ストーリーは改変された、これからは自由にやるしかないので正義の味方をするべきだ
「現在の宙域を割り出せるか?」
意味不明かつ理解不能なことが起きてしまったが、まずやることは自分たちが今どこにいるかの確認だ。これが全体の安全を把握することにつながる。
強化ガラスの向こう側は宇宙空間。クラートが言っていたように、この艦はワープをしたらしい。
並行して、省吾は艦内状況の報告を求めた。人員が全員残っているかどうかである。
突然のワープ。しかも本来なら艦の外にいたはずの自分たちがいつの間にかここにいる。
はっきりと言って異常だ。まさか、置いてきぼりを喰らった他のメンバーがいるかもしれない。
「恒点観測からだいたいの位置が割り出せました」
まず報告は宙域情報である。
やはりこれを担当するのは航海士のファラン大尉だ。
本来なら降りるはずのメンバーであったが、こうして巻き込まれてしまった以上はもうしばらく付き合ってもらうことになりそうだった。
「完全な割り出しにはもうしばらくかかりますが、アル・ミナー宙域の外れですね」
「アル・ミナー……あぁと確か」
省吾はジョウェインの知識をフル稼働させた。
その宙域は資源的価値のある惑星が点在しているらしい。それと同時に観光地としても有名だった。地球型の惑星が二種、そのうち一つは年中温暖な気候で海もある。いわゆるリゾート惑星だ。
ゆえに多くの艦船が行き来する宙域でもある。今は、そのメインとなる航路からは外れているようで、件のリゾート惑星に関しても、今現在の場所からは通常航行で三日以上もかかる場所にある。
同時にビュブロスのある宙域からはかなり離れてしまっていることも。
単純計算として通常航行で一、二か月。ワープを駆使しても二週間はかかる距離である。
そう、本来な数日かかるはずの距離を、省吾らはたった一回のワープで完了させてしまったのだ。
「この艦のワープドライブはそこまで高性能だったかね……?」
「いえ、通常であればありえないことです。ですが、起きてしまったわけですが」
ファランはきっぱりと答えた。あらゆる艦種にしても、ワープ距離には限度がある。距離によっては何度もワープを繰り返す必要があるからだ。
しばし、艦橋には微妙な空気が流れていた。
だが、それを打ち破ったのはアニッシュの声だった。
「ちょ、ちょっとちょっと! どういうことよ、なんで急にワープして、というかなんであたしたちここにいるの!? 外にいたはずじゃない!」
やっと現状を理解して、騒ぎ出した具合である。
「キンキンやかましいな小娘。ちったぁ黙ってろ」
騒ぎ出したアニッシュにマークがにらみを利かせる。彼とて、さすがにこの状況は混乱するわけで、何とか状況を飲み込もうと必死だという事だ。
そこに意識を阻害する甲高い少女の声は煩わしいという事だろう。
「す、すみません中尉さん! ほら、アニッシュも落ち着いて、宇宙空間に放り出されなかっただけありがたいと思わないと……」
なんとなく状況を悟ったらしいユーキがアニッシュをなだめようとするが、そう簡単にいくものではない。
「落ち着けって、そう簡単な話じゃないでしょ!? ビュブロスから離れちゃって、わけわかんないことが起きて……一体何がどうなって」
「トリスメギストスの、いや、トートのせいじゃないの……?」
かくいうユーキも若干、投げやりだった。
これに対して話題のトートは無重力空間に漂い、遊泳をしていた。暢気なものである。
「私だけだろうか。今すぐにこいつを拳銃でぶち抜きたくなってきたのだが」
省吾は思わず口にした。この状況を作り出したのは間違いなくこいつだ。それはミランドラのワープだけではない、突如として姿を消したパーシーに関してもトートが何かをやらかしたのは明白だ。
さらに言えば、恐ろしいことにトートは、単独での長距離ワープを可能とする末恐ろしいマシンであるわけで。
「やめた方が、よろしいかと?」
顔を青くして、クラートが言った。
もちろん、省吾とて本気ではない。こいつに、敵意というべきか、害意を持たれたらおしまいだというのはわかってしまったのだ。
この場において、生殺与奪を持つのはトートである。故に、省吾はトートに関してはあえて無視を決め込むべきかもしれないという判断に至った。
それに、色々と思うことはあるが、こちらにもうやるべきことがある。その為にはご機嫌でもとって協力してもらう方が楽ではあるのだ。
『艦長、ケスです』
サブブリッジにいたらしいケス少佐から通信が入った。
『乗員の確認が終了しました。欠員ゼロです』
「ん、ありがとう……全く、器用なことだ」
欠員がいないのは、それはそれで一安心ではあった。
「さて、結果はどうあれ、我々だけでもビュブロスからの脱出は叶ったが、素直には喜べないな。ロペス艦長たちの事も気がかりだが、トリスメギストスについてあのジジイに問いただすことも出来ん。それに、ジャネット艦隊の動きも気になる……乱暴なことはしないと思いたいが」
そのあたりに関してはそう願うしかない。
原作改変は求めた行為だが、ここまでくるとどう動いて良いのかがわからない。
(いや、待てよ……状況的に言えば、駆逐艦サヴォナの立ち位置に、俺たちが居座っているだけと考えてみてはどうだ?)
