第八髪 真剣に 向き合う姿 手に異本
一方、
大通りから一本入った人通りの少ない場所にあるその店は、下北沢が
だが、最近は口コミがきっかけで、特に若い女性の間で人気が急上昇しているらしい。
そんなわけで、ほぼ満席で実に
「それでですね、最近はこういったアプリが若い世代で
「ほほう、なるほどなあ。こういったものを商品開発に
下北沢は話術も
顔よし、能力よし、人当たりよし、身長よし。
そして、――髪よし。
天はこの男に何物与えるのだろう、と
素晴らしいものは素直に認めるのが、慎太郎のモットーだ。
そうこうしているうちに並べられた料理をサラリーマンらしく高速で
「下北沢君。その、少しいいかね」
「……? どうされました、室長。例の育毛プランの話でしょうか」
少しだけ身を乗り出し、小声でひそひそと話しかける慎太郎を不思議に思いつつ、下北沢も同じように体を寄せる。
「例のプランの話も重要なんだが、今はそれよりも聞いて欲しいことがあるんだ。なかなか言いにくいんだが、こんな話、君くらいしかまともに聞いてもらえそうにないからね」
慎太郎の表情から、どうやら真剣な話であることを
その距離は五センチほどで、とても
遠くの席で女子の黄色い
「その、昨日のことだ。リビングで不覚にも寝てしまったんだが……。夢を見たんだ。その夢がちょっと何というか、普通ではなくてね」
「と、申しますと……。恐ろしい悪夢、もしくは
「そういうのだったら、まだ夢として笑い話にも出来たんだが……。何というかその、とてもリアルだったんだ。非現実的な設定なんだが、あまりにもリアリティーがあってだね」
慎太郎は昨夜のことを、つとつとと話し始める。
一度話し始めると普段見る夢のような細切れで飛び飛びの連続などではなく、流れが初めから説明出来、しかも鮮明に思い出せる。
まるで、本当にあったかのように。
軽く相づちを打ちながら静かに聞いていた下北沢であるが、普段の会話で見せるような愛想笑いはひとつもなく、ともすれば仕事の時より真剣な
しばらくすると、上質の
「室長。これを読んで下さい」
「下北沢君、これは……」
慎太郎はその表紙に目を向けると、そこには実に怪しげなアート絵にセンセーショナル見出し、そして「アシュタ」という雑誌のタイトルが赤文字でデカデカと書かれていた。
慎太郎も知らない雑誌では無かった。
アシュタは1990年代後半に創刊された、世界中の「超常現象」や「怪奇現象」などを取り扱う風変わりな雑誌だ。
やれ、古代エジプトの神秘や古代アンデス文明の謎に
慎太郎はこれを10代の頃に知る機会があり、ほんのひと時その世界にどっぷりと首を突っ込んではみたものの、現実的な情報社会に生きる中でいつしか関心が薄れていったのであった。
そのような雑誌が、地に足がついているであろう下北沢の鞄から出てきたのも
ぺらぺらと雑誌をめくってみると、その中に「異世界からの帰還者」を特集しているページがあった。
昔は見かけなかったジャンルであったが、時代を
軽く流し見たところ、異世界に行ったらまず行うことや役立つ知識、出現する
「もう、お昼の休憩時間も終わりますね。そちらの雑誌はお渡しします。きっと室長のお役に立つ情報があるはずなので、お時間があるときにでもお読み下さい」
「ああ、もうそんな時間か。ありがとう、せっかくだからちょっと
あの『夢』で見たものとはかなり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます