待望のメインキャラとの出会いでも、それが死亡フラグだったら恐ろしいだけです

 ビュブロス国際空港、などと言ってもそれはあまりにもお粗末なもので深い森林を切り開いたど真ん中に建物を置いて、必要最低限の滑走路があるだけだ。金と余裕のある地球やその周辺の植民惑星であれば艦船打ち出し用のマスドライバーぐらい置いてあるのだがこの宙域はまだその手配すら住んでいないことがわかる。

 この世界に現存する宇宙船であれば一応、単独での大気圏外及び重力圏の脱出は可能ではあるが、それには相当の燃料を食うことになる。


 また船体に必要以上の負荷がかかる為、結局、マスドライバーは必要不可欠だ。

 立場の低い植民惑星にそれらがないのは、おいそれと宇宙へと飛び出せないようにするためという噂がまことしやかにささやかれているが、それは半分事実で、半分嘘だ。

 単純に遠い惑星へ資材を運搬する時間と労力がないのと、軍備拡張を進めているせいでその現状が都合がよいというなんとも面白くない事情がかみ合ってしまっているのだ。


(というのは嘘で、実はこの惑星の地下に反乱軍の基地があるというな)


 それを知っているのもアニメ知識のある省吾だけだ。

 秘密基地といっても設備はお粗末なもので、戦艦一隻を収納するドッグがあるだけだが、それでも反乱軍からすれば身を隠すのに重要な場所だ。


「艦長、ゲオルクが二機、ガイドをやるようです」


 戦闘終了後、艦内機能の回復と同時にミランドラはビュブロスへと降り立つ。すると国際空港から大げさな、円盤のような追加装備を腰につけた人型兵器の成りそこないのようなものが浮いてくる。頭部と胴体が一体化し、申し訳程度の両腕、脚部などは降着用の機能しかついていないようなそれは、人によっては土下座をしているように見えるという。

 その名をゲオルクと言い、旧式のテウルギアである。

 当たり前だが、ラビ・レーブよりは遥かに弱い。それでも大気圏内での機動力だけはあるとかそういう設定が確かあった。


(あれが活躍している場面なんてついぞ見なかったな。的だったし)


 アニメ的に言えばやられ役だ。植民惑星の警備には基本的にこのゲオルクが配備されている。といっても、標準的な量産機であるラビ・レーブも二機、配備されているのだからマシな惑星だと言ってもいい。

 どこら辺がマシなのかはわからないが、軍隊が正式採用しているマシンが二機もあれば十分だろうという上層部のお達しだ。


「ゲオルクの火器とて侮るなよ。ここを狙撃されたらさすがに落ちる。してこないことを祈るがな」

「しかし、直掩護衛を出さなくてもよろしいのですか?」

「刺激してどうする。まぁ、怖いのは確かだがな……」


 それもこちらのポーズだ。襲うつもりはないという姿勢の表れである。事実、艦内システムがオンラインになったとしても、火器管制システムは遮断させていた。そのことをビュブロス側にも伝えてはいる。

 ゲオルクが最低限の武器を構えているのは仕方のないことだと納得していた。

 あちらにしてみれば、省吾、いやジョウェインはまだ得体のしれない男に見えるだろう。いくら、ニューバランスと戦ったとはいえだ。

 それほどまでにニューバランスとは評判が悪いということだが。


「あ、艦長。通信です」

「繋げ」


 メインモニターには見知らぬ顔の女がいた。

 違う、省吾は知っている。画面に映る女は中年で、言葉を選べばふくよかな……ありていに言えば少々恰幅の良い女で、歳もジョウェインよりは上だったはず。

 その女はアニメにおいては主人公たち側の艦長であるロペスというキャラだ。

 中々の女傑タイプだったと思う。わりとヤクザ口調を使っていたような気もする。


『お、おい、そんな急に正体を見せて』

『あんたは黙ってな! どうせバレてんだろ!? 顔見せりゃいいじゃないか。あっちは宇宙でドンパチやって、敵を倒してるんだよ!』


 通信の向こう側は何か言い争いが聞こえてくる。

 声からさっするにアダマンとロペスの言い争いだろう。


『ったく……あぁ、申し訳ない。私はロペス・グリューン。あんたのお察しの通り、反乱軍の女さ。駆逐艦サヴォナを指揮している。古巣での階級は、中佐といったところかね?』


 アダマンを押しのけたらしいロペスはにかっと歯を見せて笑った。

 一見すると人当たりがよさそうだが、食えない女であることは知っている。

 アニメでは彼女の指揮で危機を脱したこともある。


「どうもロペス中佐。私はジョウェイン中佐だ。詳細は、先に送ったデータ通りだが、あなたが出てくるということはこちらの意図はご理解していただけたと思えばよろしいか?」

