全てがうまく行く、そんな考えこそが最も危険であることを知るしかない
匿名の宇宙海賊を名乗りアンフェールの悪事を暴露する。
ある意味ではセンセーショナルで、人々の関心を引くことになるだろう。
省吾としてはとにかく情報発信はしなければいけないと思っている。最悪、その手段はどのような方法でもいいのだ。
悪事の事実を全宇宙の知らしめることこそ重要な意味を持つ。ようはニューバランス側の求心力をなくすことが必要なのである。
同時に反乱軍以外の反ニューバランス感情を刺激し、軍内部にもその機運を高める必要がある。
「待ってください! それなら別にトリスメギストスを使う必要はないでしょう!?」
が、それに大きく反対するのはパーシーだ。
もちろん彼だけではない。特に惑星代表側も難色を示している。ロペスたち反乱軍側としてはそれこそニューバランスへの攻撃ができればどのような方法でも良いと思っているようで、この流れは静観の構えだった。
こちら側はマーク中尉がノリノリ、ケス少佐は多少難色を示しているが反対意見は出ない。ファラン大尉は早く会議を終わらせてくれといった表情である。
「パーシー大尉。君が、そのトリスメギストスを恐れているというのはひしひしと伝わる。随分と使いたくないようだ。しかし、私は何もそれに乗ってライフルの引き金を引けとは言っていない。ただ少し、コンピューターネットワークで遊んでもらいたいだけだ。なに簡単なことだ。適当にアカウントでも作成してちょちょいと情報を拡散させればいい」
「そ、それはそうですが……」
パーシーは口ごもる。
省吾は悪いとは思いつつ畳みかけた。
「では何に使えばいい? 敵をたくさん倒す為の兵器として、通常運用させれば良いのか? それは私としては心強いのだが?」
「それは駄目です! 絶対に駄目です! あれは二度と機動させてはいけません! フレームや武器データ程度ならいくらでも提供する。プラネットキラー無力化だってそれは別に良い! だが、あれは、そんなものは問題じゃないんだ!」
(この物言い……パーシーにとってアニメで披露された超技術は些細なことだというわけだ。とりわけ、彼が恐れるのは複製技術……俺もそれはやばいとは思うが)
彼が恐れる部分もわからなくはない。
だがそれを使わなければ生き残るのは難しいという現実もある。
決定的に、両者の認識にはズレがあるのだ。
「だからだな、中佐はビームだのなんだのを撃てと言ってるわけじゃねぇだろ?」
あまりにも頑ななパーシーに若干のイラつきを覚えたらしいマーク中尉は少々、棘のある言い方だった。
「あ? アンフェールの悪口を書き込めばいいんだ、それで仕事は終わりだ」
「すみませんがね?」
ここでさらに声をあげたのはファラン大尉であった。
「炎上だとかなんだとか愉快な話だとは思いますが、現在この宙域、というか惑星主変はプラネットキラーの重力異常で大がかりな大規模な惑星間通信等は不可能ですよ。少なくとも一夜あけてみないことには通信状況をとやかくは言えんでしょう。まぁ、その新型が本当に重力なんかも操れるならさっさと重力異常を治して、さっと通信すりゃいいだけの話。こちらもワープで逃げれて一石二鳥だとおもうんですが?」
「ファラン大尉の言う通りだな」
マーク中尉もファラン大尉の意見に賛成の構えだった。
それに同調するようにケス少佐も続く。
「どちらにせよ、早々とこの惑星を離れるべきでしょう。トリスメギストスが使えない以上、重力異常でどうしても一日はこの惑星宙域で対応する必要もあります。この惑星に惑星間ロケットブースターはなさそうですし、マスドライバーもないとなればなおさらです」
ここまで圧力をかけられるとパーシーも言い返せなくなる。戦うわけではない。ただ少しネットワークに介入するだけ。それだけなのだ。
「は、博士」
パーシーはこの会議中、ずっと黙っているフィーニッツ博士に助けを求めた。
対するフィーニッツ博士もしばしは無言であった。
「ソーシャルメディアへの介入は協力しよう。だが、重力場操作に関してはこちらも責任は取れん。くだらん海賊ごっこをやるのであれば、そちらの言うように一日待ってほしいところだな。身内で勝手の盛り上がった話だ。こっちとしても思うところはある。ロペス艦長、それよろしいか」
