私はこの件に関して一切の責任を取るつもりはない

「……!?」


 省吾の発言に、マークは虚を突かれたような顔を浮かべた。

 マークの知る、ジョウェインという男はこういう姑息なことはひた隠しにして、露骨であっても知らぬ存ぜぬを通す面の皮が厚い男という印象だった。

 事実、その評価は正しい。ジョウェインという男はまさしくそういう俗物な人間だった。

 しかし、それは元のジョウェインの場合である。今の彼は省吾という、マークですら予想できない概念が入り込んだ別人なのだ。

 なおかつ、よもや目の前の男がある程度の先の未来を知っているなどとは、露として考えるわけがない。


「プラネットキラーね。またずいぶんと大がかりなものを持ってきましたなぁ中佐殿?」


 まるでこちらを試すかのような物言いだった。ここで、激高しないのはマークの賢いところである。彼は過激な方の人間だが、何から何までを暴力で解決するタイプではない。黙って得する場面では黙る男であり、暴力が必要ならその都度と言ったところである。

 マークという男は戦いは好きだが虐殺は好まない。しかし邪魔だてするものには容赦はない。そんなある意味では二律背反な精神性を持った獣とも言うべき男だった。

 ゆえに、省吾はまだ油断できなかった。これからの一挙一動で、マークという獣に獲物として見られるかもしれないと考えると肝が冷える。


「ふぅー……いつ、気が付いた?」


 溜息をつくように見せて、省吾は深呼吸をする。


「現在、軍が開発している新型機であれば我々パイロットが知らないということもありますまい。無人機であるならさておき、機体にはパイロットが必要。ならばこの線は薄い。となればやはり兵器の類。機密にする以上、あまり外に漏れてほしくないものでございましょう? なら思いつくのはプラネットキラーやそれに類似する新兵器……下士官でも想像はつきます。何より、我々は悪名高いニューバランスでございますからな?」

「さすがは、直感だけで戦場を生き抜いてきたワイルドボアだ」


 この言葉は嘘偽りのない言葉である。ほぼゼロだった情報からマークという男は確信を得たのだ。

 それで、ジョウェインにゆさぶりをかけようとしたのだろう。原作においてどのようなやり取りがなされたのかは省吾の知るところではない。アニメでは描写されることのないやり取りだ。

 とはいえ、一話の時点でジョウェインはプラネットキラーを惑星に投下し、主人公の家族や友人を虐殺した。

 この時、ジョウェインはマークに対して嘘の発言をするなどしてなぁなぁで切り上げたというわけだ。

 だが、今この瞬間、その展開は消え去った。


「我々の任務は植民惑星ビュブロスで秘密裡に建造されているテロリスト共の新兵器の破壊、奪取のはず。それはプラネットキラーを使う必要のある代物で?」

「大佐殿はそうお考えだということだ」


 プラネットキラーとはその名の通り、対惑星兵器であるが、その実、効果範囲は非常に狭い。着弾したとして、惑星が破壊されるということはなく、影響範囲は半径200キロ程度。戦略兵器としては高いかもしれないが対惑星と言われれば非常に狭い。

 だが、プラネットキラーは核の放射能汚染とはくらべものにならない異常を引き起こす。

 それはこの兵器が重力兵器であり、着弾すれば、それが地表である場合、半永久的に重篤な重力異常を引き起こす。磁気、地場が乱れるのである。さらにはプラネットキラーは製造が非常に安価であり、小型であるという点も恐ろしい兵器であった。

 いうなれば、この兵器を無数惑星に放り込めば、それだけで惑星は地場が狂い、ものによって自転すら狂うといわれる。

 ニューバランスという軍はこのプラネットキラーを無数に保有しており、敵対勢力に打ち込むことに抵抗がない。

 しかし、大半は宇宙空間などが殆どである。まず、惑星上では使用しない。


「つまり、我々パイロットを信用していないと? あのような爆弾に頼るとおっしゃる?」


 マークは隠してはいるが、声音には怒りが混ざっていた。場合によってはこの次の出撃で謀殺することを考えているほどである。

 それは省吾にも伝わっていた。


「大佐殿はそうお考えだ。だが、中尉殿。私はあれを使うつもりはない」

「ほう?」


 マークからすれば、それは意外な発言だったのか、またも驚いた顔を作る。


「冷静に考えても見ろ。あれを使って、国際世論が我々を叩いた場合、その矢面にたち、責任を取らされるのは誰だ? 私だ。いや、もっといえば、君たち全員だ」


 それは嘘ではないが、同時に事実とも違う。

 アニメにおいては彼らは大佐殿の策略で、結果的には救われている。プラネットキラーを使用したのはテロリスト、つまりは主人公たちであると発表したのである。

 当然、大半は信じてすらいなかったが、そう発表することに意味があった。

 しかし、そうなるということを知っているのは今この瞬間では省吾のみ。それは、未来の話なのだから。


「私はね、中佐殿。悪党ではあるが、奴隷になりさがるつもりはない。このようなことを行って付けられる首輪は奴隷以下だよ。脅迫をもって従わされるのはご免こうむるというわけだ。アンフェール大佐であれば、やりかねんことであろう?」


 大佐殿。その名をアンフェール・プブリウスと言った。二メートルにもなる巨躯を持つ大男であり、禿頭で野心家であった。同時に切れ者であることは間違いなく、軍事作戦においては無能を見せるというのに、己の地盤固めに関する政治センスだけはずば抜けていた。

 それは、メタな視点として、アニメの悪役としての都合だからといえばそれまでだが、今はそれが真実として警戒するべきなのだ。


「中佐殿、それは」


 マークは三度驚くことになる。彼の知るジョウェインは親分であるアンフェール大佐の悪口、陰口をいうことはないからだ。

 それが、このように遠回りとはいえ、批判をするなどということは考えられないことだった。


「それに、だ。テロリスト共が開発したという新型だが……おかしいとは思わないか?」

「と、言いますと?」


 そして、これから省吾が言うのは、ジョウェインに限らずニューバランス上層部としては隠したい事実、否、失態である。


「連中にそのようなものを開発するだけの工場はない。いや、よしんばあったとして、そのような大がかりな開発を我が軍が見逃すわけもない。いいかね、中尉殿。トリスメギストスは、ニューバランスが開発した新型であり、それを奪取されたのだよ」


 アニメにおいて、主人公が搭乗するロボット兵器『トリスメギストス』。

 それを開発したのは他ならぬニューバランスたち。

 その証拠を隠滅するべく、プラネットキラーの使用を許可したのである。

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