濡れ衣を着せられるのであれば、晴れるような行動を取ればいい、あとで倍返しだ
六時間。ジョウェインとしての知識が警鐘を鳴らしている。
そんな時間は戦争準備時間としてはあまりにも短すぎる。特にこちらはまだ艦を宇宙に上げていない。
ミランドラ一艦であればそれは問題はないだろう。緊急浮上して、宇宙空間戦闘に入る。これはミランドラ隊の練度であれば十分できる範囲だ。腐ってもエリート集団のニューバランスだ。それぐらいはできて当然でなければいけない。
が、問題は数である。何を言っても、こっちは単艦で戦闘を行わなければならない。これが、仮に速度の出る駆逐艦であれば逃げの一手を打てるが、こちらは打撃力のある巡洋艦である。無理をすれば駆逐艦並みの速度は出せるが、そうなると今度はこの惑星ビュブロスを捨てることになる。
それでは意味がない。
「反乱軍の支援は受けれないとみるべきか?」
『こっちのラビ・レーブとゲオルクは回せる。警備隊も腕っこきを集めてくれるが、それでもこっちと合わせて十人が限界だね。うち六人は警備隊ときた。全く、エンジン回りは特にメンテをしていたんだ。フィーニッツやパーシーだって自分たちが乗って逃げる船だってもんで協力もしてくれたってのに、このおんぼろめ』
さすがに豪快なはずのロペスも今ばかりは申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「起きてしまった事実を嘆いても仕方ない。戦闘部隊の指揮系統は分けるべきだろう。マーク隊はもとよりこちらの部隊だ。こちらで面倒を見るが、そちらの警備隊含めた混成部隊はロペス艦長に一任したいのだが!?」
即席の混成部隊を指揮するなど省吾には無理だし、いかにマーク中尉が歴戦の勇士だとして足並みのそろわない、癖を把握していない部隊の面倒まで見るのは難しいはずだ。
なにより、省吾としての知識が正しければ反乱軍側も癖が強い。うまくかみ合えば相乗効果は出るかもしれないが、今はそんな博打に賭けている暇はない。
よそはよそとして、邪魔にならないように動くしかないのだ。
「それに、住民の避難はどうなっている!? 私はここに来たばかりで、そのあたりのことはわからぬが!」
『アダマンたちが必死こいてやってる。幸い、ここは地下シェルターがある。よっぽどの攻撃がなきゃ問題はないと思うがね?』
そのよっぽどの攻撃をしたのが、原作のジョウェインである。
シェルターがあろうと、プラネットキラーの前では無意味だ。
そして、これを幸いと言っていいのか、わからないがビュブロスは過去数百年のうちに人口が減った惑星である。大半があまりにも田舎すぎて開拓を放棄したというのが理由である。それをまた技術を持った者たちが再開発したのが今現在のビュブロスであり、言ってしまえばこの惑星はまだまだ途上なのである。
総人口もやっと三百を超えたところだ。
「きけばこの星の人口は三百余人、少ないようで多い。シェルターに逃げれるのか?」
『なに、最悪は私ら反乱軍の秘密ドッグも解放する。というか、そうでもしなきゃ収まらんだろう。こっちもなんとかスペースをあけたい。浮上は無理でも、海上航行ぐらいはできるように復旧はするつもりだ。火砲は多い方がいいだろう?』
国際空港からそう遠くない位置に海が面している。どうやら反乱軍はそういった方法で隠れ潜んでいるらしい。
「連中は容赦なく民間施設を狙うぞ。我々は宇宙に出て睨みを効かせる必要があると思うが」
ミランドラであれば何とか宇宙に上がれる。最悪の場合、敵はプラネットキラーを撃ち込んでくる可能性もあるのだ。
プラネットキラーは大量生産できる大量破壊兵器であるが、当然使用には制限がかかっている。アンフェール大佐といえど、そう何発も自由に使えるものではない。
そうではあるが、あの男ならやりかねないという妙な信頼感もある。
「か、艦長、よろしいでしょうか」
ただでさえ考えることが多いというのに、オペレーターのクラートから新しい報告があるらしい。
「なんだ!」
「はっ、そ、それが……敵……艦隊からの長距離通信です」
「……なに?」
それは意外な報告だった。
通信? 今更に宣戦布告をするつもりだろうか? それとも最後通告だろうか。
アンフェールの息がかかった部隊であれば、問答無用で攻撃してくる可能性もある。だというのに通信である。いまいち、読めない行動だったが、受けないわけにもいかない。
「繋げろ」
さてどんな相手が出てくるか、省吾は軍服の詰襟を直しながらノイズの走る中央メインモニターを見上げた。
