宇宙に儚く咲く一輪の華はロマンチックだけどなりたいとは思わない

 対ビーム防御爆雷のスモークが敵艦のビームを包み込み、霧散していっても拡散しきれないビームの衝撃が自分たちの戦艦を襲う。亀裂が走ったような音が腹の奥底に響き渡るが、ジョウェインの知識がこの程度は傷にもならないと叫んでいるようだった。

 腐っても戦艦だ。分厚い装甲で守られている。ビームの威力を軽減する爆雷が機能している限りは小石をぶつけられた程度のダメージしか入らない。

 ただし、この爆雷ももって数分だということも知識として流れ込んでくる。しかもかなり貴重なものだ。使いすぎてはのちの戦闘で困る。


「つ、ついに実戦か……お、俺が指揮しなきゃいけないんだよな?」


 思わず小声が漏れる。幸いなのはこのつぶやきが他の轟音にかき消されて聞こえないことだろう。

 出来れば戦いにならないようにしてほしかった。

 しかしいずれ来ることだった。

 腹をくくる。そう決めたはずでも怖いものは怖い。しかし、それを今言っても意味がない。

 もはや戦端は開かれた。


「良いか、諸君。ここで我々は今現在のニューバランスと決別をする。生き残れ、生き残り、真実の勇者として名を残すぞ。正義は我々にある。生き残れ、とにかく生き残れ、ここを乗り切らねば我らに未来はない!」


 省吾は叫んだ。恐怖も戸惑いもふりはらうように。

 ミランドラは急速回頭を果たし、後退しながら迎撃行動に映っていた。戦艦が180度の回転を行ってもあまりGを感じないのはさすがはアニメ、そして未来世界の技術だと思わず感心する。


「全主砲、ミサイル、一斉射! テウルギア隊はマーク中尉に武装コンテナを届けた後、指示に従え! 味方主砲、味方には当てるなよ!」


 生き残る。その為に戦う。その為に反乱軍の仲間になる。

 であるならばこうなることは必然だった。だがいざ目の前で起きると、怖いものは怖い。本当なら逃げ出したいが、そうもいかない。逃げれない。なら、やるしかないのだ。

 ジョウェインとて軍人だった男だ。その肉体と知識を手に入れた省吾にも最低限のものはある。問題はそれをどのタイミングで適応すればいいかという経験がないだけだが、その部分は騙しだましでもやっていかなければならない。


『じょ、ジョウェイン中佐! これは一体どういうことか!』


 こんな状況だというのに、アダマンの困惑の声が別モニターから響く。

 煩わしいと思いつつもこれは必要なことだ。状況をあちらに伝えるにはこれが手っ取り早い。


「どうもこうも、これが私の答えだ! 裏切者だからな! 始末されている!」

『はぁ!? わ、我々をそれに巻き込むおつもりですか!』

「なぁにを言うか! 反乱軍を引き込んで置いて何をいうか! いいから黙ってみていろ! 出来るなら、援護も欲しいのだがね!」


 これこそまさしく神の視点。視聴者の視点だ。

 ビュブロスには反乱軍が隠れ潜んでいる。それが疑いではなく事実であることを省吾は知っている。そこにトリスメギストスという新型もあり、それを調整している科学者がいることも知っている。

 疑いではなく、確信をもって行動できるというのは心強いものだ。

 あとは件の反乱軍側のアクション次第である。


「テウルギア隊、戦闘に入ります!」

「各機、正常値」

「敵部隊、十二機、同数!」

「ガンカメラの情報共有! 敵ラビ・レーブは通常使用です!」

「マーク中尉、武装コンテナ到着! これより全権委任、オペレーター各員はフォローに回ります」


 状況は目まぐるしく動いている。

 各機に搭載されたカメラからの情報映像がランダムでサブモニターに表示される。各機にはそれぞれにオペレーターが付いている。この場合、十二機、十二人の専属オペレーターである。オペレーターが機体各部の情報を読み取り、残弾や損傷状況、

推進剤などの報告を行うと同時にパイロットでは手が回らない敵機襲来の警告なども行われる。

 戦艦とはつまり母艦以上に巨大な情報端末である。これを撃沈されてはテウルギアなどの機動兵器はその性能の八割を失うに等しい。他あらゆる一切の援護が受けれないからだ。

 

「戦場の光が見えた……!」


 ビームなどの光学的な光ではない。爆薬による火炎の光。宇宙空間で炎が上がるという異常事態が現実として目の前に起きれば嫌でも脂汗が出てくる。

 宇宙空間であるため、機体内部の活動酸素や起爆剤などの燃焼作用が終われば炎はすぐに消える。それでも光と炎とでは実感が違った。

 咲いてすぐに散る華。何かのアニメだったか小説だったか。よく宇宙空間の戦闘をそう表現していた気がする。省吾はそれをなるほどと理解した。


「テウルギア隊に通達。敵機を遠ざけろ。引き連れるなり、押し込むなり方法は問わん。我が艦の射軸から早急に離れさせろ」

「はっ……えぇ、ぶ、部隊をですか!?」

「そうだ!」


 部下がまるで悲鳴のように叫んだ。

 その指示が、あまりにも恐ろしいことを言っていたからだ。

 というのも艦同士の間に機動兵器を置くというのは実を言えば盾にしているのだ。敵部隊を目の前に置けば、敵艦からの砲撃を妨げることになる。味方殺し、フレンドレィファイアは避けたいものだからだ。