『さぁ、どうだろうねぇ。さっきの戦闘が八百長じゃないとも言えない。ニューバランスは、いやアンフェールはそれぐらいやるだろう?』

「片腕の私を始末してまでかね? そんな手間をかけるなら奇襲の後に惑星にプラネットキラーを撃ち込む。大佐はそれをやるが?」

『まぁ、確かに。アンフェールは根回しもやるが、やるときは派手だ。それをもうちょいマシに使ってほしかったがね?』

「私に言われても困る。だが、これで反乱軍側の大義は保たれるというものだ」


 会話の流れはつまり、省吾との会話データのことだ。

 アンフェール大佐が民間人の住む惑星に問答無用で虐殺を行おうとしたという事実。そこを切り取れば攻撃材料になる。世論の味方は引き込めるだろう。


「ゆえに、色々と話したいこともある。ロペス中佐が出てくるということは、そちらは交渉の席を用意してくれたと思いたいが」

『ま、そうなるね。お客様を無碍には扱えない。私はニッポンジンの血がちょびっとは流れてるのさ。お客様は神様ってね』

「神様の中には討たれるものもいるんだがな……」

『あっはっは! まぁそう言いなさんな。少なくとも私はあんたらの行動に嘘はないと思うよ。んじゃあ、空港で会おうじゃないか』


 ぷつんと通信が切れる。

 なぜかどっと疲れる。原作キャラ、しかもメインキャラとの会話だというのにどっと疲れる。しかし、掴みはよかったと思いたい。

 あの女艦長はだまし討ちも普通にやる女だ。確かアニメだとわざと主人公を見捨てるようにみせかけた囮作戦を実行して、このミランドラに奇襲をかけたこともある。 

 というか、その戦闘でジョウェインは失態を見せてマーク中尉に殺されている。


(冷静に考えればあの女艦長も死亡フラグじゃないか)


 ぞっとした。

 おかしい。まだ若いはずなのに胃痛を感じてる気がする。ジョウェインの体だからだろうか。

 しかし、あの態度は好意的な方だと思いたい。

 そこでいきなり奇襲を駆けられたらそれこそおしまいだが、こればかりは人の善意を信じるしかない。


「……格納庫に繋いでくれ」

「はっ」


 といっても、どうにも省吾は自分でも臆病だなと思うぐらいに様々なことに気をもんでいた。

 そして、ふと思いついたことを実行するべく、彼は出撃ハッチとも通じる格納庫へ通信回線を開かせた。


「整備班およびパイロットに通達。第二種戦闘配置を維持。各機はスクランブルの態勢を維持してほしい。交渉が終わるまでは、我々はまだ敵地にいるという認識を持ってほしい。もちろん、できる限りのことはする」


 そこまで言ってから省吾はついでにとオペレーターに追加指示を出す。


「おい、やはり全艦に繋いでくれないか?」

「はい」

「ん、ありがとう。あー、ビュブロス側との交渉がまとまり次第、船を降りる者には便宜を図る。私としてはぜひ残ってもらいたいが無理は言わん。そのものたちの幸せを願う。だが、もう暫くはまってほしい。我々は、やっと始まりに一歩を踏み出したに過ぎない。先の戦闘など、前哨戦にすらならないと思ってほしい。これから我々が相手にするのはニューバランス全軍である。しかし、彼らが全て敵というわけではない。諸君らと同じく、この軍の実情に疑問を抱き、くすぶる者も多い。彼らを蜂起させる為にも、我々は戦わなければならない。いいかね、これは正義の戦いである。臭いセリフを言っているが、事実だ」


 よくもこんなことをペラペラといえるものだと思う。

 そして言った後でちょっと恥ずかしくなる。でも我慢する。すべては自分の為だからだ。優秀なスタッフは、たくさんいて困らない。


「お疲れ様です艦長」

「あぁ」

「あの、艦長」

「何かね、えぇとクラート少尉であったか」


 何度か会話を果たしていて、やっとジョウェインの知識がこのオペレーターの名前を思い出す。クラート少尉はまだ若い。二十代半ばといったぐらいだろう。それで艦橋オペレーターをやっているのだから、エリートの部類だ。


「自分は艦長を誤解しておりました。お許しください。軍の在り方については私も同意見です。もし、正そうとおっしゃるのが事実ならば、ご協力します」

「そうか……ありがたいことだ」


 全員が全員、こう思ってくれればよいのだが。

 省吾は心の底からそう思う。

 そうこうするうちにミランドラは国際空港へと降り立つ。

 さぁここからが本番だ。艦長であり、クーデターの首謀者である自分はこの敵陣のど真ん中に降り立つ必要がある。


「マーク中尉に機動部隊は任せる。艦はいつでも発艦できるようにしておけよ。火器管制もオンラインで良い。ここまで来たらあとはこっちの本気を見せるまでだ。それと、プラネットキラーを一発、外に運んでやってくれ。手土産とでも言っておこう」


 ミランドラが大地に降り立つと今まで意識していなかった重力を感じる。

 むしろ、それこそが省吾にとっては当たり前の感覚だったが、なぜか今は違和感があった。


(ジョウェインはまともに地上へ降りてなかったのかもな)


 ふとそんなことを思った。

 体にのしかかる重力は確かに煩わしい感触だった。

 しかし、今は、むしろそれが生きているという実感を省吾に与えていた。


(さて……ご対面といこうか。主人公とは会えるかな?)


 そんな楽しみをもつのは不謹慎だろうか。

 いや、これぐらいは許されるはずだ。せっかく、アニメの世界にいるのだから。

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