伏線をちりばめられても、解読する側は大変である

 ナノマシンによる自己増殖だとかはSFではよく目にするパターンの設定だ。この世界においてはそこまで爆発的な増殖ではないらしいが、事実として機能は恐ろしい。

 スーパースペックのマシンというのは基本的にワンオフ、数があったとしても数機程度という認識はなくはない。むろんこれは絶対ではない。

 それに、アニメ論のような話になるが、真面目に考えてもよくわからないものを大量生産しようとはならないだろう。

 特にその手のマシンは整備だとか稼働率だとか、難しい話で厳しいだろうからだ。


 しかしながら、このトリスメギストスはその問題点をなんとも現実的というべきか、かなり物理的に解決してきた。ナノマシンが細胞分裂的に増殖するのではない。自らの設計データをコピーした自律マシンを作り、それがさらにコピーを作り、果ては己自身を作り上げる。


(フィーニッツが秘密にしようとしたのは大方このことだろうが……確かにやばい代物だ)


 しかも件の自律マシン、パペットマシンのトートはある日忽然と出てきたという。

 アニメでは確かにいつの間にかいて、ただのペットロボットとして認識されて半ば放置されていたはずだ。そんな伏線がさてあったかというと微妙である。

 場面が切り替わるワンシーンでちょろちょろ動いていただけというシーンはいくつもあったが。


(思えば、あのトリスメギストスとかいうロボットはよくわからない存在だった。単独の機動兵器としての性能は高い割には、撃墜寸前になる。性能を発揮すれば恐るべきスペックかもしれないが、普段は意味不明にリミッターがある。解除されたのは数回。ふーむ……わからん)


 やはりまだ全貌が読み込めない。

 とはいえ、十分な情報ともいえる。さてそうなると、次の議題である。


「トリスメギストスのスペックに関してはある程度理解できた。事実として、恐るべき性能を持っているということなのだろう。しかもデータがあれば量産も可能であると。なるほど、厄介な代物だ。しかし、そんなものを反乱軍に渡すというのは、博士、あなたはこれをニューバランスへのカウンターとして使おうと思ったのでは?」


 という質問を投げかけてみるが、アニメでは一応の理由は語られている。

 トリスメギストスのデータを反乱軍に渡すというところはその通りだが、本来はそのまま解体処分される予定だったというのだ。

 アニメ本編ではニューバランス追撃をかわす為に仕方なく起動させ、戦闘に入ったという流れがある。なにより反乱軍の正規兵も殆どが戦死していて、動けるのは主人公を含めて数人だけだったのだ。

 なので、省吾の質問は半ばブラフである。


「ノーだ。これは奴らの手に渡してはならん」

「これは存在しているだけでも危険なのです。あまりにもパワーバランスが取れない。諸刃の剣なんです」


 フィーニッツ博士もパーシーも言葉を揃える。


「ふむ?」


 しかし、省吾はどうにも違和感をぬぐえなかった。


(……破壊しなきゃ、ならないんだよな?)


 そう、これの最終目標は破壊のはずである。

 アニメ本編ではそうできない事情もあったのだが。


「中佐、話の続きはクーラーのある部屋でしましょうや。蒸し暑くてかなわねぇ」


 省吾の思案を中断させたのはマーク中尉だ。

 彼の意見には他のみなも賛同している様子もあった。


「それもそうであるが……」


 省吾としては話を早くまとめたいという欲もあった。


「こんな暑苦しいところじゃ考えるなんてのも出来ませんでしょうに。よりよい議論をする為にもまずは環境を整えよという話ですよ」


 そういわれてしまうと、省吾も無碍にはできない。

 何より、省吾はマーク中尉には多少の遠慮というべきか、苦手意識というべきか、そういう感情がある。あまり逆らいたくもないのだ。


「その通りだな中尉。すまない、そういうわけで、案内をしてもらうと嬉しいのだが」


 省吾が軽く頭を下げると、アダマンたちも頷くしかない。

 もう一台のジープが用意され、省吾たちはそれに乗り込む。運転手はビュブロス側の警備隊員が担当し、前方にアダマンたち。後方にロペスたちとなぜか主人公ヒロインコンビ。そのさらに後ろでフィーニッツ博士たちという並びで、一行は国際空港内へと進んでいく。


