最終話
みんなのお別れの言葉を聞かずにすぐにあたしは召喚転移魔法で出来たブラックホールの中に入った。
一瞬のうちにあたしのいる寮の部屋に戻った。
机に置いてあるスマートフォンを起動して日時を見ると魔法使いのエリスが呼んだ日だった。
「戻れたのね」
実感は最初は湧かなかったが、時間が経つにつれて戻ったのだと感じて実感が湧いた。
「さて、じゃあ勉強しますか!」
※
異世界からあたしの世界に帰ってから半年間経ち、弁護士育成学校の成績が良くなった。
別に驚くことでもなかった。
「奈々子! 一体どうしたの? ちょっと前まで二番の成績だったのに模擬裁判でクラストップの佐々森君を追い抜いて学年一位になるなんて! 今期の成績表が今日出たから噂になっているわよ!」
同じ寮の部屋にいるクラスメイトで女友達の山田にそう言われて、あたしは異世界の裁判のことを思い出した。
そう、あの異世界での裁判の経験が生きていた。
今思えば弁護士として成長させてくれた良い体験だったわね。
「まあ、あたしも色々経験積んだからね。模擬裁判くらい出来て当然よ。っていうか今期の成績表貰ったけど、まだ見てなかったわね。どれどれ……おおっ! 山田の言うようにあたしがトップみたいね」
「色々経験を積んだ?」
山田がキョトンとする。
あっ、やばい。
異世界のこと言っちゃダメか。
「と、とにかく頑張って勉強したのよ。ほら、あたし二番だし、佐々森君はトップでしょ? 二番が成績でトップに変わるのは別に珍しいことじゃないわよ?」
「そ、そうだけど。それにしても奈々子なんかプロの弁護士みたいに模擬裁判をこなしてたし、佐々森君とは二番とトップとはいえ結構差が開いていたような気がするわ」
うっ、マズい。
バレそう。
山田は模擬裁判以外でも結構鋭いところあるから、異世界のことバレると大騒ぎだわ。
まぁ、バレても信じるわけないでしょうけど。
今までの出来事を話しても、きっと難しいフランス映画を見た後のわけがわからない表情するだろう。
とりあえず話を誤魔化すか。
「あ、明日も授業あるし、そろそろ寝ましょう。就寝時間そろそろよ」
「えっ、う、うん」
パジャマに着替えて、部屋の電気を消して寝ようとした時に異世界のことを思い出した。
殺されたアンジュ達のことを思い出した。
あの時事件を起こさずに止めることが出来たら、悲しい思いをせずに済んだかもしれない。
でも色んな事件が起こる前に止めることがいつも出来たらあたしは超能力者だろう。
結果として起こるべくして起こった殺人事件だった。
誰にも止められなかった。
あたしに出来たのはその後の真犯人を見つけ出す裁判だけだ。
モンスターも人間も命はひとつしかない。
殺されて無くなった命が受け入れるにはあまりにも残酷で辛く悲しい。
あたしがこのまま弁護士になったとしても死んだ人間の為に報われる弁護が出来るのだろうか?
いつかのゾン太郎さんとの寝る前に悩んでいた馬車での疑問と不安が戻ってきた。
「あたしなんかが、これから多くの人を助けられる弁護士になれるのかな……」
ぼそりと呟く。
お母さん、あたし本当に弁護士になるべきなのかしら?
『大丈夫だゾン。奈々子さんは立派な弁護士になれるゾン』
「ゾン太郎さん!?」
どこからか声が聞こえてベッドから起き上がった。
「な、何よ? 奈々子、もう寝る時間でしょ? なんかあったの? ゴキブリでもいたとか?」
山田が目をこすりながら電気を付ける。
幻聴かしら?
確かにゾン太郎さんの声が聞こえた。
立派な弁護士。
立派な弁護士か。
そうよね!
お母さんが殺された時から弁護士になるって誓ったじゃない!
他の誰のためでもなく、あたし自身のために弁護士になる。
お母さんはきっとそんなあたしを天国があれば空の上で笑顔で見てくれるはずだわ!
「山田」
「なに? もう眠いんだけど」
「あたし世界中で弁護士を必要としている多くの人を救える立派な弁護士に必ずなるわ!」
「そんなの当たり前じゃない。だから私達弁護士目指しているんでしょ? もう寝るわね。おやすみー」
そう、弁護士になるなら当たり前のことだ。
人々を犯罪が起きた後から弁護で守らねばならない。
そして正確に法律で裁く。
それで失った命はそれできっと救われる。
そこに迷いはない。
それがお父さんのような一流の弁護士の在り方だわ。
そうよね?
異世界の社会で平和に暮らすみんななら、あたしがそう答えたら、全員がその通りだと言うわね。
それはあたしの世界でも同じことだわ。
あたしは電気を消してベッドに入って、異世界のことを色々思い出しながら微笑んでいた。
お母さんを殺した犯人は異世界裁判であたしが裁いた。
これでお母さんは少しだけ報われた気がする。
あたしの中で苦しんでいた気持ちと決着がついた。
これからは他で苦しんでいる人の為に裁判をして弁護する。
そう……そうだ!
あたしがそう思ったから、後はその先に進むだけよ。
これからはあたし以外の人の為に裁判をする。
見てなさい!
あたしは将来凄い弁護士になるわ!
※
「ここに大きな証拠品があります! よって無罪を主張します!」
あれから数年経った。
弁護士育成学校を卒業し、付属の法律大学に進学。
首席で卒業したあたしは、今法廷で裁判をしている。
あたしは若いながらもやり手の弁護士として有名になっていた。
そんなあたしにお父さんも驚いていた。
これからも多くの人を救うためにあたしの弁護士への道は続く。
そう、弁護士としてのあたしの正義と真実がある限りその道に終わりはない。
女弁護士候補生の異世界裁判 碧木ケンジ @aokikenji
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