第39話
「三菱有三、いや甲冑男のゴン。あなたはアンジュを後ろから人目のない場所で睡眠薬の布をアンジュの鼻にかぶせた」
「ナナホゥ。それが事実ならアンジュが寝ている時間に担いでダヤンの廃墟まで移動したと言いたいんだな?」
「はい、そして予想外のことが起きた。それはアンジュが殺される前に目覚めて抵抗したのです」
「あいや! では抵抗したということは剣を抜いて甲冑男のゴン殿と斬りあったのであるな?」
「ええ、そして三菱有三もとい甲冑男のゴンはアーマーブレイカーソードの周りに血を流して地面に血が落ちたのです」
「ナナホゥの言う通りなら、それで実力のあった甲冑男のゴンはその後アーマーブレイカーソードでアンジュの鎧ごと貫通して殺したというわけだな」
「あいや! アンジュ殿の鎧は魔法や今回の睡眠剤の効果を弱めるアダマンタイト製の鎧だったのである! つまり甲冑男のゴン殿はその鎧の効果を知らずに犯行したのであるな! これで決定である!」
「なるほど、ナナホゥとパンプキン弁護士の言う通りだな。これだけ重要な証拠があるともう確定だろう」
「な、奈々子さん。僕の持ってきた証拠は役に立ったゾンか?」
それぞれが言い合っているうちに黙っていたゾン太郎さんが低い声で不安そうに言った。
「ええ、それはもう決定的な証拠ですからゾン太郎さんのおかげです」
それを聞いてゾン太郎さんは手を激しくブラブラさせながら足を屈伸していた。
たぶん、動作が早いから喜んでいるのだろう。
さて、一度はイライラさせた相手だが今は冷静になれる。
お母さんの仇を取る瞬間が今ここにある。
深呼吸して甲冑男のゴン、もとい三菱有三をまっすぐに見る。
見た相手は汗をダラダラ流して、震えている。
この異世界裁判での弁護士候補生としての最後の言葉を言おう。
「甲冑男のゴン、いや……三菱有三。あなたがオードリの町のアンジュ殺害事件の犯人です!」
「ぬ、ぬ、ぬ、ぬがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……!!」
甲冑男のゴン……いや、三菱有三は大きく叫んだ。
これで決まり、そして終わりね。
お母さん、あたし仇を取ったよ。
あいつを裁くことが出来たわ。
※
「トロルのゼニスキーさんと甲冑男のゴンさんはそれぞれ殺人罪として数日後に懲役を下しますドラ」
ドラゴ裁判官がそう言って木づちを叩く。
「そういえばどうして甲冑男のゴン、もとい三菱有三はワイズマンを交換殺人にしたんですか?」
「あいや! それはワイズマン殿は代々伝わる風のクリスタルという家宝が金庫にあったのである」
もしかしてオルデラーンド神殿でアンジュ殺害後に甲冑男のゴン、もとい三菱有三が聖石で連絡していた家宝はあったのかという言葉はそれに関係しているのだろうか?
「ナナホゥ、裁判は俺の勝ちだ。だが、勝ったとは言えねえ、お前さんもしかしたら将来良い弁護士になるかもしれないぜ。あばよ!」
ツムラ―検事はそう言って裁判所を出た。
「ドラゴ裁判官。良いんですか? ツムラ―検事が勝手に裁判所を出たんですけど……」
「犯人が決まったのでもう大丈夫ですドラ」
普通あたしのいる世界の検事や弁護士は最後まで残るんだけど、ちょっといい加減ね。
さて、パンプキン所長が言っていた風のクリスタルについて聞いて見るか。
「パンプキン所長。殺されたワイズマンさんの持っていた風のクリスタルは高価な物なんですか?」
「あいや! あれを売れば遊んで一生を暮らせるくらい高価なものである」
なるほど。
つまり魔法使いのエリスの人魔大戦の時の棍棒窃盗事件と同じ目的だったということか。
盗んだら後は闇市場とかで売りたかったが、持ち主のワイズマンさんが邪魔だから殺すって動機かしら?
「あいや! 奈々子殿の思っていることは分かるのである!」
「えっ?」
「ワイズマン殿は風のクリスタルを自室の奥にある鍵が六つある大きな倉庫にしまわれていたのであるが、怪盗に風のクリスタルを盗まれていたのである」
「怪盗?」
「七年前の話であるが、奈々子殿と同じ異世界から来た甲冑男のゴンはそんなことを知らなかったのである! そして、それを知らずに殺人を行ったのである!」
なるほどそう言う動機があったのね。
「でも盗まれたことにワイズマンさんは分かっていたんですか?」
「あいや! 知らないままで鍵は全部ワイズマン殿が持っていたので殺されたのであるが、現場は風のクリスタルのある倉庫のドアを開けて怪盗の盗んだ印のカード以外は空っぽだったのである」
殺されたワイズマンさんはそれだと七年間倉庫を開けていなかったということね。
事件への疑問は全部消えた。
トロルのゼニスキーと甲冑男のゴンもとい三菱有三がどうして出会ったかは知らないがもう終わってしまったことだ。
アンジュのようなリーフ殺害事件みたいな裁判は今回はしていないとあたしは自信を持って言える。
裁判が終わった後でも視聴席の周りがざわざわと騒ぐ。
「あの異世界弁護士またやってのけたぜ。すげぇなぁ!」
「まさかこんな事件だとは思わなかったぜ」
「ツムラ―検事の勝ちだったが、真犯人突き止めたのが驚きだ」
「あの弁護士将来が楽しみだ。さて、裁判終わりだし俺ら帰るしかねーな」
だから弁護士じゃなくて弁護士候補生だって!
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