あおぞら

カント

本編

 雨の中を泳ぐ魚がいる。


 地元のそんな伝説を知った僕は、遠くに引っ越すことになった親友に提案した。


「転校する前に、二人で魚を見よう」


 それから僕らは、放課後の雨を渇望した。雨の日は校舎の最上階から町のあらゆる場所を見回した。引っ越しの前日まで。


 結局、この上ない快晴の日に、彼は転校していった。




 居酒屋に彼が入ってきて、僕は右手を挙げた。


 仕事の都合で故郷に帰ってきた彼と再会し、こうして偶に飲むようになって、もう数年経つ。


「魚は見れたか?」


 彼は決まってそう尋ねる。僕は笑って首を振る。尋ね返すと、彼もまた笑って首を振る。



 きっと、魚は泳いでくれていなくて正解だったのだ。



 ハイボールを片手に、僕はふと、そう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あおぞら カント @drawingwriting

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