第二髪 森の中 回る轍で 目を覚ます
ガタガタガタッという大きな音が床から鳴り響き、慎太郎は
地震でも起こったかと思い上半身を起こそうとするが、長い眠りから起きた直後のように身体がうまく反応してくれない。
視界に映るのは、どう見てもリビングの光景ではない。
空は
床からの振動は相変わらず続いている。どうやら、乗り物の上にいるようだ。
意識がやけに遠い。夢を見ているような感覚だ。
軽トラの荷台にでも乗せられたのかと思ったが、回りの囲いは金属製ではなく、明らかに木で作られたものだ。
何より──。
馬のいななきが、聞こえる。
「お目覚めになりましたか、大神官様」
景色が流れていく中、やけにおっとりとした声が横からふわりと降りてくる。
そちらを見ると、そこには桜色を薄めたような髪色の少女が一人、笑顔で座っていた。
「君は……」
慎太郎は声をかけようとする。が、その瞬間、荷台が大きく揺れる。何かに追突されたかのような
ようやく動くようになった身体を何とか起こし、後方を見る。
そこには、信じられない光景が展開されていた。
ソレは、ソレらは、世界をそこだけ塗り潰したように
先程の衝撃はその一匹がぶつかったものだろう。荷台後方の
ソレらは明確な敵意をもって、この馬車を狙っていた。
慎太郎はどうしたらいいか分からず視線を泳がせると、ちょうど少女の
にっこりと
そして顔に右手を
とにもかくにも、絶体絶命であることは間違いないだろう。
慎太郎は少女へ
「君、この場を切り抜ける方法はあるのか」
「
そうこうするうちに、森を抜ける。と、一気に視界が明るくなる。
ちょうどそのタイミングでに黒き獣がまた一匹、荷台の左端に衝突する。
「私は何をすればいい?」
「こちらの
「……君では無理なのか?」
「私達にはこの文字がうまく
言いにくそうに口ごもる少女を尻目に、細長いの紙切れを受け取る。
少し厚みのあるそれには、こう書かれていた。
やみはらう
ひかりかがやく
とうちょうぶ
何と言うかこれは。どこをどう見ても。
「俳句、いや、
慎太郎のツッコミに、少女はぱあっと表情を明るくする。
「さすが大神官様、お分かりになるのですね! 今は違う名がありますが、確かに
少女の言葉に違和感を覚え、慎太郎は符に再び目を落とす。
どこをどう見てもひらがなである。
少女ほどの年齢であれば、海外育ちでもなければさほど読むのは難しくないだろう。少なくとも日本語を話すことが出来るのであれば、何とかなりそうなものではある。
─―私達にはこの文字がうまく詠めないのです。
その言葉の意味を認識し、ようやくここが尋常でない場所であることを脳が理解し始める。
すなわち、海外か、あるいは。
側頭部にかいた汗がつるり、と
……ともかく、だ。
「君! 話は後で聞かせてもらうからな!」
慎太郎はそう叫ぶと、異形達と
眼前の漆黒は、荷台が
慎太郎は必死の形相で符を前に突き出し、その句を詠みあげる。
「やみはらう! ひかりかがやく! とうちょうぶ!」
刹那、符が淡く発光し、同時に慎太郎の頭部もまるで太陽のような輝きを放つ。
「おおおお!」
慎太郎は頭に急激な熱と高揚感を感じ、符を持った手をさらに強く突き出す。
すると、そこから光弾がいくつも飛び出し、迫り来る黒を片っ端から薙ぎ払う。
直線的な動きの猟犬達は、もろにその一撃を食らい、
それは、ものの数秒の出来事であった。
その全てを微笑みながら見守っていた女性は、事が終わると慎太郎に抱きつく。
「大神官様! さすがですわ!」
「いやあ……。はっはっは、私もたまにはやるんだよ」
熱を帯びていた頭部は急激に温もりが薄れ、寒々しさすら感じる。
が、心の
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