第七髪 夢なのか ありふれた日に 落つる髪
──パパ、ねえ、パパってば!
「……ん、……はっ!」
身体を
視界が不規則に
あまりの
「もう、パパ。こんなところで寝たら風邪引くよ?」
どうやらソファーに横になってそのまま寝入ってしまったらしい。
視線を動かすと、
時間は3時2分を
「ああ、すまない。莉々も早く寝なさい」
「私はその……、起きたばっかりなの! リビング通ったらパパが寝てたから」
「あ、ああ、すまない。ありがとう」
「じゃあ私、部屋戻るから」
そう言ってそそくさとリビングを出ようとする莉々を、慎太郎は
一つだけ気になることがあったからだ。
「莉々、ちょっと聞きたいんだが」
「なに」
「パパはずっとここで寝ていた……のだろうか」
莉々はあからさまに
我ながら実に
ずっと横に居て見守りでもしない限り、そんなことが分かるはずがない。
だが、どうしても
あの『大巫女』との出会いと、次々と
あの世界での時間が、人々の姿が、
「……」
もう一度眠ったら、あの世界へ戻れるのだろうか。続きが見られるのだろうか。
慎太郎はのろのろとした動きで二階に上がり、寝室へ入る。
ダブルベッドを一人で独占すると、ほんの少しだけ期待をしつつ、再び
*
慎太郎の目覚めは、この上なく
結局、あの大冒険の続きを経験することは出来ず、実に
目を閉じながら無心で
本日は洋食仕様だ。
焼きたてのパンにゆで卵、カリカリに焼いたベーコンとレタスのサラダ、そして牛乳が食卓に並んでいる。
といっても、ゆで卵とサラダについては莉々が作ったわけでは無い。
ありがたいことに、夜勤に行く前に妻が一式用意しておいたものだ。
また、パンをトースターで焼くのは小さい頃から
お互い
朝のニュース番組は、昨日結婚を発表した大型芸能人カップルの話で持ち切りであった。
「あれ、パパ」
「ん、なんだ?」
莉々が冷蔵庫からジュースを持って戻ってくると、慎太郎を見てなにかに気づいたのか、声をかけた。
「パパ、なんか髪薄くなってない?」
「……む? いや、そんなはずは」
と、そこでふと、大巫女の言葉が脳裏で再生される。
──代償を捧げなくてはならないのです。
「まさかっ?!」
慎太郎は立ち上がり、慌てて洗面台へ向かう。
きちんと眼鏡をかけ、出かける前のセットの時のようにそこに目を向ける。
無い。
いや、正確には、少ない。
「おおお……!!」
明らかに昨日見た時よりも
*
「りりっちー、起きれー」
「んん……。わ、ふえ?!」
後頭部をぺしぺしと軽く叩かれ、莉々は慌てて顔を上げる。
声の方を向くと、毛先だけピンク色に
「ごめん、りえっち。
「後ろから見てて気持ちがいいくらいの寝姿だったよ、よだれ
「うう」
顔を赤くしながらハンドタオルで口元を
週末を
莉々も普段であれば周りと同じように気持ちも軽やかになるのだが、今日は少しだけ重たいものを
理由は二つあった。
「にしても、りりっちが授業中寝るのは珍しいね、
「ええとね……」
一つ目の理由は、昨夜リビングで見た出来事だった。
それを口に出そうとして、思いとどまる。
お互い
昔から漫画だったりゲームだったりのやり取りも
そんなりえっちであったが、さすがに昨夜の件はどうしても言うのがはばかられた。
あの時。莉々はトイレで起きてしまい、そのうえ
「え、何……?」
自動調光で暗くなったリビングのソファーで、父親がだらしない姿で寝ていた。
問題は、そんな父親の
その
慌てて駆け寄り、でもどうしたらいいか分からず、ただ見つめる。
しばらくすると発光は収まり、透けも全く無くなる。
肉体の重みのような
そして、ようやく普段の心持ちで父親を叩き起こすことが出来、あの場面に
回想する莉々に、理絵は再度、今度は
「おーい、起きてる?」
「ふおっ、大丈夫。ちょっと思い出してただけ」
「何があったのさ。……もしかしてオトコ?」
「全然違うし。……いや、違わないのかな。夜中、パパがリビングで寝てたのを
これなら
そんな莉々のツンとした態度に、ニヤニヤと笑いながら梨絵がツッコむ。
「まー、莉々はファザコンだもんなー。いいなあ、ファザコン出来るパパ」
「あんなの。ハゲてるし、筋肉とかあんま無いし、アラフィフだし、地味だし」
「でも、良いパパなんだろー?」
「それは、そうだけど」
この歳になってもまだパパが好きなんて、正直恥ずかしい。
普通の子は中学校の頃にはもう
あたしも全力で親離れしなきゃ、と改めて
「それで、明後日の準備は出来てる?」
「うん。小物の調整だけ。りえっちの分は明日着てもらって微調整するから」
二つ目の理由。それは明後日がイベント当日だからだ。今回はお互いに
莉々は肩の力を抜くと、外の景色へ視線を向ける。
窓のはるか向こうに映える秋の空に、いわし雲が広がっている。
そこへひこうき雲が
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