明かされる裏設定の真実が頭痛すぎて対処方法を教えてほしい

「ちょっと放してよ! スケベ! 変態! ゴリラ!」


 まるで子猫のようにアイアンの脇に抱えられながらも、かみつこうとしてくる姿勢を見せるアニッシュはある意味ではアニメの彼女そのもので、省吾は一人感心していた。

 勝気で、少々喧嘩っ早いところが欠点とも言うが、正義感の強い少女である。アニメ本編においては一話で負傷し、本来であればパイロット候補生のはずが、当然怪我でそんな許可も下りるわけもなく、何かと主人公に突っかかっているイメージがあった。

 正直、ヒロインとしてのムーヴはゼロに等しかったような気もする。とはいえ、それは本来であれば戦いなど無縁のはずの主人公ユーキのことが心配であるからという気持ちの裏返りでもあったのだが。


(しかし、アニメそのままだな。いや当然と言えば当然だが)


 いまだに抗議を続けるアニッシュ。そんな彼女を宥めようとしているのか、ユーキは「やめなよ」などの言葉を投げかけているが、当然、強気で勝気な少女がそんなことで言うことを聞くはずもないのだ。


「第一! そっちの人、運送会社の人じゃなかったわけ!? それにこっちの人はどうみても軍人じゃない! しかも地球軍! なんでこんなところにいるわけよ! しかもさっき宇宙で戦争してたでしょ!」


 凄まじいまでの勢いで、省吾含めたその場の全員が少しだけ呆気に取られていた。


「やれやれ……お転婆のはねっ返りは嫌いじゃないが、こうもうるさいとねぇ。アダマンも甘やかしすぎてんじゃないかい?」


 ロペスはさてどうしたものかと顎をさすりながらアイアンの両脇の少年少女を見定める。

 彼女と手、二人に危害を加えるつもりなどない。


「ここはビュブロスよ! おじいちゃんも何も教えてくれないし、変な荷物は届くし、挙句はこの状況よ! あなたたち、おじいちゃんのお客様かなにか知らないけど……」

「アニッシュ、もうやめなって。どうみても悪いのは僕たちだよ。それに、軍人さんなら、そういう言葉使いって、警備部隊の評判に関わると思うんだけど」


 クールというか、意外と物事を冷めた目で見ているのがこのユーキという少年の特徴だった。

 とはいえ、さすがに命のやり取りを続けるという緊張感の中では彼も本来の少年らしい良くも悪くもな優柔不断さを見せる。

 彼がこうして冷静でいられるのは平時ぐらいなのだ。


「あんたはどっちの味方なのよ!」


 この場合、アニッシュの言葉にも一理はあるのだ。

 のぞき見をしているという点を除けばだが。


「アニッシュ!? なぜここにいる!」


 さらに状況をややこしくする者たちが現れる。

 アダマンだ。彼は他にもぞろぞろと人を引き連れていた。大半は惑星自治役員などが殆どで、浮かない表情を浮かべている。その中には数名程、警備部隊の上官役だと思われる者も二名いた。

 それと同時に、白髪の老人と彼に付き従うように並び立つ若い男がいた。

 そのうちの、老人に省吾は見覚えがある。


(博士だ。フィーニッツ博士……トリスメギストスの開発者にして、ニューバランスの裏切者……ついでに言えば事実を全く語らないトリックスター扱いの爺さん)


 ある意味では全ての元凶ともいえる男だ。

 そもそもこの老人がトリスメギストスを開発しなければ話が始まらないので、野暮な突っ込みであるが、本編中の彼は重要なことは話さない割には意味深くつぶやくだけで、どうにもトリスメギストスの全貌を知っていたようだが話すこともない。