重力異常の影響で中々通信が鮮明にならないが、周波数を絞り、出力を上げれば、何とか通信も出来なくはない。それでも長時間は不可能だ。
『──こちらは第729戦隊所属、巡洋艦ペトラルカ艦長、ジャネット・カブラー少佐です』
未だノイズの走る画面であるが、映り込んだのは一見すれば年若い女だった。意思の強そうな鋭い目、豊かな赤毛をストレートに伸ばし、武人然とした軍服の着こなし。脇に控えるスタッフもよく訓練されているのか微動だにしない。
そこまで認識して、省吾はジョウェインの知識の中から目の前の女艦長に関するデータを出力した。
記憶に一致する人物が出てくる。ジャネット・カブラーは三十五歳の若手ながら少佐にまで上り詰め、艦長職を頂いているエリートだ。カブラー家も軍人家系であることをジョウェインは知っている。
少佐なのに巡洋艦の艦長をしている生意気な女という意識がなぜか流れ込んできた。
(ジョウェインめ、時代が時代ならお前が炎上させられてるぞ)
などと文句を思い浮かべながらも、省吾はジャネットに返答する。
「私は元・ニューバランス旗艦艦隊所属のジョウェインだ。ジャネット少佐、貴官らは反逆者である我々を討ちにきたと解釈してよろしいか?」
『もちろんです』
ジャネットはきっぱりと言い放った。
『我が艦隊は四隻の巡洋艦からなります。そちらは巡洋艦が一隻、それと反乱軍がみをひそめているようですが、大艦隊でないことは調べがついています。大方、巡洋艦か駆逐艦が一隻程度でしょう。我が方から新型を奪取した部隊がその編制でしたので』
どうやらバレている様子だ。
かなり情報を集めている様子だ。
「では重ねて質問するが、我らを討つというのはどういう方法でだ。よもやプラネットキラーを撃ち込むわけじゃあるまい?」
『禁止兵器の使用など、反乱軍ではあるまい。だが、ジョウェイン中佐。いえ、逆賊ジョウェイン。あなたがプラネットキラーを奪い、反乱軍に与したことはすでに軍部では有名な話です』
「私が、プラネットキラーを奪った?」
なるほど、アンフェールはさっそく火消しを行っているらしい。
その方法があまりにも予想通りだったの笑ってしまうほどだった。
「はっはっは! 私が! プラネットキラーを奪ったか! ははは! アンフェールが言ったのか?」
省吾の質問にジャネットは答えない。
戯言を聞くつもりはないと言いたげな、冷たい視線を向けていた。
『大人しく投降するのであれば、危害は加えません。ですが、反抗するのであれば容赦なく攻撃を加えます。ですが民間人に手を出しては軍人の名折れ。避難までの時間を待ちましょう。それとも、そちらが宇宙に出るのであれば、そういう対応も行いますが? 返答は二時間後に聞きます』
とだけ伝えると、通信は一方的に切断された。
二時間後。また通信を送るというわけだろう。
省吾は、小さく溜息をつく。
「……とのことだが?」
『艦長、提案があります』
それはケス少佐からだった。
『プラネットキラーをジャネット艦隊方向へ撃ち込んでください。どうやら相手は一般部隊のようです。ですが、そんなあからさまな部隊だけがくるとは思えません』
いきなり、慎重派なケスからは思いもよらない提案だったが、どうやらそれには理由があるようだった。
「わけを聞こうか、少佐」
『はい、まず撃ち込む理由ですが、何も艦隊を破壊する必要はありません。ですが重力波による艦隊へのダメージは引き起こせます。オフラインとなれば、相手も動きを止めなくてはなりません。それで時間は多いに稼げるでしょう』
一つ目の理由は納得できるものだった。
つまりプラネットキラーを足止め用の機雷として使うというわけである。
『問題はジャネット艦隊以外です。彼女の言葉を聞いていて、思いました。アンフェール大佐は我々に罪をなすりつけている。ならば、それを決定的にする何かが必要です』
「というと? 既にあちらは我々を超ど級の犯罪者に仕立て上げているようだが?」
ある意味ではこちらのやろうとしていることを先にやられた形になるが、そこは問題はない。むしろ予想していたことだ。それを覆すだけの情報がこちらにはあるし、塗り替えるだけの作戦もあるのだから。
もちろん、この状況を生き残ったらの話だが。
『広まっているのは軍内部だけ。一般にはそうではないと思います。ですが、一般人へ向けてセンセーショナルな広告を作ることができます。それが、ジャネット少佐を殺すことでしょう。彼女の艦隊はどうみても一般的な命令を受けての行動のように思われます。さきの戦いで我々を襲ったのがアンフェールの一派だとして、そうそう手ごまを失った以上、あちらも慎重になるしかありません』
