ひめside

「・・・め・・・ひめ・・・」


体を揺さぶられ、ゆっくり目を開ける。


楓の声・・・。


『ん・・・おかえり』


「ただいま」


ぼやけた視界のピントが合うと、満面の笑みの楓が居て、自然と私の口元も緩んだ。


「ひめ・・・体痛めるからベッドで寝ようね?」


楓の後ろから泰牙がそう言う。


『あ・・・ごめわっ・・・』


退こうと体を起こしたら、唯斗に抱きあげられた。


『ゆ、唯斗・・・!』


そのままベッドに運ばれる。


恐る恐る唯斗を見上げると、目が合った。


唯斗は片手で口元を押さえ顔を背ける。


『え?照れてる・・・?』


からかうつもりで言ってみたが、気に障ったのか私を睨んで口角を上げた。


「照れるのはお前だろう」


『え・・・ちょっ・・・』


両手をベッドに押しつけられ、押し倒される。


赤面する私の額に口づけする唯斗。


そして満足そうに笑う。


ずるい・・・。


『も、もう寝る・・・!』


布団を勢いよく頭まで被り、顔を隠した。


だから気付かなかったんだ。


唯斗も顔を真っ赤にさせていたことを・・・。


――――次の日――――


学校が休みなのでリビングでくつろいでいると


「どこか遊びに行こうか」


泰牙が朝食を作りながら言った。


『みんなは?』


「楓はそのうち帰ってくるよ。唯斗は後ろ」


泰牙の返答と同時に


「ひめ」


唯斗の声が聞こえ、肩を震わせる。


昨日額にキスされたばかりでどんな顔をしていいか分からない。


「寝癖」


『え、嘘・・・ついてる?』


自分の髪を押さえると、唯斗が近づいてきて私の頭をゆっくり撫でた。


「昨日のことは内緒だからな」


そう言ってにやりと笑う。


また顔が熱を帯びていく。


慌てて顔を逸らすと、キッチンの泰牙とばっちり目が合った。


その目には何故か怒りの感情が含まれていて・・・


「唯斗、何手出してんの?」


低い声で威圧する泰牙。


あまりの迫力に血の気が引いた。


怖い・・・。


「お前と一緒にするな、ひめが怯えてるぞ」


唯斗は全く動じずそう返した。


「ひめ、ご飯食べよ?ドレッシング何がいい?」


いつもの泰牙に戻り安堵する。


泰牙に睨まれると逃げられない。


『和風のにする』


「はい、どうぞ」


冷蔵庫を開けてドレッシングを取ってくれたので、手を伸ばして掴むと・・・


離してくれない。


『??』


理解できず泰牙の顔を見る。


「ん?」


何食わぬ顔をして力を加えている泰牙。


何という握力・・・。


男の子だと実感する。


「ねえひめ。唯斗に何されたの?」


思い出しただけで赤面してしまう男性への耐性が低すぎる自分に呆れる。


「そんなに赤くなるって事はさ、過激な事されたってことじゃないの?」


『ち、違う・・・!唯斗とはなにも・・・』


絶対に口をわるものかという勢いで否定の言葉を言いかけたその時


「おでこにキスしただけだが?」


信じられない。


さっき自分で内緒って・・・


『唯斗っ!』


若干怒りを混ぜて唯斗を呼ぶ。


「じゃあ俺はほっぺにちゅーするー。だって羨ましいしひめのほっぺ柔らかいんだもん」


ふわっと横から包まれたかと思うと・・・


音もない啄むようなキスを頬にされた。


『か、楓!?なにして・・・いつ帰って来たの!?』


前方の刺すような痛い視線から逃れるように楓の方を向く。


って・・・抱きしめられてるから顔が近い・・・。


「離してくれない?ひめも早くご飯食べて」


また低い声で泰牙がそう言う。


誰が聞いたって怒っているのは丸わかりで。


『は、はい』


これ以上逆撫でしないようにすぐに朝食に手をつけた。


泰牙の料理は本当に美味しくて、


『美味しい・・・!』


思わず声に出してしまう。


「そう?」


そして泰牙は私が美味しいって言うと、可愛いくらい素直に喜んでくれるんだ。


ほら、今も機嫌を直して口元を緩ませている。


「ひめー、俺が居なくて寂しくなかった?ぎゅーってしてもいいんだよ?」


楓が食事中の私の隣で可愛くお山座りをして、首をこくんと傾けて話しかけてきた。


『寂しくはなかったけど、ちゃんと気づいたよ?泰牙に聞いたけどどこに行ったのか教えてくれなかった』


荒くちぎられて細かくされたレタスを頬張っていると、楓が羨ましそうにこちらを見ている。


その瞳はとても綺麗で魅入っていしまう。


『いる?』


お皿をさし出そうとすると、


「あーんして?」


と口を開ける楓。


箸を持っていないことに気付き、仕方なくレタスを一切れ楓の口の中に入れてあげた。


「んー、おいしー」


満足気に私に抱きつく楓に少しだけ照れる。


----バンッ----


大きな音が聞こえてそちらに目を向けると、


「楓・・・レタスなら手で食べれば?」


泰牙がレタスを丸ごと机に置いた音だった。


「間接キスにあーんはおかしい。おでこにキスされただけであんなに恥ずかしがったくせに」


低い声でそういう唯斗。


え・・・


え?


間接キス!?


気付いたと同時に頬が熱を持つ。


楓は何故か小さい子みたいに思っちゃう節があって何も考えてなかった。


「うるさいなー。羨ましいなら泰牙達もやってもらえば?妬けるからって八つ当たりしないでよ。ねえひめ?」


話を振られ、鋭い視線が一気に注がれる。


『え・・・いや・・・私は・・・』


しどろもどろになりながらなんとかこの場を切り抜けようとするが・・・


「ひめ?楓に出来るってことは俺にも出来るってことでしょ?」


泰牙が私に詰め寄る。


『ちょっと待っ・・・唯斗助け・・・』


泰牙と並んでいる唯斗に助けを求めたが、


「俺にもしろよ」


あっさり見放された。


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天使の翼 @bitoukaresinotaisyohou

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