 本来なら終盤に説明セリフ過多で描写するつもりだったのかもしれないが、そうはならない打ち切りOVA。

 彼の語らなかった設定のいくつかはまさかのアンフェールが教えてくれたのだが。

 そもそも、この男が色々と話してくれれば丸く収まる話も多かったような気がする。

 それに、もう一つ気になるのは博士につきそう男の存在だ。金髪の若い男だ。中々にハンサムだと思う。年齢も恐らくは二十代前半といったところか。

 目立つ姿をしているが、はてこのようなキャラはアニメにはいなかった。


「おじいちゃん!? それに、教官まで……」


 それはさておき、アニッシュにとっては中々逆らい辛い相手が続々と出てきたのか、一応大人しくはなる。といっても、好奇心と敵愾心が灯った両目はこちら側を向いているが。

 対するユーキはどこかホッとしている。


「アニッシュ候補生……いつかはこういうことをするのではないかと思っていたが。それにアルバイトまで巻き込んだのか」


 教官の一人がそれとなく、アダマンに遠慮しながらも注意をし始める。


「だって、いえ、その、気になったので……宇宙では戦闘があったともっぱらの噂ですし。候補生とはいえ、私たちにはスクランブルから外されて、説明がないままというのは釈然としません。それに、こんな状況、目立たないわけないじゃないですか」

「アニッシュや、これはビュブロスに関わる大切なことだ。ことを大きくしないでくれ」


 アダマンも介入してきて、話が長くなりそうだった。


「失礼?」


 なので、省吾はさっさと話しを進めたくなりわざとらしい咳ばらいをして注目を集める。すると全員の視線がつきささり、それはそれで圧倒されかけてしまう。

 ミランドラにいたときも似たような状況があったが、やはりこういうのは慣れない。


「ことは一刻を争う。トリスメギストスについて、そして現状のニューバランスについて、君たち反乱軍がどう動くつもりなのかを私は早急に話したい」


 昔、何かのテレビでみた。話を早く、円滑に進めたいなら答えとなる質問を投げかけるべきだと。これが果たしてそれに即しているかなど、省吾にはわからない。

 わからないが、アニメという形でこの世界を知っている者としては、とにかく先へ進みたいのである。

 どうせ、この立場から逃げることなどできないし、それならば出来うる限りのことをやるしかないのだ。

 今の省吾は、会議室にのろのろと移動する暇すら鬱陶しかった。とにかく話を続けたかったのだ。


「あんた、ジョウェイン中佐か……アンフェールの右腕がなぜここに」


 省吾が発言をした結果、フィーニッツ博士と金髪の男がこちらを見てぎょっとしていた。当然だろう。彼らは元ニューバランス。ジョウェインという男の評判は知っていて当然だ。


「フィーニッツ博士。下手を打ったな。あなたがこの惑星にトリスメギストスを持ち込んだことはすでに上層部は掴んでいる。ニューバランスの情報網を甘くみたツケだ。その為にアンフェールがこの惑星を破壊してでもトリスメギストスを処分しようとしている」


 この言葉はわざとである。すでに作戦データはアダマンたち代表、そして反乱軍側には伝わっているだろうが、その他の面々にはまだ周知はされていないようだ。

 特にユーキとアニッシュに関しては顔を青くするほどに驚いている。


「わ、惑星を破壊……!」


 ユーキだ。

 本来なら、彼の家族や友人を殺した男であるジョウェイン。しかしその歴史は消え去った。


「そうだ。少年。だが、私はそんなことをするつもりはない。そのような命令を遂行するつもりはないし、アンフェールに従ってやるつもりもなくなった。いや、今回の作戦を受けてやっと奴から離れる口実ができた。あの男を軍の椅子から引きずり落とす算段がついたというわけだ」


 共犯者は多い方がいい。巻き込むなら大勢がいい。

 今はまだミランドラの乗員ぐらいだが、ここですべてを打ち明けることでさらに賛同者を増やそうという省吾の安易な考えである。


「アンフェールを討つ。ファウデン総帥にもそろそろ隠居してもらいたい。今のニューバランスは歪んでいるのでな。私は色々と手土産に投降してきたというわけだ。そうだな、ロペス艦長、アダマン代表。その為に、私は宇宙でニューバランスの軍隊と戦ったはずだが?」

「そ、それは、そうですが」


 今度はアダマンの方に視線が集中する。

 彼は口ごもりつつ、頷くしかなかった。

 それでは話が進まないので、再び省吾が音頭を取る。


「プラネットキラーを敵艦に撃ち込み、重力異常を出している手前、むこうもやすやすとワープで侵攻することはできない。といっても、他に方法はいくらでもあるわけだ。そしてアンフェールはどういうわけかトリスメギストスに執着している。今回の作戦も、もとを正せばそれが理由だ。フィーニッツ博士、説明を願いたいな。なぜニューバランスの軍事科学者であったあなたが組織を裏切り、トリスメギストスを反乱軍に手渡したのか。しかもロペス艦長から聞けば、あれは戦いに使ってはならないものというじゃないか? 新兵器ではないのか?」

「……」

「だんまりか?」

「中佐、それにつきましてはこの私がご説明します」


 明らかに無言を貫こうとするフィーニッツ博士に対して、金髪の男は一歩前に出てそういった。


「パーシー!」


 フィーニッツ博士は彼を、パーシーを制止しようとしていたが、その前にパーシーは口を開いた。


「パーシー・ライトミリア技術大尉であります。中佐。トリスメギストスは確かに新兵器として作られました。ですが、あれはもはや機動兵器の枠に収まるものではありません。技術的な、専門的な部分は説明を省きますが、あれは単体で戦場を変えてしまう。プラネットキラーだけではありません。核兵器や電磁パルスなどの超兵器すらも無力化し、果ては……惑星そのものを破壊可能です」

「……それだけではないな。大量破壊兵器を無力化など、数を揃えればどうとでもなる」

「鋭いですね。トリスメギストスにはナノマシンが使われています。元々は、メンテナンスを軽減させるだけのものでしたが、そうでない。私たちでも予測不可能な機能を持ちました」

「まさかと思うが自己増殖が止められないだとか、環境改善に使うだとか、一昔前の映画のような話をするつもりじゃないだろうな?」


 ナノマシンと聞いて省吾は少しうんざりした。

 ロボットものに限った話ではないがSFだとかなり便利扱いされる設定だ。時々、ナノマシンというわくをこえて暴走しているような気もするが。

 しかし疑問なのはそこだ。ナノマシン。このアニメにそんな設定があっただろうか?

 そんな話が出てきたような記憶はない。


「……本当に鋭いですね。厳密には自己増殖ではありません……複製です」

「どう違うのか?」

「……ある日、トリスメギストスは一つのマシンを生み出しました。それは三十センチほどのパペットマシンです」

「うん?」


 パペットマシン。要はペットロボットである。ロボットアニメなどではたまに出てくるアイコンキャラというか、コメディリリーフの役割をもつことも多いだろう。

 そういえば、そんなものがいたような気がする。トリスメギストスの整備に欠かせないデータを持った記録媒体扱いされていた。

 確か名前が……トート。


「それだけかね?」

「えぇ、しかも、いつどうやってが不明です。ですが装甲素材はトリスメギストスと同じです。ある日、忽然と、トリスメギストスのコクピットにいました」

「え、怖い」


 思わず素が出てしまった。


「いいですか、ものがある日突然、生まれるんです。作り出されるんです。これがどういうことか……」

「そのトリスメギストスは自分と全く同じものを量産できるかもしれないってことですよね?」


 パーシーの結論を述べたのは、ユーキだった。

 彼としても思わず口に出したのだろう。言った後で、少し顔を赤らめてうつむいた。


「そ、その通りだよ! それだけじゃない……!」

「パーシー! それ以上はもういい! とにかくだ、トリスメギストスはニューバランスの手に渡っては恐ろしいことになる。データが渡れば量産されるのだぞ!」


 明らかに無理やり話を切り上げるフィーニッツ博士。

 だが、省吾は、パーシーやユーキの言葉でとある考えへと思い至っていた。

 それは彼がある意味ではオタクであること、しったか知識とはいえSF的なニュアンスの考えをもっていること、なによりロボットアニメやSFではありがちな設定の羅列がまるでパズルのように組みあがっていったことだ。

 その結果、彼が思い至った結論。それは。


(……トリスメギストスは自分で自分を作れる。小型マシンを量産することで、さらにその速度をあげる。プラナリアやアメーバみたいにうねうねと生物のように増えるんじゃない……物理的に作り出すんだ、こいつは……鼠算で……あれ、それってものすごくヤバい代物じゃ?)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る