矛盾と狂気とその場のノリで突っ切るのが原作改変である
命が惜しいから攻撃をする。命が惜しいから敵の懐に飛び込む。命が惜しいから敵を倒す。それらは矛盾した行為であるが、同時に原因を根絶するには一番適した方法でもある。
自らを襲うものを滅することができれば、平和であるというのは一つの真理である。
それを、殲滅に徹するか自己防衛の範囲に留めるかが重要となってくるのだが、省吾の場合はどちらとも言えない。中途半端なのだ。
他者から見ればそれは常軌を逸しているとしか思えない。
しかし、省吾本人の理屈としては、向こうが襲ってくるのだから殴り返すまでという理屈が通っていた。
その空気はうまくミランドラに循環していた。
なにせ、彼らはみな、見捨てられた者たち。使い潰されようとしていた者たちだからだ。そのような勝手を押し付けられて、あまつさえ始末されようとしていた。汚名を着せられ、それを覆すこともないまま、歴史の闇の中に葬り去られようとしていた。
それにノーを突きつけたのが省吾である。そして目的もわかりやすかった。
こんな無茶を押し付けてきた奴に文句を言う。それは純粋で、組織の下部に位置する者たちなら一度は必ずやり遂げたいものだ。
嫌な上司の偉そうな鼻っ柱を叩き追ってやりたいという感情は、何とかして達成したいものである。
さらに、そこへ暴走する首脳部を断罪するという大義名分が合わされば、良くも悪くも、勢いはつくというものだ。
「これは電撃作戦になる。一々、どこそこに指示を仰ぐなどという悠長なことはしておられん」
有無を言わさぬペースだった。
「地球軍の艦艇諸君からすれば受け入れがたい事実かもしれないが、軍を私物化し、圧政と虐殺を行うアンフェール、そしてそれを黙認するファウデン。そしてついでだが、この現状を作り上げたであろうフィーニッツ博士。この三人だけは許しておけんのだ」
とはいえ、省吾はこの三人の因果関係は知らない。誰が、どういう理屈で、どのようにして手を組んでいるのか。
推測はできても、こればかりは実際に確かめてみるしかないのである。
だが、部分的な視点を見ればとにかくこの状況を作り出した原因はフィーニッツにあり、そいつが近くにいるかもしれないというのであれば、捕らえる。
『基地攻略は、我々としては是が非でも行いたいものだ。しかし、我々には機動兵器部隊がいない』
もとより、反ニューバランスを掲げた者たちが。それに連なる地球軍との戦いに関しては比較的協力の姿勢を見せていた。あえて、ジャネット艦隊の事は何も言うまいという姿勢もある。
状況を飲み込んだというべきだろう。納得は、できていない様子だが。
『そちらの、地球軍も十五機のあれは撃墜されているわけだが?』
『……あれらは元は私の部隊ではない』
ジャネット側もここは飲み込む必要があると認識をしたのか、一応は協力的だった。もちろん、隙を見て、攻撃を仕掛けられるという危険性はゼロではない。それは反乱軍側も同じだ。
とはいえ、この場でそれが全く無意味な行動であることは全員が理解している。
ここで撃ち合いを演じても共倒れになるからだ。
『……基地を襲撃すると言っても、具体的にどうするつもりなのかしら。ただ意味もなく、武装状態のまま突入しても意味がないことぐらい、あなたもわかっていると思うけれど?』
ジャネットの疑問はもっともだろう。
「君の識別信号が生きているだろう?」
『は?』
「君はまだ撃沈されていない。そして処分をされるといっても今すぐにではない。ならこうすればいい。我々は見事敵艦隊を撃滅、帰投すると」
だまし討ちの常套手段である。
『それは! 確かに……できなくはない。だが……』
「襲撃すると言っても、基地の者を殺すわけじゃない。何度も言うが、敵を見誤ってはいかん。彼らには、本当の敵と戦ってもらう必要がある。もちろん、一時的にはこちらの捕虜になってもらうかもしれん。そこに関しては反乱軍側の誠意ある対応をお願いしたいところだ」
