打ち切りアニメの設定を網羅しろというのが無理な話である

 このアニメに出てくる人型マシンはテウルギアと呼称される。

 なお、『なぜ人型』なのかという疑問は特に解決はしてない。そもそもが流行りにのっかったOVAアニメ。とにかくロボットもの、とにかくSFもの、とにかく制作側がやってみたい設定、などなどを詰め込んだものであり、なおかつ打ち切りという展開で決着がついた為にあらゆる面で説明不足が多いアニメである。


(一応、人間の身体の延長線上を目指して、肉体と空間の認識能力をうんたらかんたら、第二の肉体として人体をすべて頭脳とするどーたらこーたらみたいなセリフがあったな)


 アニメに登場する通称・博士と呼ばれるキャラのどう考えても尺稼ぎな説明パートでもあやふやな説明を思い出す。


(まぁ、深くは考えなくてもいいだろう。俺には関係ないし、その設定が本編にどうこう影響している様子もなかった。つまり、人間がロボットを操縦できる簡単な方法ってことだろ)


 もしかすれば、何か大きな意味を持っていたのかもしれないが、悲しいかな、このアニメは打ち切りであり、随所にちりばめるだけちりばめた謎設定はおそらく回収されることはない。

 その一方で、制作側も打ち切りを見込んでいたのか、アニメ全体のストーリーは非常にシンプルである。逆を言えば深みがないともいえる。

 地球主義による支配体制と、植民惑星側の抵抗という形が基本であり、そこに主人公機である『トリスメギストス』の謎を追うといったもの。

 なお、当然のごとくトリスメギストスの謎がなんであるかなど、不明である。

 ただわかっていることもそれなりにある。その一つはトリスメギストスという機体はニューバランスが開発した新型であるという事、その開発者こと博士は組織の裏切りものであるという事だ。


(トリスメギストス……見た目はまぁまぁかっこいいが……いまいち強くないんだよな)


 一般量産機のテウルギアはいかにもやられメカといったデザインであり、基本的には丸みを帯びた兵隊のような見た目をしている。武装も実弾式のライフルと実体剣、もしくは槍といった装備。

 カラーリングはニューバランス側が青を基調とし、主人公側の反乱軍はクリーム色といった所である。

 その一方で主人公機であるトリスメギストスは白とグレーを基調としたカラーリングであり、全体的なフォルムはまで白衣やコートをまとった研究員とも、もしくは古代の司教をイメージしたのであろうかという特異な姿をしていた。

 頭部は目や口といったものはなく無貌であり、そこに聖職者が被るミトラと呼ばれる冠のようなものが備わっているという風体である。

 つまるところ、およそ戦闘マシーンというよりは芸術品、彫刻のような代物にしか見えないのである。

 本来であれば、すさまじいスペックを誇るとされているが、そもそも乗り込むことになる主人公が軍人でもなんでもない為に機体性能を活かしきれず、毎度撃墜寸前にまで追いつめられるという状況が続く。

 不評の原因はおそらくこれだろうとコアなファンは考察していた。


(何より、こいつが強すぎるんだよなぁ)


 省吾の目の前に立つマークという男。

 二つ名を持つエースパイロットである以上にいわゆる専用機もちである。

 専用機といってもこの時点では量産型のカスタム機であるのだが。

 序盤からこのマークという男が主人公たちの最大の壁として立ちはだかる。しかし、なぜ彼が主人公を落とせないかと言えば、その原因のほとんどはジョウェインにあり、意味のない援護をして結果邪魔をするなど、ひどい場合には乗艦が撃沈寸前になり、逃亡を図るなどをしてマークを妨害するのである。


(……そら殺されるわな、うん)


 それ以外とすれば、よくある主人公機の隠されたパワーが発動して……といったものだが、そのような例外的な状況をのぞけばやはりジョウェインが邪魔なのである。

 そんな男に転生したことを改めて認識させられると、省吾は大きなため息を吐き出したくなるし、なんならふて寝をしたい気分だった。

 しかし、そうはいかない。腐ってもジョウェインというキャラは中佐であり、戦艦艦長。組織のナンバー2の部下であり、立場がそれを許さない。

 なおかつ、下手をすれば組織から抹殺される可能性あってあるのだ。大佐殿はいよいよもって使えないと判断した部下は容赦なく切り捨てるキャラである。

 なぜジョウェインが切り捨てられなかったのかは今をもっても謎ではあるが。


「──新型をテロリストに奪われたあげくに、その証拠隠滅にプラネットキラー。なるほど、大佐殿がやりそうな事です。おっと、これは無礼な言葉でしたか?」

「報告するほどではない」

「ほう?」


 マークとしてはかまをかけてみたつもりなのかもしれない。

 それは分かりやすい送球だったので、省吾も軽く返す。だが、マークとしては確かな手ごたえを感じた様で、ふっと場の空気が和らぐのを省吾は感じた。


「しかし、分かりませんな。新型を奪われたのは失態でありますが……その対応にあのような代物を使うなどと。新型とはそれほどの性能が? 惑星一つを犠牲にするだけのものがあると?」

「知らんよ。私は開発部の人間ではないからな。仕様書の一枚もない。だが、どうやら大佐殿は危険であると判断しており、われらがファウデン総帥も容認していることを考えれば……」

「しかし、たかが一機動兵器なのでしょう?」

「そのはずなのだがな。ファウデン総帥が許可を出したという部分が気になる」


 そのようにいうが、省吾はその理由を知っている。というのも、事実として、謎パワーを開放したトリスメギストリスはプラネットキラーすらも無力化する壮絶なスペックを誇る。

 そう、能力さえ開放すれば確かにトリスメギストリスという機体は最強のマシーンとなるのだ。その能力開放を披露したのは打ち切り中、せいぜい三回程度なのだが。


(さて、マーク中尉や組織の問題も頭の痛い所だが、トリスメギストリス自体の能力開放すらも俺は注意を向けなきゃならん。なんにせよ、俺が死なない為には勝ち組に乗る事だ。ここは主人公たちに協力する方がメタな流れとしては安全なはず。じゃあ、それをどうやるかだが……)


 省吾はちらりと時計を確認する。

 残り十一時間。アニメ一話まで半日とない。長い様で短い時間だ。

 決断は迫りつつある。これから一睡もせず考えてもまだ足りないぐらいだ。

 様々な要因が自分を殺しにかかってきていることを踏まえ、省吾はそれでも主人公陣営に与することを考えている。

 それしか、まともなルートが開拓できなかったのもある。

 だがそれ以上に、打ち切りアニメの今後の展開など、分かるはずもない。

 このような意味では、ひどい博打であるが……


「……全乗員に召集をかける。君も来たまえ」

「はい?」

「話があるということだよ。この私からね。今から、博打をするというのだ」


 結局、動くしか、ないのである。

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