epilogue

 偉大なるジョン・スミスとの約束通り、私は元々住んでいたマンションに返されることになった。いざ、マンションに帰ってみると若干の違和感に気が付いた。玄関を入ってすぐ近くの部屋、そこにはゼリー食を冷蔵保存する装置があって、向かい側には洗い場がある。そのすぐ横には何かあったはずなのだが、きれいさっぱりなくなって、腰の高さほどの広めの棚になっていた。元々何があったのかも思い出せないことが不思議だ。私が政府警察署にいる間にリフォームでもあったのだろうか。なにしろ一か月以上部屋を開けていたのだ。そういうこともあるかもしれない。

 そうこうしているうちに、偉大なるジョン・スミスの番組が始まる時間であることに気が付いた。私は急いでリビングのホログラムテレビのスイッチを入れた。



「みなさん、おはようございます」

 いつものようにテレビ台に置かれた円筒状の投影スクリーンへ、軍服を着て、胸にたっぷりの勲章を付けた顔のホリが深い中年の男性が立体的に、そして、縮小されることなく等身大で彼の立つ演説台とともに映し出される。偉大なるジョン、ジョン・スミスだ。

 この国のトップであるジョン・スミス本人が目の前にいるかのように感じられて、私は自然と背筋が伸びた。温厚なように見えて、全てを見透かしているような鋭い瞳に見られている気がした。

 ジョンはしばらくの沈黙の後、大きく息を吸い込んでから身振り手振りを交えながら言った。

「ご存知の通り先日、我が国を侵攻しようと企てた某国との衝突があったが、無事食い止めることができた。敵の規模は凡庸な兵士五千人。それに対しこちらは優秀な兵士が一万人。当然の結果だが、実に喜ばしい。健闘してくれた軍部、兵士の武器を生産してくれた生産部、それから兵士の食事を用意してくれた食品部の諸君、感謝している」

 毎朝、冒頭では国民に対する感謝が述べられる。私は食品部に所属をしているから、携わった食品で兵士が国を守るための原動力になったかもしれない。そのことについてジョンから感謝をされると誇らしい気持ちになった。

島国である我が国は攻めにくく守り易いと言われているが、それでも豊富な水資源、広大な土地を狙って度々他所の国から狙われることがある。しかし、その度、政府軍は侵攻を跳ね除け今日の平和を保つことができている。ジョンが言うように、確かに政府軍は優秀なのだ。

 それからいくつか国内のニュースが取り上げられ、朝の放送がいつものように締めくくられる。

「では、諸君。本日も我が国の繁栄のため、日本国民として誠実な行動を期待している」

 ホログラムの偉大なるジョンは満足げに微笑む。スッ、とその場を立ち去るように消えた。

 ジョン・スミスはいかなる不正や犯罪を許さない厳格な指導者だ。ジョンの目である政府警察は常に国民を監視している。それは人類の繁栄のため、この国の繁栄のため、ジョンは毎朝言っている、「団結は繁栄である」と。私はその教えを忠実に守りこれからも食品部でこの国と国民を支えていくつもりである。

「偉大なるジョン・スミス万歳」

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料理という罪 西木 眼鏡 @fate1994

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