【先行公開】?.革命軍と教皇の雪解け【ネタバレ注意】【先行公開】

「ふっ……皮肉なものだ。よもや『生きてるだけで丸儲け』だと思う日が来ようとはな……」

 すべてを失い、私は、心の底からこうつぶやいた。

「……助けてくれ……神様……」

 虚空に言葉を投げかける。


 その部屋を高台から見渡している女神像が光り輝き、動くはずもないであろう口から言葉を発した。

『……久しぶりだな。よもや貴様から神への祈りの言葉を聞く日が来ようとはな』

 事象Xが問いかけに答える。ただ、怒りや憎しみをぶつけられるほど気持ちは穏やかではない。

「ふっ……笑いたければ笑うがいい。ただ、助けてほしい。それだけだ」

『わかっている。だが、こればかりは無理だ』

「……何……?何を言って……る……?曲がりなりにも創造主、だろ?貴様は」

『この世界では違う。違うのだ』

 ……おい。……返せよ。私の祈りを。

 思考が伝わっているからか、事象Xから謝罪の言葉が投げかけられた。

『申し訳なくは思う。だが、ここは八百万(ヤオヨロズ)の神が居る世界。私ができるのはたった一部のことだけ。私の影響下にあるものに恩寵や死を与えるぐらいしかできぬ。流石にこの事態は想定し得なかった。そして、今となっては恩寵さえも与えられない』

「そう、か……」

 力が使えないのはこういう理由だったのか。こうなれば、あとはもう、あとはもう、一つしかない……。

「……わかった。ならば、私を、この世から、消滅、させてくれ」

 そう。それしか道が見えない。自分に刃を突き立てるのも飛び降りるのも考えたが、腕を動かす気力さえ残されていない。誰か、誰かにすがる他……。

『もう二度と、転生できないとわかっていても、か?』

「……もう懲り懲りだ。こんな世界に生き永らえるぐらいなら、な……」

『わかった。もう何も言うまい。貴殿の望む通り死を授けよう』

 これでいい……。これで、私は総てから開放される。総て、そう、総てから……。

 事象Xは私の周りに漆黒の空間を作り出した。そう。これでいい、これで……。


 タッタッタッ……。

『ば、莫迦な?!』

 事象Xは、遠くの音に耳を傾けた声を荒げた。

「……どうした?」

『この時を止めた空間に人が走ってくる、だと?!しかも複数!!』

 何を、言っている……?

「早くしろ。私はいい。覚悟は出来てる」

『……いや。このような力を持つ、この者たちならば、あるいは……』

「早くしろ、と、言っているっ!!」

 焦燥感にかられ、私は事象Xに実行を急かした。

『……止めだ。この者たちに後を託すとしよう。サラバダー』

「一人で納得してさらばじゃない!!とっとと……っ!!」

 その声は空を切った。いつの間にか、私を包み込んでいた漆黒とともに事象Xは姿を消していた。


 バンッ!!

 私の部屋の扉が勢いよく開いた。

 そこには、革命軍のワールドたち5人が居た。

 私はとっさに身構えるために立ち上がった。よくこんな気力が残されていたものだ。

「……何しに来た。革命と言っても、ここにはもはやもうなにもないぞ」

 そう。このバカチン市国から離れにある別荘には、私以外の住人はすでに居ない。

 今はもう、凶悪な洗脳の力を持つリシュリューがトップのエレキクス連合国家の配下となっている。

「話を、しにきました」

 革命軍のリーダー、中身が小学生のワールドが語りだす。

「もう、よしてくれ。関わらないでくれ」

「だからこそあなたを説得しに来たのです。何をしでかすかわからない今の貴方を」

 実際にしかかったわけだが。

「余計なお世話だ」

 常に真っ直ぐ前を見る。前に共闘していたときから気に入らなかった。その淀みない眼差し。

「教皇様。生きることも、戦いですよ」

「放っておいてくれないか」

 そう。いいのだ。もはやどうでも。

「違います。ワールドさんの言うとおりです。隊長。一緒に生きましょう」

 そこに、軍服に身をまとったメアリーの姿があった。扉の後ろから現れた。

 ん?隊長?確かに私は前世で妖精とも悪魔とも呼ばれていた将校だった。

 何故?何故私のことを隊長と呼ぶ?前前世はともかく、前世についてはワールドにだって語ったことがないというのに。

「先程、ワールドさんが持っている無限タブレットから光を浴びて思い出しました。私は前世で貴方の下で参謀を勤めていたことを」

 ……本当か?本当、なのか?しかし、そんなこと、ある、のか?

「ならば問おう。私が率いていた中で最大の兵力は何だったのか?」

「コードネーム:シルフ。戦闘団で歩兵隊、機甲中隊と砲兵隊が居ました。基幹部隊は私どもの大隊でした」

 よどみなくメアリーが答える。大隊のことさえも知っているとは。

「次。戦後、私が社長を勤めていた会社の事業を答えろ」

「人材紹介、航空会社をカモフラージュにした民間軍事会社です」

「次に、私は前世で何歳で亡くなったか?」

「107歳、新型コロナで。傭兵会社の社員の人から連絡を受けました」

 次から次へと私の質問に、間違うこともためらうこともなく答えていく。

 まさか、そんな、まさか……っ!!

「では、これが最後の質問だ。私は死の間際にある人間にSNSでメッセージを送ったが、その内容は?」

「『今のコーヒーは、勧められたインスタントのドルマイヤーでも十分美味しいな。礼を言おう』、です」

 ……よもや間違いようがない。彼女はっ、彼女は……っ!!

 そうだ。そうだった。私以外にも転生・転移してきた人間が居るこの世界で、私と同じ前世の世界から同様に転生してくる人がいる可能性を、何故私は考えつかなかったのだろうかっ!!

 ガクッ。私は、全ての力が抜けたように膝を地面につけへたり込んだ。

「もう、無理しなくても、良いんですよ。隊長」

 穏やかな声で私の肩を正面から抱きとめる。軍服に似つかわしくない石鹸の匂いが優しく香る。今まで、決して味わったことがない人のぬくもり。


 抱きとめられてから20分後。私こと妖精教皇は身を奮い立たせた。

「大丈夫、ですか?」

 ワールド。その大柄のガタイとは似つかわしくない優しい言葉を私に投げかける。

 中の人間が小学生なのだから当然なのだが。

「大丈夫だ、問題ない。だが、やるべきことは、ある。付き合ってくれないだろうか?戦いになるが」

 もう迷うこともためらうこともない。ワールドたち革命軍6人に問いかけた。

 彼らも同じ考えのようだ。

「うん」「行き先は」「もちろん」

「「エレキクス連合国家」」

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ランドセル革命~ランドセルの代わりに革命軍を背負うことになりました~ まとめなな @Matomenana

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