 とはいえ、原作のジョウェインはそれを無視して味方ごと砲撃するような男であったし、ニューバランスの好戦派はそれぐらいの事をする。

 とはいえ、戦闘の序盤。まだ状況を見極める段階で、省吾の指示は蒸気を脱していた。しかし、当の本人にそんなつもりは毛頭ないことを補足する。

 省吾にも、彼なりの作戦があるのだ。成功しなければそのままおしまいであるが。


「早くしろ! それとプラネットキラーを射出準備をしろ!」

「え、えぇ!? プラネットキラーをでありますか!」

「何事も先手必勝だ。ついでにビュブロス側にこちらの本気を見せつける必要がある! どうせ三発もあるのだ、一発使ったところでどうとでもなる!」


 自分の命令で人殺しをするという当たり前の感覚がなくはない。しかし、こんな異常事態で、それを気にしている暇がないのも事実だった。

 というよりは、そんなものをのんきに気にしている状況はとうの昔に過ぎているのだ。


「民間惑星数百万人の命を消すか、自分たちを消しに来た敵を殺すか、どちらがマシかを考えれば答えはでるだろう!」


 自分でも酷いことを言っている自覚はある。

 自覚しているだけマシという言い訳もある。

 省吾はとにかく死にたくないだけだ。殺しにくるのであれば、抵抗をする。徹底的に。そうでもしないとこのキャラクターは生き残れないのだから。


「テウルギア隊に伝えい!」


***


 省吾……ジョウェイン中佐の指示が飛んできた時、マーク・ケイシーは思わず爆笑した。


「は、ははは! 元とはいえ、味方にプラネットキラーをぶち込むか!」


 マーク専用のテウルギアは装備されたランスで敵機の胴体を貫き、それを盾にしながら別機のマシンガンを防ぎ、反撃のライフルで頭部、そして武装を持つ右手を破壊した。戦闘能力を失った敵機は背後からのミランドラ隊の狙撃で撃墜される。

 貫かれた敵機を蹴飛ばしながらランスから引き抜き、次なる獲物を狙う。


「本気なようだな、中佐!」


 マークは各機に中佐の指示に従えという命令を下しながら、新たな敵機を串刺しにした。


「クーデターを起こすと言ったときから妙だ妙だと思っていたが、なるほど、これは面白い。つまらん男だと思っていたが……!」


 自分の知るジョウェイン中佐とはもはや別人ともいえるような男。

 何を言い出すかと思いきや、軍に反旗を翻し、すかさず大量破壊兵器を元味方に撃ち込むというとんでもない作戦を命令してくる。

 これが仮に、民間惑星に撃ち込むだの、戦っている自分たちごと撃ち込むだのしていれば落とし前を付けさせることも考えるが、今の作戦はマークとしては面白かった。

 それほどまでにあの男は本気なのだと理解した。

 ニューバランスを正すだとかの話にはあまり興味はないが、むかつくアンフェールを一泡吹かせられると考えればこれほど面白い話はない。


「プラネットキラーを軍に撃ち込む。デカい反抗の狼煙にはピッタリだ。中佐殿。まぁ、大佐殿が俺たちを殺しに来たのだ、それ相応の返礼はして当然か」


 マークという男は戦えればそれでいい。とはいっても、軍にはそれなりの忠誠は見せたし、貢献もしてきた。

 自分の性格の関係で、上層部から疎まれていることは感じていたが、別に気にすることはなかった。成果を出していたからだ。

 なのに、自軍が自分たちを消そうというのだからそれに抵抗するのは当然だ。

 恩義を仇で返されるのだから。そんな無礼な相手に忠義を見せる必要もない。

 それに、あのジョウェインとかいう男が次何をしでかすのか、それが少し楽しみになっていた。


『中尉! 艦長からの作戦は本気でありますか!』

「馬鹿野郎! 軍は俺たちに問答無用の攻撃を仕掛けてきたんだぞ! そりゃあつまり、艦長、中佐殿のお言葉が本当だったってことだろうが! 死にたくなきゃ、今はこの場を潜り抜けろ!」


 マークは味方にオープン回線で怒鳴った。


「プラネットキラーに巻き込まれたくなきゃ指示に従え! 俺たちゃ反逆者なんだからな! ははは!」


 何も知らない敵機をまた一つ撃破する。


「さて、問題はあの中佐殿が、何をどこまで読んでいるかだ。行き当たりばったりでも、愉快ではあるが?」

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