フィーニッツ博士から言葉を託されたロペスはやれやれといった具合に肩を竦めてから省吾へ視線を向けた。
「私はどちらでも。手段は問わないさ。とりあえずトリスメギストスの話はわきに置こうじゃないか。とにかく一日待つ、それでいいんだろう? 宇宙海賊さんや?」
ロペスの視線からは「今日はこれぐらいにしておけ」というものを感じ取った。
確かに省吾もことを急ぎすぎたところはある。急いだほうが良いとも思うのだが、立場を考えれば退くことも必要だった。
「それに、話を聞けば、そっちの船にも降りるのを希望してるのがいるんだろう? 私たちの艦に乗せるのは無理だが、しばらくこの惑星で身を隠すのであれば、シャトルぐらいは手配するよ。もうちょい田舎の惑星にしか飛ばせないし、それ以降の事はちと面倒見切れないけどね?」
「いや、それでも十分ありがたいことです。仲間だった者たちです。無碍な扱いはできませんので。それと、そちらの戦闘部隊とこちらとのすり合わせも行いたい。これに関しては戦闘部隊長のマーク中尉をあてがいたいが?」
ちらりとマーク中尉に視線を向けると、彼も無言で頷いた。
「ワイルドボアのマークの噂は聞いている。今となっちゃ心強い味方だと思いたい。正直を言うと、今の私たちの戦力は酷くてね、まともなパイロットが少ないときて、しかも稼働してる機体も質が悪いんだ。ラビ・レーブも四機しかないからねぇ」
そのうちの一機は本来の歴史だと撃墜され、もう一機は中破ときている。
しかもロペス隊の隊長は負傷して、パイロットが出来なくなり、トリスメギストスに乗るユーキを含めて二機のラビ・レーブは唯一生き残った新米が二人なのだ。のちに、怪我から復帰したヒロイン、アニッシュが残る中破していた一機に乗り込むことになる。
ちなみに、この場にはいないが、ロペス隊の隊長はアニッシュ復帰の時にゲオルクで無理やり出撃して、新米をかばい戦死している。
今に思うと、そんなボロボロの部隊に手をこまねいていたジョウェインの指揮能力はどれだけ低かったことか。
(だが、今はそうではない。戦力は単純に見積もっても原作より多い。の、はずなんだが……なんだろうな、このうまく行きすぎているせいで感じる妙な不安は。俺の考えすぎならば、良いのだが……)
その日の会議は、ひとまずの終了を見せた。もとより簡単な顔合わせぐらいのものだったのを長引かせたのはほかでもない省吾である。
もちろん有意義なものにしたいという思いもあった。焦りもあった。
その後としては、マーク中尉以下、戦闘員は三名の待機を残し、ロペス隊とのすり合わせを行う事となる。
驚くべきことにロペス隊の駆逐艦は国際空港の地下貨物倉庫にまるまると隠れているのである。
それは小型の駆逐艦だからこそできる方法であるが、種を明かせば、もとよりこの国際空港の建設には反乱軍が一枚噛んでいるのだとか。
故に、一部植民地惑星にはこうして「不自然な空白」があるらしい。そのほとんどが設計上のミス、倉庫として報告されているのだという。もちろん不自然のないように。
「さすがはゲリラというべきかな?」
中々、したたかなものだと思わず感心する。
一応アニメでもあった内容なので、省吾は知っていたが、さすがにそれを口に出すことはできない。
その後、二、三とロペス艦長とは取り決めを行っておいた。
明日一番に、お互いの艦は宇宙に上がる。その後、トリスメギストスの試験運転を行い、はじめのソーシャルメディア活動を行い、即座にワープ。目的地は次なる惑星ベルベックへと向かうとされる。
アニメでも一応はそこに寄っている。なお、補充戦力は全てマーク中尉が落とした。ここで初めてのトリスメギストスの覚醒があったのだと省吾は思い出す。
しかし、それが訪れることはなさそうだった。
ユーキとアニッシュは早々にビュブロス側の警備隊長に連れられて行ったし、トリスメギストスの本来のパイロットもまだ生きている。しかも乗りたくないと文句も言っている。
「なんにせよ、明日か……明日……長いな」
