第40話

「奈々子さん。デニス最高局長が奈々子さんの世界に戻す魔法使いを外で呼んで待機しているゾン」




「そうなの? じゃあ急がなくっちゃ!」




 やっと帰れるのね。


 短い期間だったけど、この異世界で過ごした時間はとても濃密だったわ。


 あたしはパンプキン所長とゾン太郎と一緒に裁判所から出ていった。







 外に出ると、デニス最高局長とオルデラーンド神殿のフローレさんに魔法使いと思われる老人などがいた。




「奈々子君。ありがとう。アンジュもきっとさっきの裁判で報われるよ」




 デニス最高局長はそう言って頭を下げた。




「い、いえ! そのアン……娘さんのことはあたしでは事件を止めることが出来たかもしれないのに結局ただの弁護で犯人を裁くことしか出来ませんでした。お礼を言われることじゃないと思ってます」




「これからは今以上に最高局長として弁護士や検事の試験を厳しくしたり、今の弁護士や検事に真実に近づけるような制度を検討するよ」




「あたしもそうした方がいいと思います。それでは」




 あたしはデニス最高局長から離れてパンプキン所長に頭を下げた。




「今まで短い期間でしたが住み込みさせてもらってありがとうございます」




「あいや! 困っている者を助けるのが弁護士である! 出来れば囲碁の相手にでもなってほしかったのである!」




「えっ?」




「あいや! ウッテガエシ、シチョウ、ゲタ、オイオトシ、セキ、アタリ、ヨセなど囲碁のルールを教えてあげたかったのである!」




 せ、専門用語?




「あ、あはは……あたしは囲碁とかしないのですいません」




「あいや! 冗談である!」




「えぇ?」




 冗談に聞こえなかったんだけど……。




「あいや! 元の世界に行っても我輩たちのことと裁判を忘れないでほしいのである」




 パンプキン所長はそう言って握手した。


 その時に忘れたくても忘れられない二つの裁判を思い出した。


 ここの異世界裁判の経験を無駄にしないっと心の中で誓った。




「ドウモ ナナコサン」




「うわっ! びっくりした!」




 誰かと思えばパンプキン所長の隣にオーク警察のゴン蔵さんがいた。




「オワカレ デス」




 そういえばゴン蔵さんは色々なところで現れたわね。


 あたしに多少の寂しさがあるのかも。


 ちょっと気になることがあったから聞いてみるか。




「今まで裁かれた犯人は牢獄にいるんですよね?」




「ハイ ソウデス」




「魔法とかで鍵開けられて脱獄とかあるんではないんですか?」




「ソレハ アリマセン」




「もしかして留置所や牢屋は魔法を封じているとか?」




「ハイ ソウデス」




 なるほどそれなら安心か。




「ゴン蔵さん。あんまり話すことは無かったけど弁護協力ありがとうございました」




「シゴト デス カラ キニシナイデ クダサイ」




「これからもお仕事頑張ってください。さようなら」




「サヨウナラ ナナコ サン」




 老人の魔法使いが魔法で黒いゲートを開いている。


 そこに移動する前にオルデラーンド神殿のフローレさんがいた。




「奈々子さん。短い間でしたけど、あなたとのご縁があったことを神に感謝します」




「そんな大げさな。大した人間じゃないですから……あっ、聖石お返ししますね」




「では奈々子さんの聖石いただきます」




 あたしはフローレさんに聖石を返した。




「さようなら奈々子さん。あなたに神のご加護があるように祈ります」




「ありがとうございます。さようならフローレさん」




 ゲートのすぐそばに紙袋を持ったゾン太郎さんがいた。


 相変わらず手を激しくブラブラして足を屈伸している。




「ゾン太郎さん。お別れね。色々とありがとうございました」




「いえいえだゾン。あっ、奈々子さん。これ奈々子さんの制服だゾン」




「持ってきてくれたのね。良かった制服ないことすっかり忘れてたわ」




 ゾン太郎さんから制服や下着の入った袋を貰った。




「下着は妹のゾンビのゾン子が入れてくれましたゾン。ゾン子はここにはいないですが聖石で連絡して渡したことを伝えますゾン」




「ありがとうございます」




 制服が無いと元の世界に戻った時に質問攻めされて異世界のことバレそうだから安心したわ。


 っていうかゾン太郎さん妹がいたんだ。


 ちょっと意外ね。


 まぁ、それはいいとして……そろそろ行くか。




「それじゃあ、皆さん、さようなら!」

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