『それは理解している。我々は、殲滅戦を仕掛けたいわけではない』
反乱軍側の艦長が唾を飛ばしながら叫んだ。
それを聞いて省吾は内心としては「どうだかな」とぼやいた。
反乱軍とて正義の組織ではない。二枚も三枚も岩はあるだろう。中には単純に地球では食っていけない、軍から追われる身となった者が受け入れられている可能性もなくはない。
だが、そこは今、考えるべき部分ではなかった。
「基地を制圧し、反乱軍の拠点として使う。陥落させることは反乱軍側への手土産になるし、ミランドラ側の本気を伝えれるだろう?」
一部、自己保身もあるがそれは最低限必要なことである。
「だが作戦を行う前に、これだけは厳守してもらう。先行するのは当然、ジャネット艦隊の諸君だ。君たちには先に基地に戻ってもらう。悪いが、これも保険だ。後ろから撃たれたくないのでね。君たちがロペスたちを解放するなり、基地を占拠するなりの行動を取れば我々も動く」
それを断ることはできない。
この三陣営の中で、一番余裕があるのはミランドラ隊である。
損傷もあるが、機動兵器が無事で、何よりプラネットキラーもある。そしてジョーカーなトリスメギストスの存在。
『この場で、それを断れるわけがないでしょう』
「悪く思わないでもらいたい。どっちにせよ、君たちが無事に基地まで戻ってくれなければ、そもそもの作戦が成り立たない。そして君たちからの合図で我々も動く。仮に……基地に戻って、君たちが我々を裏切っても、我々はすぐに逃げれる態勢にあるからな」
本当なら今すぐに全速前進で向かいたいところだが、それは厳しいというわけだ。
「さらに付け加えるなら、協力をするという確証も欲しい。そうだな、ここで、基地に連絡を送ってもらいたいな。無事、任務完了、これより戻ると」
『う、く……それは、恥だな。我々にとっては……』
抵抗があるようだ。それも仕方がないことだが。
「そうか。それはそれで困るのだが……」
『……ッ! 我々を撃沈するのか?』
「そう一々、身構えんでくれ。そっちができないなら、こっちで偽装信号でも用意してやろうかと」
『私が責任を取る。私がやる。うちの司令を問いただしたいのは事実だ……! それに、ふざけた部隊配置や命令も、お前たちの流した暴露動画も、ファウデン総帥のお嬢さんについても……知りたいことだらけだ。だが、約束してくれ。基地への攻撃はさておいても、人的被害は抑えてほしい。もし、虐殺がなされれば、私は貴艦に特攻をしかける』
「約束しよう」
そのつもりなどない。省吾は頷いた。
しばし、ジャネットは省吾の真意を伺うように、じっと、黙っていた。
数秒後、彼女は深いため息をついて、コンソールを操作する。
『……こちらジャネット少佐。敵艦隊の撃滅を完了。これより帰投する。なお、戦闘部隊に被害多数。うち、一機は戦線を離脱した。精神的に錯乱状態に陥っている模様。こちらも回収を行うが、可能ならばそちらでも把握しておいてほしい以上。帰投する』
その通信をやり終えると、ジャネットはうつむき、こめかみを抑えた。
これで共犯者になってしまったのだから。もう後戻りはできない。
同時に、省吾らもこれから大きな戦いに赴くという事実を引き締めなければならなかった。
***
艦隊編成は省吾の提案通りの形となり、先頭をジャネット艦隊が務めることになる。
艦隊の速度は通常通り。これは基地側に悟られない為のもの。その少し離れた場所に反乱軍、ミランドラと並ぶ。どの艦もステルス機能を搭載していないので、ある地点からは最大船速で突っ切ることになるが、それはまだ先の話。
それにジャネット艦隊の味方識別信号がある意味ではカモフラージュとなる。
