離れているから分かち合える

 これは断じて遠距離恋愛などではない。ただ出身地が同じ女二人がふと寂しくなった時にお互いの温もりを求めて離れた土地で通話する、それだけなのだ。

「最近さぁ、暑いじゃん。でさぁちょっと涼しい感じのワンピース買ったんよ」

「あれ?昨日画像送ってきたやつ」

「そうそう、白くて端がふわふわしてるやつ」

 会話は大体お互いの近況報告だとか近所のおしゃれな新しい店だとか自分の身の回りの話になる。今でこそ親しい間柄ではあるが最初に彼女と出会ったのは本当に偶然だった。

 当時の私は両親はお前の好きなようにやりなさいと励ましだか諦めだかわからない言葉で都会へと送り出され、就職活動をしていたのだが都会に縁があるという地元の友人とは家を出た時から疎遠になっていたし、当然私自身に縁故のあるものではなく就職活動は遅々として進むものではなかった。

 そんな折、近所に喫茶店ができた。地元出身の人が店主を務める、食材の産地を地元に限った料理を出すというなんというか奇特な店だった。私も興味をそそられ一回は行ったものの結局苦い思い出と両親の顔が浮かんで行くのをやめたものだ。だが、疲れてたまには故郷の味を食べたいと思いふらりと立ち寄った時、居心地わるそうにちょこんと隣の席に座っていたのが彼女だった。

 身長の低さに姿勢の悪さも相まって当時の彼女は本当にちょこんとした印象を受けるほど小さく見えた。店には同じ大学に通っていて、同じ出身地というところから口説かれてずるずると付き合っている彼氏と一緒に来ていた。あまり仲が良くないことが私に伝わってくるほどに剣呑な雰囲気を漂わせていたので私は関わらないように静かに(季節のスープだったか甘いニンジンがおいしかった)を啜って様子を伺いつつあった。

「なぁ恵、俺たち最近うまくいってないような気がするんだ」

「そうね、一緒にいても楽しくないし」

「…別れないか」

 恵は信じられないようなものを見るように目を限界まで見開いた後、勢いよく彼氏に平手をお見舞いすると急ぎばやに店を出て行った。

 あの時の私が不思議だったのはなぜか自分で振っておきながら傷心の男のほうではなく彼女を追いかけたことだ。

「あの、待って!」

「…何?」

 あぁ背の低さに(今、気付いたことだが)童顔であることもあって不機嫌な顔をしているのにかわいらしい。

「飲みにいきませんか?」

「はっ?」

 多分ストレスとか故郷の味から湧き出た望郷の念だとかで頭がどうにかなっていたんだと思う、癒しを求めていたのかも。

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