ビュブロスはまだ真昼だった。
だとしても、艦長である以上、省吾は艦に戻らないといけない。乗員に半舷休息という形で半数を休ませる必要もある。それでも省吾は責任者として艦に残るべきだが。
それに、三名の捕虜に関しても色々と話を聞かなければならないし、今後の戦闘に関する知識を思い出さないといけない。
確かに、一時の休息は必要だった。
思えば、ずっと張り詰めていたのだから。
「生き残りてぇ」
ぼそりとそうつぶやく。
誰も聞いてはいない。省吾としての本心だった。
ジープで、ミランドラへと戻る。するとだが、にわかに艦内が騒がしかった。
嫌な予感は的中しているらしい。
「何事か」
「艦長、惑星軌道に残しておいたドローンが反応を検知しました」
名前は思い出せないが、士官の一人が足早に駆け込んできた。本来であれば無線通信が可能だが、それが手っ取り早いと思ったのだろう。
彼の報告。それは降下の際にあえて放置させておいたドローンの事だろう。そのセンサー角度は重力異常方面ではない。真逆の方角を向くようにセットしなおしたものだ。
「ワープ反応か」
「はい。微弱ですが、重力異常場を0時と仮定すれば、真逆、6時の方向から。かなり遠いですが、センサー感度を最大にしておけという指示でしたので」
「ファラン大尉、至急データ解析を。航路図と合わせて、仮に敵のワープとして、最大加速でどれほどかかるか割り出してほしい」
「了解。艦長」
艦を降りたがっているファラン大尉であっても、仕事であれば即座に取り掛かる。
彼は報告をしにきた士官と共に航海データ処理室に向かうことだろう。
「ケス少佐、念のためだ。国際空港に戻ってマーク中尉たちと合流してほしい。場合によってはロペス艦長とのつなぎ役になってもらうが」
「はい。それがよろしいでしょう」
ケス少佐は一礼して、タラップを駆け下りていく。
そこまで見送ってから、省吾はやっとため込んでいた息を吐き出すかのように、大きくうなだれた。
「また戦闘かよ……くそ、いまさら震えてきた」
一度目の実戦を潜り抜けたというのに、恐怖が実感として湧いてくる。
重力を感じて、アイスコーヒーを飲んで生を実感したから余計に鋭敏になったのかもしれない。
だが、震えてる暇などなかった。自分が動かねば艦も動かない。結局、やるべきことをやらないといけないのだ。
そうでもしなければ、宇宙海賊の真似事も出来ない。
ゆえに、省吾は走った。艦橋へ戻り、艦長席に座ると、ジョウェインとしての知識をフル稼働させる。
「総員、第二種戦闘配備。機関、始動させい。即時第一種に以降も覚悟しろ」
偉そうなことを言うが、そうはならないでほしいと切に願っている。
「国際空港に通信回線開け。データリンク作業も同時にできるな?」
指示を飛ばしつつ、徐々にだが恐怖による興奮も収まってくる。
何か活動をしていれば和らぐのだ。
「さて……どんな部隊でくる。十中八九、ニューバランスだ。アンフェールは、トリスメギストスの真の機能について理解しているのか?」
ふと思った。
アニメでもそうだが、たかが新型一機に躍起になりすぎなのだ。プラネットキラーを無力化するといっても所詮単騎。警戒はするだろうが過敏であると思った。
だが、もし、パーシーたちが語った性能の全てを知っているとすれば……。
「合点はいくな」
どちらにせよ、対応をしなければいけないのだ。
『艦長、ファランです。計算出ました』
「うむ」
『おおよそになりますが、ニューバランス最新鋭艦とロケットブースターの併用とを考えれば恐らく、六時間後となりましょう』
「微妙な時間だな……ロペス艦長に通信開け、すぐに作戦を……」
と、言い出した瞬間である。
そのロペスが血相を変えて通信回線に割り込んできた。
『すまないね、割り込むよ。なんてこったな、不運だ。うちのおんぼろ艦のエンジンがへそを曲げてやがる! 修復には時間がかかりそうだ、六時間じゃ直らないよ。えぇい、エンジン回りは特に注意させてたんだが!』
その報告は、省吾にとってはショックだった。
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