「ありゃ腹に何か抱えている顔ですな」


 道中の事である。

 マークがつぶやくようにいった。


「で、あろうな。あの爺さん、全てを話していない」


 省吾はそれが自分に向けられたものだと分かっていたので答えた。

 マークは野性的な直感で生き残ってきた男だ。やはり何かを感じ取ったというのだろう。彼は別に超能力者でもなんでもない。

 いうなれば長年の経験と人物観察能力がずば抜けて高いというべきだろうか。

 そんな彼の評価なのだ。フィーニッツ博士の動向は注視するべきなのかもしれない。

 元のアニメからして胡散臭い人物ではあった。

 さりとて、スパイかと言われるとそうでもない。仮にスパイだとして、命の危険がある反乱軍へ寝返り、あまつさえマシンをもっていくなどリスクが大きすぎる。


「それに、博士と、あのパーシーという男はトリスメギストスを破壊、解体処分すると言っていたが、反乱軍側はそうは考えていないだろう。あれほどの兵器だ。ニューバランスに対する乾坤一擲の新兵器として使いたいはずだ」


 わざわざ解体処分するものを反乱軍が危険を冒してまで保護するとは思えない。データなりを利用するつもりもだろう。

 大量破壊兵器を無力化できるというのは戦力の少ない反乱軍にとっては貴重だ。


「中佐はどうお考えで?」

「使えるものは使う。それだけだな。事実、トリスメギストスはバリアーになる」

「バリア?」

「プラネットキラーなりを無力化するのだ。それがわかれば、敵の攻撃を抑えられる。まぁそれだけが私の考えではないがな」

「何か、他にお考えが?」

「電子なども操れると言った。となれば……色々とな。思いつくこともある。マーク中尉、炎上という言葉を知っているか?」

「は?」

「いやなに、そのままの意味ではない。比喩表現だ。この時代ではもう古いかもしれないがね?」


 悪だくみは楽しいものだ。ずっとこれだけを考えていたい。


「ま、それはそれとしてだ……やはり違和感があるな。破壊処分したいのだろう? あの二人は。なぜ持ってきたんだ」


 何かがある。

 が、その何かがわからない。

 もやもやとする話だった。

 省吾はトリスメギストスを利用する考えを持っていたが同時になぜあれがいまだに存在するのかという疑問もなくはない。破壊処分すると言いつつ、この場に残っているという矛盾。

 もしかすれば、そこにはアニメの最終回に繋がる何かがあるのかもしれない。それがわかれば、今後の動きもやりやすくなるというものなのだが。


「パーシーは、本気でトリスメギストスを処分しようと思っているようだが……いや、違うな」


 省吾は半ば確信めいた発想があった。


「あいつだけは、恐れている。トリスメギストスを起動させることを。だから乗りたくないのか?」


 だとして、アニメ一話で死んだ場合の展開にも違和感がある。

 いや、あれはニューバランスに奪われないようにするために戦ったと思えばよいのだろうか。

 どちらにせよ、頭が痛くなる話が多かった。


「気になるな。一度気になると止まらない。フィーニッツ博士……畑違いゆえに詳しくは知らないが、アンフェールが意地になっても手に入れないトリスメギストスを開発した男……」


 それだけではない。

 これから反乱軍側との交渉もある。考えることはいっぱいだった。

 なにより、降りる部下たちの安全も保障してほしいところだし、速く敵の行動にも備えたかった。


「あの二人には悪いが、さっさとトリスメギストスを量産して、ニューバランスにぶつけてもらった方が、我々としても手っ取り早いのだがな……まぁそれをする前にこちらの仕込みも協力してもらうことになるがね」


 

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