手を取りあおう。腹のうちは見せずとも、とにかく手を取れ
省吾は、自分が他人からどう見られているかを気にはしているが、その実、化け物のように思われていることなど想像もできていない。彼は他人を気にしているようで、実際は自分の事で精いっぱいであり、役割をこなそうと必死だった。
作り笑顔、作った威厳、作られた虚栄。とにかくジョウェインを演じつつ、どこか理解のある大人を装った。有用さを演じた。
それが今のところは何とかなっているのが、自分でも驚きであった。
だからこうして、今さっきまで火砲を撃ち合った敵と交渉をしようなどという酔狂なことをしている。
『援護は感謝するが、そいつらは敵だ! 我が方の艦を一隻落とされている!』
しかし、それに納得できないのは反乱軍側だろう。
生き残った艦艇の艦長たちが息巻いている。
『ロペスたちから話は聞いていた! だが、お前たちのこの場を仕切る権利はない!』
これが、仮にロペス艦長たちであれば話もかわったかもしれない。いや、一隻撃沈される前であれば、よかったが、そこまでの都合は省吾でも用意できないし、トリスメギストスでも不可能だ。
それに、人間感情とはすぐさま他人へ向けた怒りを宥めることも、許すことも出来ない。
それぐらいは、省吾にもわかる。
「そっちの言葉も重々理解している。しかし、本当の敵を見誤ってはいかん。ここで、我々が無駄な殺し合いに興じれば、それこそ敵の思うつぼだ」
そんな言葉しか吐き出せない自分のボキャブラリーの少なさを痛感する省吾。
本当の敵。そんなものは、作り上げたものだ。目下、叩くべきはアンフェールである。その次当たりにファウデンがいる。だがなんとなく違う気もする。
省吾とて気味の悪い違和感はあるのだ。しかし、この二人をのさばらせておく理由もない。
倒さねばならない敵であることは違いないのだ。
「敵はニューバランスである。それを支配するものたちだ。連中を叩かない限り、こんなことは延々と続くぞ。仮想の敵を作り出し、対立構造を強めるだけだ」
それ以上に、敵の侵攻が早いのは焦りもあるだろうが、ここまで続くと意図的なものを感じる。
それは常々、省吾が感じていたものだ。
「それにだ……ジャネット艦長」
『……なんだ』
省吾はここで、ジャネットに再び声をかける。彼女は、どういうわけかおびえている様子だった。
「ここで、君が基地に帰っても、ろくなことにはならんぞ。私が、仲間になる方がおすすめだと言っているのは、何も君を困らせようとしているわけじゃない。それほどの艦隊の損傷を負いながらも、敵を殲滅できずあまつさえ情けをかけられて戻ったとなっては君らの名誉にもかかわるはず。特に、トリスメギストスを取り逃がしたのは大きいぞ?」
脅しではない。
事実として、このまま帰ればジャネットたちは大きな責任を負わされることになるだろう。
「私がそうだったのだ。消されようとしている。そして君は、私と接触し、この情報を知ってしまった。そして敗北して、帰還したとき、君はまず間違いなく基地司令を追求し、そして上申するはずだ」
『……!』
図星だったようだ。
ニューバランスによる悪行の数々は放送で知ったとはいえ、そこにフラニーの生存。こんな情報を仕入れてしまっては彼女は軍上層部に不信感を抱くのは明白だ。
が、それが危険だ。処理されるのはわかりきっている。
その実例が目の前にいるのだから。
「君たちは消される。都合の悪い情報を知ってしまったからな」
『なぜ、そう言い切れる』
「そもそも、今回の戦いも都合が良すぎるのだよ」
ここまでの戦いを経て、省吾はどうしても違和感を払拭させたかった。
それは、あまりにもトリスメギストスをめぐる展開に対する都合の良さだ。
アニメの展開だからというメタを取り除いた場合、そもそもなぜニューバランス側がトリスメギストスの輸送先を知っていたか。なぜ、アンフェールはこうもたやすく部隊を配置できたのか。一般兵に対しても対応が早すぎる。そして今回のベルベック襲撃に関しても、まるで図ったかのように、トリスメギストス対策を施した機体が出てきた。
何より……パーシーの変貌である。
すべてが、関係あるとは思わない。だが、これらの戦いを経て、トリスメギストスは間違いなく成長をしている。成長を阻害するものは次々と排除して……。
「ジャネット艦長。そもそも、ベルベック襲撃に関してもそうであるが、ビュブロスにやってくるタイミングも良すぎた。君たちはあまりにも素早く惑星に駆けつけていた。それはおかしい話なのだ。本来なら、ビュブロスへの襲撃は我々だけで行われる極秘任務。場合によっては惑星を破壊する作戦。それを、隠す必要があるというに、君たちはすぐそこにいた」
