第四髪 空を駆け 黒き巨人と 対峙する
「……しんかんさま、大神官様!」
「はっ?!」
一瞬、意識が遠のくほどの
過ぎたことは仕方がない。
慎太郎は散っていった
「君の言っていた代償が分かった。髪だ」
「か、髪ですか」
大巫女の視線が若干上に向けられる。
「その、おいたわしゅうございます」
「いや、いいんだ。
最後の一言は自分へのせめてもの
そうこうしているうちに、空飛ぶ馬車は結構な距離を進んでおり、目の前には四方が
「大神官様。あちらが私どもの
「おお、あれがかね」
都というが、少し大きめの街といった
さほど背の高くない建物が立ち並んでおり、街の外れになると田畑や牧場が広がっている。中心部分には正方形をしたひと際大きい建造物が
「あの中心にあるのが大神殿となります。都で一番の建物ですのよ。私や大神官様の住まいとなります」
「ほう、素晴らしいな」
大学生の頃は異国を旅して、様々な世界遺産を見て回った経験がある慎太郎だけに、あの手の
空を駆けるという非日常的な状況も
壊れた建物の屋上に上り、補修作業を行っている人々が手を振っているのが見え、慎太郎も思わず手を振り返してみる。まるで
と、そこで、
「大巫女様、この後はどうされますか?」
「そうですね……。せっかく乗り物が素晴らしい仕様になったことですし、クオーレ、このまま行って頂けますか」
「
慎太郎のため天馬の速度を少しばかり落としていた御者クオーレは、大巫女の言葉を受けて再び
「どこに行こうとしているのかね」
「せっかくなので、
「なに?! ま、まさかいきなり最終決戦というやつかね!」
全く心の準備が出来ていなかった慎太郎は一転、
だが、一方の大巫女はにへら、とした笑顔のままだ。
「今日はまだ準備が整っていないので、
「なんだ、そういうことか」
ホッと胸をなでおろすが、進行方向の奥に見える黒い柱にしか見えない巨大な姿は近づくにつれ、それが信じられないほどのサイズであることが分かってきた。
あまりにも実感が湧かないレベルだ。天を
「黒き神は都へと着実に歩みを進めています。といっても、その速度は実に緩慢なもので、一時間に一度、一歩ずつ進んでいくのです」
「ふうむ、であればまだまだ時間はあるのかな」
「そうですね。私どもの軍師であるマリーナ様が計測したところによると、約20日ほどの
「滅ぼすのではなく、封印でよいのかね」
「黒き神もまた、この世界を構成する柱と言われておりますので、消滅すると世界の
「なるほど……」
話を受けている間に、一行は黒き神に近い位置まで
近づいても攻撃してくるという素振りは特にないが、時折、黒い身体の一部がはらりと
どうやらあのようにして、
その後、黒き神は特に動くことなく表面を
「クオーレ、距離を取って!」
「はっ!」
少女の、今までになく鋭い声に、慎太郎は思わずびくっとする。
馬車はすぐさま反転すると、一気に加速し、距離を取る。
その直後、見上げても視認しづらいほどの高さから、大きな黒い粘り気のある塊が黒き神の足の辺りにぼとり、と落下する。
それは見る見るうちに大きく
「何てこと。もう巨人を産み出せるまでの力を取り戻したのですね」
「何だ、あの黒いの、こっちに向かってくるぞ!」
巨人は明らかに慎太郎達を知覚し、
「あれは、黒き巨人という強力な眷属です。先程の黒き獣のようにかなり好戦的なのです」
クルマ並みの速度で、馬車のスピードを
しかも。
「何か飛ばしてきたぞ!」
両手を前に突き出すと、指の部分から黒い針のようなものが
「大巫女様、いけますか?」
「ええ。力も回復しました。私が
そう言って大巫女は荷台の後部に立つと、何か
三太郎には聞き取れない、とても不思議な
それに黒い針が接触した、その瞬間。
ギィン、と金属同士が衝突したかのような強い音と共に、針は真横に弾かれて、そのまま
「おおお、すごい能力じゃないか!」
「うふふ、守りの結界というやつですわ。
少し嬉しそうな表情を浮かべながら、目は集中を切らさず真剣そのものだ。
黒い針を完全に捌ききると、慎太郎へ
慎太郎は得られたこの貴重な時間で決定的な符を探していた。そして、一つの符に答えを見出す。それは、
「黒き巨人よ! これでも食らえ!」
あこがれの
ジャイアントキリング
やりとげる
符と慎太郎の頭は
すると、にわかに雷雲が立ち込め、空は暗さを増し、そこから
黒き巨人はその一撃により激しく震え、急速に
「慎太郎様! さすがですわ!」
「はっはっは……」
娘と同じくらいの少女に横から勢いよく抱き着かれ、妻子持ち四十六歳男は恥ずかしいやら、何となく申し訳ないやら、役に立てているのが嬉しいやら、複雑な気分でそのまま笑い続ける。
そんな彼の頭部を
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