不毛な内乱を治めてさっさと未来志向で物事を考えよう

 そもそもとして反乱軍はニューバランスの横暴に対抗するべく地球軍から離反したものたちも多く含まれている。母体となるのは各地の植民惑星、その自警団や警備隊である為、戦力の殆どは旧式である。

 それを補うように、地球軍からの離反者たちは最新鋭のマシンをなんとしてでも奪取し、それを手土産に合流を果たすのである。


 だが、根本的に金のない反乱軍と経済基盤のあるニューバランスとでは兵器更新の速度が段違いで、別に新型のテウルギアを開発しなくても中身のアップデートを考えれば、同じマシンでも実際は大きく性能が異なってくるのである。

 それに対抗して反乱軍はゲリラ的な活動や、独自の兵器開発を推し進めていくのだが、工業系の施設、それに資源の多くを地球側に取られていることを考えれば、その進捗は芳しくないことは想像に容易い。


「この要塞を手土産にすれば、反乱軍は私の事を認めるかな?」


 しかし、ここで大きな動きがあった。

 元ニューバランスの高官。さらには実質的な軍のトップであるアンフェールの直属の部下であった男が離反を果たし、宇宙海賊を名乗り、新型テウルギアを用いて、軍の要塞基地を奪還、制圧を果たすという信じられない出来事が起きた。

 なおかつ所属する軍のメンバーのほとんどがそれに呼応して、一時的な協力ないし活動の妨害を行わないことを宣言したのである。


「うちらにはまともに基地と呼べる施設はなかったんだ。これはデカいよ」


 軍艦内部とはくらべものにならないほどに大きなブリーフィングルームに集まったのは艦長クラスの高官たちだった。

 そこには当然、省吾、ロペス、ジャネットがいてそのほかにも生き残った反乱軍の艦長三名、そしてもともとこの基地にいた高官たちである。

 彼らは今後の活動について話し合うこととなっていた。過程はどうあれ、軍の施設を占拠したとなればニューバランス側の攻撃は必ずくる。

 だがここも要塞基地である。内包する戦力を単純に計算すれば彼らとておいそれと手は出せない。

 どれほどかはわからないが、その時間的余裕があるうちに対策を考えるというのだ。


「しかし、要塞基地とはいえこの一基のみ。当たり前だけど、ここに反乱軍の全戦力を集めるだなんてアホなことはできない。そうなれば袋叩きに合う。いくつか、増援は回してくれるだろうけど、あたしら反乱軍の基本はゲリラにある」


 ロペスの言うことはもっともだった。基地があると余裕になれるわけではない。そもそも軍にはこれらを攻略する戦略兵器であるプラネットキラーが存在する。

 本格的な攻略ともなればまず間違いなく使ってくるだろうが、同時にかつての友軍にこれを撃ち込めるかという駆け引きも出てくる。

 仮に、これを強要させるようなことがあれば、反ニューバランスの感情はさらに高まるだろう。

 惑星破壊は隠蔽を続けてきても、今回は違う。それが不可能だ。

 なにせ宇宙海賊ヘルメス名義で基地の乗っ取りに成功という大々的なパフォーマンスも行っているし、なによりここには死んだと言われた少女がいる。

 これを攻撃するというのは市民感情を逆なでることにもつながる。


「実を言えば、私はあまり基地の所有にこだわっていない」


 ここで省吾は意外なことを口にする。

 せっかく手に入れた基地に興味を示さないという発言はさすがに多くのメンバーを驚かせた。

 基地とはつまり、城。拠点である。それを手に入れたということは活動の土台を作るに等しい行為だったからだ。

 ここには一応の資源もあり、艦艇や機動兵器の修復も行える。むこう、半年は戦えるであろう計算だ。


「私の目的は城を構えての長期戦ではない。もとより、この戦いは内乱に近いものがある。それを扇動するのはファウデン総帥であり、アンフェール大佐だ。ニューバランスの行き過ぎた思想を食い止めれることが出来れば植民惑星の弾圧事態は見直されるだろう。もちろん、その後の事も重要になる。だが、これは政治家たちの仕事だ」


