男友だち。——HOWEVER
こうやって、キミに手紙を書くのは初めてだね。
——っていう文言、よく聞くヤツだけど、本当にそうなんだからしょうがない。
まだ暑いけど、確実に日は短くなってきて、そう言えば立秋は過ぎたんだなぁなんて思っていたら、ふとキミに手紙を書きたくなりました。
きっと、この曲を聞いたせい。
一時期、すごく流行っていた歌。
*
♪〜幾千の出会い別れすべて この地球で生まれて
すれ違うだけの人もいたね わかり合えないままに
キミは覚えてるかな、私たちが仲良くなったきっかけ。
私が仕事で会わなくちゃならなくなった相手がこわい人で、まだうちの課に中途採用で入ってきたばかりのキミに、ついてきてほしいと私が個人的に頼んだところからだった。
心配は杞憂に終わり、そのあとお礼も兼ねてごはんに行って。
ほどなくして、キミの方からも飲みに誘ってくれて。
すっかり意気投合した私たちは、あれから何回くらい飲みに行った?
周りから、付き合ってるんじゃないかって誤解されたこともあったくらいだったね。
そもそも、最初にキミに護衛(?)を頼んだのも、キミが気安い、気のいいタイプだったからかもしれない。
キミと飲むのは本当に楽しくて、思いがけないところにいちいちちょっとしたギャグをかましてくるから、私はずっと笑いっぱなしで。。。
まるで、ずっと前から知ってる幼馴染みとか同級生みたいな、気取らない付き合いができる貴重な存在だった。
*
だから、あの日キミが突然キスしてきた時は、本当に驚いたんだよ。
驚いたけど、まんざらイヤに思ってない自分にも驚いて。
だけど、キミはその先には進まなかったね。
それからポツンと言ったんだ、「ごめん」って。
そして、キミが数カ月後には結婚する、会社にも明日言うつもりだと知った。
***
♪〜愛の始まりに心戸惑い 背を向けた夏の午後
今思えば頼りなく揺れてた 若すぎた日々の罪
でもね、私は傷つかなかったよ。
キミは本当にいい友だちだったし、一線は越えなかったんだし。
踏みとどまったことを、むしろ褒めたいくらい。
そして、その後もずっと、ただ友だちでいてくれた。
情報交換という名の二人飲み会。
サッカーや野球やら、コンサートやら、いろんなところにも行ったね。
世間では、結婚したら異性の友だちとの付き合いはやめてほしいって言う人も多いみたいだけど、こうやって付き合ってこられたのは、寛大な奥さんのおかげなのかな。
私が結婚してよそへ引っ越すことになった時、お祝いの乾杯のあとキミも言ってくれたね。
貴重な女友だちがいなくなっちゃうの、さびしいよ、って。
こっちに来たら、また飲みに行こう、って。
***
♪〜孤独を背負う人々の群れにたたずんでいた
心寄せる場所を探していた
「出会うのが遅すぎたね」と 泣き出した夜もある
本当に久々にこの曲を聞いて、ドキッとした。
もう忘れてたけれど、キミは「ごめん」のあとにこう言った。
奥さんより先に私と出会ってたら、きっと好きになってた、って。
なーに言ってんの!!
そうやって笑って去なして、それきりになったけど、あれは本気だったのかな。
今ごろになって、ふと気になったよ(笑)
もう、どうでもいいことなんだけど。
でも、どうでもいいからこそ、真実を知ってみてもいい気がして……
こんな手紙、書いたりしてる。
*
♪〜言葉では伝えることが どうしてもできなかった
優しさの意味を知る
私たち、本当にいい友だちとしてやってきた。
お互いの近況報告と情報交換を欠かさず、趣味を共有して、時間を楽しんだ。
この積み重ねを認めてくれた奥さんには、「ありがとう」でいいんだよね?
***
私たち、いつから会ってないのかな。
安室ちゃんのコンサートはチケットが取れなくて、
そのあとのクラシックコンサートはコロナで中止になって。
私の結婚から1年くらいもして、結婚祝いのプレゼントをくれた時が最後?
*
ずいぶん長い手紙になりました。
でも、この手紙は出さないよ。
そのかわり、コロナが明けたら、また会おう。
それまで、ちゃんと生きててよ。
♪「HOWEVER」GLAY
https://www.youtube.com/watch?v=gPcPseeICjs
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