『そ、それは指示を受けてだ!』
「そう、指示を受けなければ来れない。だが、あの時、ビュブロスはプラネットキラーの影響下で通信もワープも限定的であった。だのに、君たちは来た。君たちだけではない。我が艦を襲ったあれもそうだ。誰かが、常に連絡を取り合わねばあそこまで細かく展開はできまい」
『な、なにが言いたい……?』
「あえて言うが、この一連の騒動は仕組まれている」
省吾は持論を展開していた。
だが、それ以外に、説明のつくものを用意できない。
「その犯人の一人を、私は目星をつけている。今更隠すほどでもない。フィーニッツ博士だ」
もとより、怪しい男であるとは思っていた。
確信を得たのはパーシーの変貌を見てというのは遅い方かもしれないが、それ以前から行動に不可解な点はあった。
違和感もあった。パーシーは破壊することが目的であったのに、はフィーニッツ一言もそんなことは言っていない。何より、本来であれば乗る必要のないユーキを乗せた。
パイロットの登録関連の話も嘘であったことを考えれば、原作アニメでのあれこれもすべてが嘘となる。
(何より……アニメでも、主人公たちのゆく先々で敵がいた。元のジョウェインが追いかけていたという理由もあるだろうが、それだけじゃなかったってことだ。それに、パーシーが抱いた危機感。トートの異常なまでの成長速度、戦うたびに……いや、なんでもいい、経験を積むたびに奴は成長している。今は恐怖を覚えた。それだって学びだ。アニメでもそうだった。弱い弱いと思っていても、最終的に三回もチート能力を覚醒させた。それはすべて度重なる戦闘の結果だ。なおかつ、今回はユーキにやる気が満ち溢れている。トートがそれに感応しているとも見えた)
と、なればそれを誘発する何かがある。
それこそがフィーニッツであるというのが省吾の確信である。
(大方、目的はトリスメギストスの行く末だろうが、どうでもいい。あの手のマッドの考えを理解しようとすること自体が間違いだ。あいつもぶん殴りリストには載ってんだ、とっ捕まえて、洗いざらい吐かせて、殴る)
いまだおぼろげながらも、省吾はこの世界において倒すべき敵を定めようとしていた。
ファウデン、アンフェール、フィーニッツ。このお騒がせな三人をまとめて殴る。
そして今、手が届きそうなのは……!
「ジャネット艦長。フィーニッツはどこにいる。ロペス艦長たちを捕らえたのなら、奴もそこにいたはずだ。パーシー技術大尉があのようなことになっている。あのじいさんがやったことだというのはわかっているんだ」
『わ、わからない。確かに、博士はこちらで捕らえた。だがすぐに重要参考人ということで基地司令が連れて行った。ほ、本星で、地球で尋問を行うと』
「逃げたか……! いや、だがまだ地球にはたどり着いていないはず。パーシーを改造したのだ、ワープを使ったとはいえ……! えぇい、こうしてはいられんぞ!」
今、ここでフィーニッツを取り逃がすわけにはいかない。
状況が変わったことを省吾は理解する。
交渉だなんだとなまっちょろいことを言っている場合ではない。
「ジャネット艦長! 悪いが是が非でも協力してもらうことになるぞ! あのジジイをつかまる! 目下最重要がそれだ! 奴と、ニューバランスのつながりを確かめる必要がある! よしんば、君たちの基地司令も同じ穴の狢だ! これから君たちの基地に、攻め入る!」
そのありえない、とんでもない発言にジャネットだけではない、ミランドラの乗員も、反乱軍たちも愕然としていた。
『ま、まて! 敵のど真ん中に攻め入るだと! 正気か?』
反乱軍の艦長たちが悲鳴のような声をあげた。
「おぉ正気だ!」
『ば、バカな! 俺たちの仲間を沈めた奴と、一緒に、敵の基地を攻撃なんて、くるってやがる!』
「だが、そもそもこの戦いを仕向けた、いわば黒幕が居るのだ。そいつを叩くというのは、復讐になる! それに、我々が行動すれば、囚われているロペス艦長たちも動くはずだ!」
『確証のないことを言うな!』
「ならばとっとと逃げろ! こっちははなっから命狙われて、生き残る為には手段を選んじゃおれんのだ! どうする、貴様ら! どうする!」
省吾は叫んだ。
自分だって、無茶を言ってるのは理解しているのだ。
だが、ようやくつかめた手掛かりを失うことの方が嫌だった。
「こんなふざけた戦いを裏で操っている連中に一泡吹かせたくないのか!」
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