 古来より、軍の反乱を成功させ、指導者となった者が統治を成功させた例は少ない。なにより省吾に政治はわからない。手前勝手と言われるかもしれないが、彼の目的は事実そうなのである。

 ムカつく上司を殴る。馬鹿なことをやめさせる。少なくとも件の暴走を引っ張るうえの者を止めれば、話し合い自体は設けれるはずなのだ。

 銃を向けて、引き金を引けと押し付けてくる輩がいなくなれば余裕が生まれる。


「つまり、地球へ打って出ると?」


 その質問をしたのは基地に所属していた軍のメンバーだった。


「その可能性はゼロではない。えぇと」

「ヒューゲンと申す」


 男、ヒューゲンは顎鬚の豊かな壮年の艦長であった。おそらく、純粋な階級はこの中では一番かもしれない大佐だった。


「ありがとうヒューゲン艦長。話を続けるが、何度も言うが、私は民間人もそうであるが、軍そのものを敵とは認識していない」

「真の敵はニューバランス。その言葉は信じよう。しかし、ニューバランスといえど、かつての同胞。我々は仲間に銃口を向けるのとよしとしない」


 ヒューゲンはどちらかと言えば協力には否定的であった。だが、省吾らの邪魔はしないという立場でもある。静観を決め込むと言えば良いのか、内乱に手を貸すつもりはないというべきか。それとも、いまだ判断を決めかねているか。

 事実、省吾らに協力を申し出る軍関係者は若手が多い。彼らの愚直なまでの正義感はこういう時利用しやすかった。


「ヒューゲン大佐! しかし、ニューバランスの横暴を許していては、我ら軍人は民間人を虐殺するだけの存在になりさがります!」

「そうです大佐! 連中の暗い噂は軍内部でも有名でありました。事実が隠蔽され、証拠がない故に、今まで強く反論は出来なかっただけです!」


 その言葉は間違いなく正義感に溢れているが、ならば自分たちで行動を起こさないという理由にはならない。

 もちろんそのようなことをすれば、いかなる処分が下されるかは分かったものではない。

 それに……。


「けれど、ここに集められたのは軍内部で疎まれた者だ。正直者は馬鹿を見た者たちよ」


 ジャネットの言葉に、その場は鎮まる。

 そうなのである。この基地はつまり、牢獄とも言えた。正義感がある。正直者である。ついでに言えば長く在籍するだけで給料を取るだけの兵士がここには配属されていた。

 後者はさておいても前者はやる気だけは満ち溢れている。いずれは中央に返り咲こうとやっきになり、任務に邁進する。だが一向に戻れるようすはない。飼い殺しというものだ。

 つまり、前者が次第に後者になる環境である。

 それを監督するのがジャネットの拳を受けた元司令であるわけだ。


「誰かが、きっかけを作らなければ、延々とここで雑用のような仕事をしていた。ちまちまと、無駄な戦いを強いられて、知らず知らずのうちにニューバランスの悪行に手を貸していただけよ。その空気の中で、いざ反撃の機会を手に入れたからといって攻勢に出ても足並みはそろわないわ」


 ジャネットの指摘はもっともである。

 今は、たまりにたまったフラストレーションが爆発している状態だ。ここで、かりに艦隊を組んで攻めても返り討ちにあうだろう。

 連携もなにもない状態で勝てるわけがない。戦力比率は今もニューバランス側が上なのだ。


「ジャネット艦長の言う通りである」


 省吾も同じ考えであった。


「このような戦いはさっさと終わらせるべきだが、今仕掛けても無意味だ。この戦い、決着は軍事力で決めてはならないと思っている。いや、決定的なダメージを与えるのは結局、兵器同士の戦いであろうが、やるべきことは人の心を動かすことだ」