だが、駆逐艦サヴォナはアル・ミナー宙域にやってくることはなかった。第一、アニメじゃそんな宙域なんて名前すら出てこない。
となると、アニメという知識は参考書程度に考えるべきで、これからは面倒なことにゼロからすべてを考える必要がある。
そうは言っても、省吾はひとまずのやるべきことを把握していた。
「なんというべきか、現状はよくわからないことばかりだが、当初の予定通りにアンフェールの悪事を全宇宙のネットワークにばらまくとする。こうすれば、少なくとも反乱軍からの攻撃は受けまい……ロペス艦長たちがいれば、反乱軍にコンタクトも取れたのだが……」
場合によっては、自分たちはトリスメギストスを奪って逃げた風にみられても仕方がない。
そうではないという証明として、反ニューバランスの姿勢は見せつけておくべきだろう。
幸いにも、この宙域には電波障害はない。さらに言えば、観光惑星故にネットワークの設備も高い水準で存在する。
トリスメギストスならばこのネットワークに侵入することもたやすいはずだろう。
唯一の問題は、そのトリスメギストスが協力してくれるかどうかであり、なおかつ今これを動かせるのがユーキだけということだ。
「さて、課題は多いが、何事も手早くやるべきで……」
「あー……艦長」
さてとと言ったタイミングで、再びクラートが申し訳なさそうに進言する。
「……悪く思わないで欲しいのだが、君からの報告の殆どは悪いものばかりじゃないかね」
「すみません。そういう仕事ですので。それより、救難信号です。同時に民間シャトルがこちらの正面コースに接近中ですが」
「民間シャトル? おい、どういうことだ。ここは航路外れのはずだが?」
報告を聞いて、航路図を確認するファラン。
端末を操作して、メインモニターへと図を表示する。レーダーとの連動で、表示された図の中に件の救難信号が赤い光点として表示されていた。
「遭難か? いや、ならば航路を外れた理由はなんだ?」
「テウルギア反応あり。三機……シャトルの護衛か? いや、これは……」
「どうした、正確に伝えい」
クラートが困惑の表情を見せていた為に、省吾は思った。
こういう時、間違いなく敵なんだろうと。
なので、情報を求めつつも、省吾はマークに目配せをした。すると、マークは頷いてパイロットスーツのチャックをしめて、艦橋から出ていく。
「発砲を確認。シャトルは攻撃を受けています」
「民間人を襲う、海賊か?」
「いえ、テウルギアの反応は軍のものです!」
「どういうことだ!」
「わかりません! ですが、軍のテウルギアが民間シャトルを攻撃しています! どうしますか!」
その場にいた全員が省吾を見る。
「どうもこうもあるか! アンフェールの悪事を暴こうという我らが民間人を見捨てて何になる! テウルギア隊、緊急出撃だ! 正義の味方をするぞ! 全く、軍の規律違反か、それとも……」
省吾の号令の後の艦内アラートが響き渡る。
各種オペレーターたちによって作戦行動が伝えられてゆく。
「本艦はこれより、民間シャトルの救援に向かう。テウルギア隊はスクランブル、敵は一般正規兵と思われる」
「あの!」
艦内が騒がしくなる中、取り残される形となったユーキとアニッシュ。
すると、ユーキが省吾のそばまで駆け寄ってきた。
「何かね、戦闘に入る。しばらくはここでおとなしく」
「いえ、トリスメギストスなら、敵を行動不能にできるんじゃないでしょうか。下手に出撃すると、相手を刺激するかもしれませんし」
それは意外な提案だった。
「それは、つまり……君も出撃するということか?」
「あ、いえ……はい、そう、なります。民間人が、襲われているんですよね?」
「ユーキ!? あんた何言ってるのよ!」
目を大きく見開き、信じられないといった表情を浮かべたアニッシュ。
