞれの頭は片目に
右腕だけ
その手に持った
その異形の姿に
「ゲーッハッハッハ! 大神官クン、迷宮の最深部によくぞ辿り着いた! さあ、目当てのモノはそこにいるわが
場の空気を
怪物は、アンバランスな挙動でゆっくりと近づいてくる。
それに
見るだけで恐怖と嫌悪の念を
「私が
怪物のはその濁った眼をクオーレへと向けると、一瞬だけピタリと止まる。
その、
凄まじい勢いで大地を
右腕を
クオーレは
まるで車同士が正面衝突したかのような激しい音と、大気の
「慎太郎様、大丈夫ですわ」
大巫女の柔らかい声が届く。
恐る恐る目を開けると、
――そこには一歩も引くことなく、余裕の表情で受け止める女
犬は大きく後ろへ飛び
が、先程と同じように、否、さらに加速した動きでクオーレに肉薄し、得物を振り下ろす。
クオーレはそれを軽いバックステップでかわすと、床を蹴って怪物の
再び凄まじい衝撃音が大気を震わせ、犬は棍棒ごと上空に吹き飛ばされる。
だが、ダメージはないようで、空中で身体を丸め体勢を立て直すと、再び距離を取る。
慎太郎はあまりの攻防の凄まじさに目を見開き、小さく声を上げる。
「凄いじゃないか……」
「クオーレは、都で最強の
大巫女は敵の変則的な動きに備え結界が展開できるよう、その攻防から目を逸らさず、しかし信頼しきった声でそう答える。
が、クオーレはその動きの全てを冷静に見切り、時にかわし、受け止め、相手の力を最大限に利用して確実にカウンターの一撃を入れていく。
まるで未来を予測しているかのような彼女の美しい動きに、慎太郎は見とれるほかなかった。
「と、いかんいかん」
慎太郎はマリーナに近づくと、どうかね、と
「当初の予定通りで行けると見た。シンタローはヤナギノクの準備を」
「ああ、分かった」
クオーレは相手が大きく距離を取った瞬間、二人に視線を送る。
どうやら同意見のようだった。
「よし、やるぞ! クオーレ!」
「はいよ!」
一辺倒な動きを止め、ジリジリと間合いを測っていた怪物へ、今度はクオーレが一転攻勢に出る。
一瞬
不意にクオーレの姿がかき消える。
怪物は空振りをした挙句、ただでさえバランスの悪い身体を大きく傾かせる。
必死に体勢を戻そうとするが、
「よっと!」
踏ん張っている左足にクオーレのスライディングが綺麗に入り、顔から大地に激しく打ち付けられる。
「いまだ、いくぞ!」
その好機を見逃さず、慎太郎は力強く手に持った符の一句を詠み上げる。
もうじゅうも
ふしてはくさり
ちをこやす
慎太郎の頭部が
それに応えるように、符から
「よし、成功だ!」
クオーレは注意深く安全を確認した後、腰ベルトの背面に差していた短剣で、黒くふさふさとした尻尾の毛を根元から刈り取る。
怪物の
「死んだのか?」
「……息はありますね。このまま仕留めておきましょうか」
「いや、それはやめておこう」
慎太郎はクオーレを制す。
いくら異形の怪物とはいえ、命は命だ。
しかも、大地神の
慎太郎は豊かな毛束を自分が背負っている袋に入れると、後方で待機している大巫女とマリーナに笑顔を見せた。
「みんな、お疲れ様だ。さあ、帰ろうか」
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