また件の基地への到達はどう早くても半日はかかる。本来ならベルベックへ寄るべきなのかもしれないが、襲撃を受けた以上、完全に機能はしていないと思われる。それなら補給の意味も兼ねてジャネットたちの基地を襲撃するべきなのだ。
「ある意味、海賊らしいやり方ですな」
状況を見守りながら、艦長席の横に立つケスの言葉に省吾は頷く。
あくどい方法である。なにせ、先ほどの会話は全て記録してある。仮に、彼女たちが裏切るような真似をしても、このデータはジャネットたちにとってはアキレス腱なのだ。
「自分でも驚いている。嫌われたかな?」
「まぁ自分がされれば嫌ですね」
それには同感だった。
「それより、マーク中尉たちは?」
「補給と仮眠です。ぶっ通しですからね」
「優先的に食事と水分を取らせろ」
「はい。艦長も、少しお休みになってください」
「あぁ、何かあれば呼んでくれ」
現在の状況は決して安全ではないが、だからといって常に気を張り詰めたままというのはキツイ。結局、無理して休むしかない。ジャネット艦隊たちが突如として反転、攻撃を仕掛けてくる可能性もなくはないのだ。
しかし二十四時間の不眠不休というのは組織的な動きを弱めることになる。確保できるなら、四時間は休息を取らねばならないと何かで読んで事がある。
(俺がこうして活動できてるのは、腐ってもジョウェインが軍人だからなんだろうな)
もし、これが元の自分の肉体だったら、そもそもがついていけていないのだろうと思う。
艦長室に戻ると、人の気配がした。ユリーとフラニーがいた。ユリーの方はあまり顔色がよくないのは、戦闘の余韻が残っているからなのかもしれない。
「あ、お帰りなさいませ」
そういう出迎え方をされると、気恥ずかしくなる。
「う、うむ。とはいえ、まだ戦闘は続くのだが……今は、一時的な休息だな。本当なら、大きな休みを与えたいのだが……フラニーお嬢様も、お疲れ様です。怖くはありませんか?」
「正直を申せば怖いですが、シャトルの中にいたときと比べればマシです。ですが、これから攻勢に出るのでしょう?」
「その通りです。ですが、これも安寧の為の行動ですので」
「それはわかっています……大変なのね、革命も」
そういいながらフラニーはちらりとユリーを見て、次いで省吾を見る。
その目は少し、好奇心が宿っていた。
「ところで、お二人、いつ頃仲良くなったのです?」
「お嬢様……!」
ユリーは思わず立ち上がっていた。
「だって、噂ですよ?」
「マークから聞きましたね」
「えぇ」
フラニーは笑顔で頷いた。
「いえ、私は嬉しいのです。いつも口うるさくて、仕事が恋人のようなユリーにも、こういう一面があったと思うと」
「おやめくださいお嬢様。私は、そういう……」
「良いではありませんか。私だって、初めての初恋、ひとめぼれですもの」
あっけらかんと答えるフラニー。その相手はもちろん、ユーキの事だろう。
こういう少女は強い。
「えらく、素直に言うのですね?」
「えぇ、恋をするのは恥ずかしいことではないでしょう? 私、初めてですもの」
まぁ、楽しそうで何よりと言ったところだ。
少年少女の青春があるは良いことだと省吾は思う。
「では、私はその恋が楽しくなるように頑張ります。ですので、休ませてもらいます」
「ユリーの紅茶は美味しいですよ。こちらはインスタントしかないようですが」
「淹れてもらうという約束を取り付けています。それは、もっと余裕ができてからでいいでしょう」
「なら、良いのです。では、私はお暇します。ユリー、あなたもご迷惑をかけてはなりませんよ」
「お嬢様!」
やれやれ、騒がしいことだと省吾は思うが、戦場の中でもこの落ち着きは大切である。
なにせ、これからやることは最も狂気に満ちていると思うから。
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