「……別動隊がいる?」
『えぇ十中八九。我々と、ジャネット艦隊双方を潰す別部隊。それこそ、プラネットキラーを持っている部隊がどこかに。なので、ジャネット艦隊には動きを止めてもらいます。そうすれば……』
「なるほど……連中は動けない!」
『そうです。なにせ、何も知らない一般部隊に姿を見せて、プラネットキラーを撃ち込むなど、できるわけがありません。同時に、敵の動きを感知することも出来るかもしれません』
作戦は決まった。
省吾はケスの意見を採用し、実行に移すべく行動を開始する。
「聞いたな。総員、二回目の反逆活動だ。だが今回は人命を救う崇高な作戦だと思え。良いな、我々の敵はニューバランスではない。無駄に仲間だったものたちの命を奪う必要はないのだ。これより我々はプラネットキラーで足止めを行う。その後、重力異常に反応を示すものがあれば、それが本当の敵だ!」
ミランドラの機関が唸り声をあげ、始動する。
「マーク中尉以下、戦闘員はテウルギアへ搭乗! 場合によっては出てもらうぞ。火器管制、各機銃、オートマで稼働準備」
最大出力による急上昇。
それにかかるGは凄まじいはずだが、未来技術の戦艦はそれすらも軽減するらしい。
もの十分足らずで、ミランドラはビュブロスの重力圏を突破する。再びの漆黒の宇宙。
だがそれに浸っている暇はない。
「撃て! 同時に索敵だ!」
もし、その行動を敵が目視していれば、何を馬鹿なことをと思うだろう。
だがその馬鹿をやったのが省吾であり、ミランドラ隊だった。
あらぬ方向へと撃ち込まれるプラネットキラー。それは自動爆破をセットされ、撃ちだされて数分後に自壊を始めた。と、同時に重力異常を巻き起こすが今回はミランドラに影響はない。だが馬鹿正直にまっすぐに突き進んでくるであろうジャネット艦隊には大ダメージを与えるはずだ。
そして……!
「敵艦反応あり! ビュブロス北極方面……! ステルスが解除されます!」
北極。あえて方角で言えば、ミランドラからすれば、上に位置する部分に存在する。その艦隊が、果たしてアンフェール一派なのか、それともジャネット艦隊と同じく命令を受けただけの部隊なのか、それを判別することはできない。
だが、そう、運が悪かったというしかない。
「やっぱりいたか!? そうれ、敵は慌てるぞ、ミサイル一斉射、テウルギア隊を出せ! 生意気にも不意打ちをかまそうとしてきた連中だ!」
なぜならば、省吾は死にたくないからだ。
本来であれば奇襲を仕掛ける側が、奇襲を受ける形となったことに慌てたのか、敵艦は急速にエンジンを始動させ、突撃を慣行してくる。と、同時にミサイルと何かカプセルのようなものを撃ちだしていた。
『中佐! ありゃ空間落下傘だ! 野郎、無理やり地上に降りるつもりだぞ!』
ミサイル一斉射の後に、出撃をしたマーク中尉が怒鳴りながら、傘と呼ばれたものを一つ撃ち落とす。
その数は六つ。うち一つは撃墜されているが、凄まじい速度で打ち出されている。それに他のテウルギアの相手もしなければいけなかった。
「地上のロペスたちに伝えい! 我々は我々の仕事をする!」
しかし、今は目の前に集中しなければいけなかった。
なんにせよ、敵艦を沈めればよいのだ。
「なんとしても、敵艦だけは落とせ! プラネットキラーを積み込んでいる可能性がある! 地上の方は……」
そう視線を向けた瞬間であった。
凄まじいほどの閃光が五つ。空間落下傘を的確に打ち抜いた。
「な、に?」
その攻撃を、省吾は知っている。
なぜならば、それはトリスメギストスのビームだからだ。胸部から放つ大出力のビーム。それが、五発。
それだけではない。ミランドラのカメラは成層圏に浮かぶ白亜の機体を確認した。トリスメギストスだ。
無貌に司祭のような出で立ちのそれは、両手を広げ、まるで神に祈るかのような姿勢で、ビームを放ったのだ。
「だ、誰が乗っている。パーシーか?」
だが、それは意外な……否、本来ならの答えだった。
『え、えと……ユーキ・シジマがトリスメギストスに、乗っています……』
困惑した声のユーキがそこにはいた。
(は、はぁ? なんで、ユーキが乗っている? パーシーは、死んでないぞ?)
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