「だって、襲われているんだよ?」
「そりゃそうだけど、なにもあんたがいかなくても!」
「放ってはおけないじゃないか。それに、何かできるかもしれないのに何もできませんでしたって言い訳するのは、嫌だ」
そう言い放ち、ユーキは再び省吾へと振り向いた。
「トリスメギストスは危ないかもしれない。でも、結局は使うんですよね? だったら、今扱いになれておく必要もありますよね?」
その通りである。
それに、物事は動き始めていた。ユーキはすでにトリスメギストスに搭乗し、起動させた。彼が求める求めないにかかわらず、ストーリーは進み始めているというわけである。
しかし、今現状で、安全が確認できないトリスメギストスを使っていいものかという引っかかりもあるにはある。
「シャトルにライフル弾、命中を確認! 推進器をやられたみたいです!」
状況が動いていた。
「テウルギア隊、スクランブル! 艦長!」
「マーク中尉の指示に従え。ユーキ君、コントロールできなければ、ハッチをこじ開けてでも逃げろ。いいな?」
「ちょっと待ってください! なんで勝手に話が進んでるのよ! ユーキは素人です、それならあたしが……」
「わかった、わかった! 君もいけ! 一緒に乗って、サポートしてやれ! 急げ、シャトルが持たん! つべこべいわず、人助けに専念しろ!」
といって、無重力をいいことに、省吾は二人を押しやった。
ユーキはやる気を見せた顔で、アニッシュはいまだに困惑したまま、通路へと流れていく。途中、アニッシュが何か叫んでいたが、何を言っているのかは聞こえなかった。文句はあとで聞くつもりだ。
そして、気が付けばやはりトートもいなくなっている。
「まさか、今度は俺たちを置いてワープをしないだろうな。それに……どこまでうまくいくか」
省吾がユーキの出撃を許可したのには二つの理由がある。
一つはトリスメギストスが本当に使えるかどうか。もしこちらの意にそぐわない行動を見せたら、全てが終わる。それを見極める為だ。
もう一つは、ユーキという本来の主人公が動くことで、何かが起きる。それに期待をかけているのである。結果がわからない博打であるが、どうせ手をこまねいていても仕方がない。
今ある手札で勝負をするしか、ないのだから。
成功すれば、よし。失敗すれば、覚悟の時だ。
「さて……そもそもなぜ軍がシャトルを襲うのかだが……」
強化ガラスの向こう側。出撃していくテウルギア隊の姿が見える。
遅れて、トリスメギストスの姿も見えた。
「ニューバランスの部隊ではないとして……気になるな……民間シャトルに通信は繋げられるか。こちらの意図を伝える」
「エマージェンシー回線へダイレクト。通信、開きます」
メインモニターに映し出されたのは、額から血を流し、意識が朦朧としているらしい機長と思しき男。その隣には、シートにしがみつき、不安な表情を浮かべる少女と彼女に寄り添う眼鏡の侍女の姿があった。
そのうち、少女の方は金髪でゆるやかなウェーブがかかった、お嬢様といった姿をしている。それだけではない。省吾にはその少女の知識はないが、ジョウェインにはあった。
「え……フラニーお嬢さん……?」
無意識に出た言葉だった。
フラニーなんてキャラは聞いたことなどない。だが、ジョウェインの知識が流れ込んでくると、省吾には一つだけ、思い当たる節があった。
それは本当に、些細なもの。アニメのワンカット、それこそ一秒にも満たない程度のシーン。
ファウデン総帥のデスクに飾られた写真にそんなような顔があったような気がする。
「ふぁ、ファウデン総帥の……ご息女ぉ!?」
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