 省吾自身、それが全くの夢物語であることは理解していた。


「私の言葉を聞いて、寝言と思う者もいるだろう。だが、今はそれが必要である。軍事政権の頭目を倒したからといって、結局頭が変わるだけでは意味がない。軍内部にしても、民衆にしても、これは許してはおけぬという風潮を作り上げ、抵抗を示すのだ。諸君らが立ち上がってくれたことには感謝する。だがまだ少ない。私は宇宙に広がる地球軍の面々、そして地球の人々にも立ち上がってもらいたいのだ」


 この言葉もまた酷いものである。

 大人数を巻き込んで圧力をかけると言えばまだまともかもしれないが、ようは民間人も巻き込むというのであるから。

 しかし、根付いてしまった悪しき風習を取り除くにはそのような意識改革が必要であることもまた事実なのである。


「諸君らには、その情報を発信してもらいたい。仲間を増やすのだ。それでもなお撃ってくるのであれば、残念だが、それは敵である。悪行をよしとするものたちだ。かつての仲間であってもだよ」


 むしろこの活動を成功させ、大規模なものにしなければ到底勝ち目はない。

 だからこそ、フラニーを担ぎ出したのだ。彼女の存在は大きな反乱の神輿になる。

 外道の行いだが、もとよりこちらは宇宙海賊を名乗った身。後世の評価はどうでもいいのだ。


「それに、自分の娘を犠牲にするような親に人類を任せられんからな」


 よもや、その親が抱える狂気など知る由もない。

 アニメにおいてはまともな描写のなかったキャラクターに対して、その心理を全て理解しろというのが難しい話なのである。


「とにかく、我々の戦いはやっとスタートラインに立ったと考えてもらいたい。これまでのゲリラ戦は継続するとしても、今後やるべきは情報の発信である。だが、必要以上の捏造はいかん。全て事実を見せるのだ」


 なお自分たちがやったことは棚上げである。


「今回の戦いももちろんネットワークに上げる。奴らは、味方すら撃つということを知らしめるのだ。今後、全ての戦いにおいて、私は、情報を発信する。それは反乱軍側への牽制にもつながると理解していただきたい」


 省吾はそういってロペスの顔を見た。

 彼女も不敵に笑みを浮かべて頷いていた。


「ようはあたしらに正義の味方をしろってことだろう? 打倒ニューバランスを掲げておいて、権利をまるっと手に入れるだけの俗物になるなってわけだ?」

「そうだ。私が恐れるのはそれだ。反乱軍に協力したのはニューバランスを打開する唯一の方法だから。しかし、その反乱軍がニューバランスの代わりになってもいかん。それでは歴史が繰り返されるだけだ。そんなところで足踏みををしているから、こんな戦いが続くのだ」


 同時にそれは己に対する戒めでもある。

 今後、自分たちの行動に非があれば、それは一転して評価が変わることだろう。

 だからこそ気を付けなければならない。


「ともかく、今は修理と補給。そしてできるなら情報を集めたい。ここが軍の施設であれば、今すぐにでもデーターベースから隔離されるわけではないだろう。そして……私たちに協力できぬという者たちは離れてもらっても構わん。後ろから撃つような真似はしないと誓う。先ほども言った通り、私は包み隠さず情報を公開する」


 省吾は必死に、戦略もどきを展開していた。


(しかし……この妙な胸騒ぎはなんだろうな。フィーニッツの目的、アンフェールの野望、これらはわかりやすい。攻撃材料になる。だが、総帥の考えが、俺にはいまだに読めん。娘の事も、コメントはないし、アンフェールの暴走を止める様子もない……アニメにわずかにしか登場しないキャラなせいで、俺はこいつのことだけはとんと読めない。しかし……)


 得体のしれない相手ではあるが、唯一確かなのは、娘のことをないがしろにしているクソのような親であるという事実だ。

 それだけでも、省吾にとっては敵であると認識できる。

 そこにいかなる野望があろうともだ。

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