第38話

 まさか母さんを殺した男が異世界にいるなんて思わなかったわ!


 ああ!


 イライラする!


 不快だ!


 裁きたい!


 こいつが犯人だと今すぐ言いたい!


 当時の指名手配の紙とニュースで名前や顔は覚えていた。


 こんなところで名前も隠して生きていたとは思わなかったわ。




「ああ、そういえば車で逃げている時にひき殺した女がいたな。まぁ、あの事件はほぼ時効だ。この世界ではその事件は裁けないだろう。残念だったな」




「あんたが交換殺人でアンジュを殺したのは間違いないわね!」




「あいや! 奈々子殿落ち着くのである!」




「ナナホゥ。どんな事情があったかは知らないが甲冑男のゴンはここではまだ犯人だと決まって犯罪をしていない。今はただオードリの町のアンジュ殺害事件の犯人に疑われているだけだぜ」




 ツムラ―検事やパンプキン所長の言う通りだが、こんなことになったら落ち着けなんて難しい。


 ただこのままでも裁判は進まない。


 あの時の証拠を見せよう。




「……では、犯人だと確定できる証拠を見せます」




 証拠はある。


 ダヤンの廃墟で撮影したスライム立体ビデオカメラの映像だ。


 あたしはスライム立体ビデオカメラで撮影したダヤンの廃墟の映像を見せた。


 ゾン太郎さんが血液を採取しているシーンも見せた。




「甲冑男のゴン、いや三菱有三……あなたの血液を今採取して、この事件での血液と同一すればあなたが犯人だと確定できる」




「ナナホゥ。それならペンタゴン刑事がオーク警察を使って調査済みだぜ。もし血液が一致しないのなら他の奴が犯人ということになるぜぇ」




「あいや! アーマーブレイカーソードがあるのはオードリの町の神殿とほぼ一致しているのである。ドラゴ裁判官。ペンタゴン刑事をもう一度この裁判所に呼んでほしいのである」




「分かりましたドラ。ではペンタゴン刑事をここに呼んで血液の調査結果を聞くドラ」




 そろそろゾン太郎さんが来る時間だ。


 ゾン太郎さんの採取したダヤンの廃墟の血液を出せば、ペンタゴン刑事の出番はないがもう少しゾン太郎さんが来るまで長引かせないとマズいわね。







 三菱有三にオーク警察のゴン蔵さんが注射器を使って血液を採取してから五分が経った。


 視聴席がざわざわと騒ぎ出す。


 ペンタゴン刑事が法廷にやって来た。


 どうやら血液の調べが終わったようだ。




「報告するっす! アンジュ騎士検事の死体の周りの血と甲冑男のゴンさんの血液は一致せず別々でしたっす!」




「そんなことありません! アーマーブレイカーソードの周りの血液を調べてください!」」




 あたしは声を高らかに上げてそう言った。




「しかし現に血液が別々であった以上はアーマーブレイカーソードの周りの血も調べずとも同じことだと思うっす」




 駄目だわこの刑事。


 調べが浅いというか甘い。


 ペンタゴン刑事が新米のレベルなのがあたしでも分かるわ。




「へへへ……残念だったな、お嬢ちゃん。俺は誰も殺しちゃいないぜ。さっさと無罪にしてくれないか? こう見えて俺は忙しいんだよ」




 ここでこいつを無罪にするわけにはいかない。


 血液以外に何かあったはず。


 冷静になるのよ奈々子。


 ん?


 あ、そうだ。


 指紋だ!




「ペンタゴン刑事。事件現場に布切れがありませんでしたか?」




「あったっす。調べて見ると布の中に睡眠薬のようなものが魔法捜査で出ているっす」




「あいや! それでは指紋は誰かわかるのであるか?」




 パンプキン所長も同じことを考えていたようね。


 それなら真実に一歩近づけられるわ。




「その指紋は三菱有三の指紋で間違いないと思います」




「それでは指紋の一致するかどうかの取り調べを始めますドラ」




「おいおいおいおい! 待てよ、指紋なんて事件と関係ないだろ?」




 三菱の奴焦っているわね。


 やはり言うまでもなく犯人だ。


 その時裁判所の出入り口のドアが開いた。




「奈々子さん、血液の証拠持ってきたゾン!」




「ゾン太郎さん!」




 やっと来てくれたか。




「あいや! ゾン太郎君がここに来るとはどういうことであるか?」




 そういえばパンプキン所長にはゾン太郎さんが馬車で来ることは教えてなかったわね。




「あたしが呼んだんです。大事な証拠を持ってくるためにゾン太郎さんが必要だったのです」




「あいや! そういえばスライム立体ビデオカメラの映像で血液の採取をしていたのであるな」




「ペンタゴン刑事。この血液も三菱有三、いや甲冑男のゴンの血液と一致するか調べてください」




「わ、わかったっす」




 そう言ってペンタゴン刑事がオーク警察のゴン蔵さんと一緒に裁判所から出た。


 三菱有三、もとい甲冑男のゴンは汗まみれになって無言だった。


 見てなさい、もうすぐあんたが有罪になるんだからね。


 お母さんの仇をあたしが弁護で裁くわ!







 十分が経過した後にペンタゴン刑事がオーク警察のゴン蔵さんと一緒に戻って来た。




「検査の結果が出たっす」




「シモン ト ケツエキ ガ イッチ シマシタ」




 オーク警察のゴン蔵さんがペンタゴン刑事の代わりに答えた。


 これで決まりね。


 だが、何故三菱有三の血がダヤンの廃墟にあったのだろうか?


 そこが気になる。


 もしや……。

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