離れているから分かち合える 2
瑞穂と出会ったのは世間のいう青春をやっていた時だった。
同じ出身地だからと理由をつけて話かけてきた男と適当につるんでたらいつの間にかずるずると彼氏彼女になっていた。昔から背が低く、童顔であった私は誰からもかわいらしいとか小動物みたいだとか散々いわれてきたしそれが嫌で遠く離れた都会の大学に進学したのにも関わらず状況は変わらなかった。けど少なくとも理由と動機はともあれ彼は私をそういった言葉で表さなかったし、少しは彼の隣は居心地がよかったんだ。
「最近さ近所に喫茶店ができたんだよ、行ってみない?」
いつもの軽い調子で他の女の子の匂いを振りまきながら彼は誘ってきた。それまで他の女の子匂いがしても私のしらないところですれ違ったとか同じ授業を受けたのだろうとか思っていた。けど最近はあからさまにその匂いが強い、彼に私という存在がいると相手の女の子が気が付いたのだろう。そして私を彼から引き剥がそうとわざと匂いをすりつけているのだと、だから彼の態度がよそよそしいことにも気づいた。
別に彼に未練のあるわけではない、ただ自分の居場所が一つ失われることを恐れていた数少ない私の居場所…。そんなときに喫茶店に誘われるなんてべた過ぎてドラマのヒロインにでもなった気分だった、もちろん振られる側に。覚悟はしてたしそうなるんだろうという予感もあったし、どうしようもないのだろうという諦めもあった。
「…別れよう」
だから、その言葉を聞いた時頭に血が上って反射的に彼を平手で打つなんて行動に現れるなんて考えもしなかった。どうしてという思いが6割と当然というのが2割
残り2割はぐちゃぐちゃして説明できない、逃げ出した。
走って走ってドロドロ解けるまで逃げ続けたいと本気で願った。けどその願いは突然現れた女に横っ面からさらわれるのだ。
「飲みに行きませんか?」
「はっ?」
え、何言ってるのこの人怖い!?
傷心の女を追いかける男ならまだわかる。けどまさか女とは…珍妙なこともあるもんだなぁ。って違う。
「どういうこと?」
「飲みにいきませんか?」
「違うそうじゃない」
「?」
なんで不思議な顔してんだ。自分の言ったことわかってるのか?ていうかきれいな顔してるな。
気が付いたら居酒屋にいて目の前にジョッキになみなみと注がれたビールが泡立っていた。
「どうぞ飲んでください、支払いは持つんで」
違う、そうじゃない!
その距離に 河過沙和 @kakasawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
コミックマーケットに行った話/河過沙和
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 5話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます