続々と集まるメインキャラたちにどういう反応をすればいいのかわからないの

「アニッシュ、あれって軍隊の船でしょ?」


 ユーキ・シジマは国際空港へと降り立ったミランドラを遠目に眺めながらも、幼馴染のアニッシュのあとを追いかけた。あれが地球軍の最新鋭巡洋艦なのはネットでも知っていることだが、あれがこんな辺境惑星にくるものだろうかと。

 空の上では何か、戦争が起きていたらしいけど、詳しいことは民間人には知る由もない。


 とはいえ、果たして自分が民間人かと言われると困るところはある。

 こうして、警備隊のアニッシュ後ろについて軍隊のマシンの整備を手伝わされている。エンジニア志望だったのは本当だし、機械いじりも嫌いではないので、この経験は自分にとってもプラスだと思っていた。


「宇宙では戦争やってたって?」

「知らないわよ! 私たち候補生にはまともな情報は降りてこないの。それにあたしは待機命令よ。機体の数はそろってるのに、失礼しちゃうわよ」


 アニッシュは活発な栗色の髪の毛をポニーテールに無造作にまとめた女の子だった。頬を膨らませて、不機嫌なのはこんな緊急事態に暇を出されているからである。

 そこに、たまたまアルバイトにやってきたユーキを見つけて連れまわしているというわけだ。

 彼女は昔から勝気でユーキはよく泣かされていた。


「うちは八機のゲオルクに二機のラビ・レーブよ。候補生はあたしをいれて八人。教官は二人。で、何をどうすれば三人も出撃待機になるわけ!?」

「そういうものなんじゃないのか?」

「馬鹿ね、戦争が宇宙であったのよ。それなのに出撃要員を減らすものですか。おじいちゃんもなにか隠してるし、最近、教官たちも様子がおかしいのよ。それに、なんだかよくわからない貨物まで運ばれてきてさ」

「あー、そういえば三週間前にそんなことが」


 確かに整備をしている時に何か仰々しいものが運ばれていた気がするが、とりとめ

て気にはしなかったなと思う。

 本星からの支援物資が届くことがまれにあるのだ、そういうこともあるだろうという感覚だった。


「のんきねぇ、あなた。ここに反乱軍がいるかもって思わないの?」


 そんな幼馴染を見てアニッシュは呆れた顔を浮かべていた。

 植民惑星側が反乱軍贔屓なのはユーキも知っているところだ。有名な話であり、ある種の暗黙の了解というものもある。

 地球から離れれば離れるだけ反乱軍寄りである。

 このビュブロスもどっちかと言えば反乱軍よりなのは空気で感じていた。何より、アニッシュの祖父で、この惑星の代表を務めるアダマンはニューバランスが嫌いだと公言している。


「でもさ、いて何をするのさ? こんな田舎の星で」


 戦略価値というものが低いとミリタリーオタクな友人がいっていたことを思い出す。

 ビュブロスは田舎も田舎で、特にこれといって有用な資源が取れるわけでもない。ニューバランスであれ、反乱軍であれ、ここに基地を作る必要性がないのだと語っていた。

 彼らは知らないことだが、その予想が大きく外れていることなどわかるはずもない。


「知らないわよ!」


 といって、アニッシュはくると振り返る。

 栗色のポニーがふわりと揺れて、彼女の端正な顔つきをまるでカーテンレースの向こう側から現れるようだった。


「だから、ちょっと調べるのよ」


 さっきまで怒っていたはずだが、今ではにんまりと笑みを浮かべている。


「調べるってまさか」

「そう、おじいちゃん、絶対何か隠してるわよ。それに、ここ、絶対に反乱軍がいるわ。それにあの戦艦、どうみてもニューバランスのものじゃない。それがなんでここに大人しく降りてきてるのかも気になるでしょ?」

「いやでも、一応、各惑星は地球の植民地だろう? そりゃあ、用事があれば軍隊もくると思うけど」


 とはいえ、確かに、なぜこんな田舎に軍隊がきて、しかも戦争をしたのか。

 気にはなる。むしろ、気にした方がいい。なにせ、宇宙では戦争が起きた。それはつまり、たくさんの人が死んでいる。そのような恐ろしいことが、もし仮にこの惑星上で起こったらと考えるとゾッとする。


「おいおい、ばれたら殺されないか?」

「ばれなきゃいいの。ほら、行くわよ。何もわかりませんじゃあたしの気がすまないの」


 そういってアニッシュはユーキの手を引っ張って、駆けていく。

 ユーキとアニッシュ。

 それは、アニメにおいては主人公とヒロインを演じることになる少年たちであった。


***


 ビュブロスに降り立ってまず感じるのはむわっとした湿気だった。

 省吾は熱帯雨林を経験したことはないが、日本の夏ですらまだからっとしているはずだとなんとなく感じた。こんな中で軍服で立っていれば数分もしないうちに汗まみれになるだろうというのがわかる。

 それ以上に、このジョウェインの体がどうにもクーラーなどに慣れているせいか、思った以上に不快感があった。

 宇宙船の内部というのは環境が一定に保たれるものだ。そうでもしなければストレスを抱える。宇宙空間でのストレスは思った以上に深刻な症状を引き起こしやすい……というのがジョウェインの知識だ。

 確かにそうかもしれないと納得はするが、それにしてもである。


「お出迎えのようですな」


 交渉に同行する形となったのはマーク中尉と他数名の士官である。

 マーク中尉を選んだのは、やはり相手側に対する姿勢だ。こちらの最大戦力である彼を降ろすということは、それだけミランドラを無防備にするということである。

 本当であれば、そんな恐ろしいことなどできるわけもないが、やっているのが省吾である。

 だからこそ、これを頼み込んだ時、マーク中尉は大笑いをした。断れるか、それとも反感を買うかと思ったが、不思議なことに彼は二つ返事で了承した。


(戦闘中は、あんまり気が回らなかったし、アニメにも果たしていたかどうかわからんが、このミランドラにはこれだけの軍人がいるんだよな)


 その他、ついてくるのは階級的には副長にあたる戦術士のケス少佐。四十代の落ち着きのない神経質な男だ。これでも省吾の考えには賛同してくれている。

 逆に不承不承、艦を降りることを考えているのが航海士のファラン大尉。彼もまた若い。三十代だった。マークより階級が上なのは家柄に起因する。それでも仕事はできる男だった。

 そもそも、このミランドラ隊が、比較的若い軍人で構成されているのがある。

 四十代など、ニューバランスという組織全体でみればやはり若造に位置するらしい。


 それはつまり、階級があがれば年を取るという年功序列の組織図の中において、若い士官は、エリートであっても上官に使い潰される立場にあるということである。

 もし、その立場を何とかしたければ、こびを売るか……家柄で守ってもらうしかない。

 しかし家柄があっても、アンフェール大佐や、総帥であるファウデンに不利益となれば意味がない。今回の作戦にあたり、ジョウェイン以外の部隊員はようはそういうメンツが集められていることに、気が付く。


(といっても、これもジョウェインの知識……いやアンフェールの言葉か)


 ジョウェインの記憶をたどれば今回のメンバー選別に対してアンフェールは気に入らん奴が多いとかぼやいていたらしいことを思い出す。

 はねっ返りはまだしも成績優秀でも軍人にしては、いやさ高官としては潔癖症なものたちは疎ましいというわけである。

 もちろん表立っての処分はしない。今回の作戦も、表面上をなぞれば反乱軍の討伐任務だ。

 露骨なまでに怪しいとは思うが、この軍隊が少し臭い部分があるのは誰もが思うこと。その程度では疑問にすらならない。

 その侮りが自分たちを殺す羽目になるとは、さすがに考えていなかったようだが。


「やぁやぁ、あんたがジョウェイン中佐だ?」


 出迎えのジープにはロペスがいた。彼女の横には屈強な海兵隊員のような男がボディーガードとしている。アイアンというあだ名をつけられた男だったはずだ。無口で、というかセリフがなかった気がする。

 ついでにアニメの舞台の関係であんまり活躍している場面がない。機銃を撃ってるぐらいだろうか。

 ジープの運転手にはあまりにも若い女性士官がいる。

 彼女もアニメのキャラだ。操舵士を担当するピネレーという金髪の女の子。まさに今どきの女の子といった風貌で、性格も大体そのような具合だが、操舵の腕前はピカイチとかそういう設定だったはず。裏設定ではゲーマーだったとかなんとかあった気がするがあまり覚えていない。


「どうもロペス中佐」

「階級はいい。こっちは反乱軍だ」


 ロペスがそういうと隣のアイアンがぴくりと反応を示した。


「いいんだよボーイ。こちらさんは、私らの存在を認知してる。鼻が利くと言えばいいのかい?」


 アイアンをなだめるロペス。

 省吾はまるで言葉を促されているように思ったので発言を続けた。


「ニューバランスは疑いがありと思えば動く。そういう場所だ。今では確信に変わっている。手早く話したいな。長くとも二日しか猶予がない。プラネットキラーの重力場異常でワープ航路が遮断されていても、こっちに攻め入る方法はいくらでもあるのだから」


 異常宙域外にワープした後、ロケットブースターなどを使って物理的に進軍も可能なのだ。とはいえ、それを行うにしても準備が必要だ。こちらに攻め入る為の理由もこねくり回す必要も出てくる。

 いかにニューバランスが強行軍でもそればかりは組織の鈍重さに引っ張られる。


「なんで二日と言い切れる?」

「こっちにはあと二発のプラネットキラーがあるのでね」


 あいても素性を話すのであれば、こちらも奥の手を話しておく。

 これでもまた立場は対等とは言えないが、譲歩の形は取れただろう。


「それで、さっそく話したいことがある。トリスメギストスについてだが」

「ふん、やはりあれの存在はバレてるってわけだ?」

「アンフェールは血眼になっている」

「だろうね、あれは私らの理解が追い付かない何かだ。博士も、あのパイロットの坊やも、あれを戦闘で使う気にはなれんとのことだよ」


 その言葉を聞いて省吾はどきりとする。

 ついにきたのだ。本編にはいなかったはずのトリスメギストスの正規パイロットが。


「パイロットは私と同じくニューバランスの兵士か?」

「あぁ、そうだろう? といっても兵士じゃなくて研究員だったらしいが。まそれでもパイロットはできる。今はうちでゲオルクに乗ってるよ。トリスメギストスは戦いに使っちゃならん、解体するべきものだと言い張ってね」

「……そういうことか」


 省吾はあることを思い出した。

 アニメ一話。マーク中尉に果敢に勝負を挑んだゲオルクがいた。名無しで、パイロット描写もなかった。即時に撃墜されていたただの端役。

 もしかしたら、それが……。


(原作、改変だな。さて、どうなる……?)


 色々と考えを巡らせなければいけない。

 省吾はふうと小さく息を吐いて、湿気をはらおうと襟首を伸ばす。

 その時だった。意識したわけじゃない。たまたま視線を横に向けただけだったのだが、目が合ってしまった。

 少年と少女がこちらをみている。貨物コンテナに隠れながら。

 しかもその二人はどこかで見たことがあるような……。


「あ」


 思わず声が漏れた。なにせ、あの二人は主人公とヒロインだからだ。

 省吾のつぶやきにロペスも反応を示す。すると全員が彼らを見る。

 そうなれば、ユーキとアニッシュは慌ててそこから逃げようとするだろう。


「アイアン」


 ロペスが溜息をつきながらアイアンを顎でしゃくりながら、捕まえてくるように命令していた。アイアンは恐るべき健脚で二人に追いつき、両脇に抱えて戻ってくるのが見えた。


(おいおい、まさか、このタイミングで主人公とヒロインとも合流かぁ? 嬉しいような、そうでもないような)


 わーわーと抵抗するヒロイン・アニッシュに対して主人公ユーキは諦めたかのようにげんなりとしている。ある意味、その姿は平和的だった。アニメでの彼らはいつも緊迫していて、余裕がなかったから。


「やれやれ、代表のお孫さんとそのボーイフレンドだよ。覗きにくるとはねぇ」

「好奇心があるのだろう。悪いことではない。手荒なことはやめてあげて欲しいが?」

「何もしやしないよ。とはいえ、この場を見られたんだ。ちょいと付き合ってもらうさ」

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