第3話
「なあ、ハデス」
「なんだ?」
「なんで、アイリッシュコーヒーだったんだ?」
カウンターに置かれていた壊れたスマホをいじりながら男は聞いた。銀縁の眼鏡の店員は飲み終わったコーヒーカップとアイリッシュコーヒーが入っていたグラスを洗い始める。
「……あの魂が事故にあったのは一週間前だ。ここの通りの少し先で、バスが歩道に突っ込んだ」
「そんなことあったっけ」
男は首を傾げながら自分の記憶を辿る。そもそも一週間前っていつだ? 相変わらず人間の世界の感覚にはなれない。
「駅と事故現場を行ったり来たりして、冥界に行こうとしない。俺の店の前で、冥界に行かない魂があるなんてことはあってはいけない」
「仕事熱心なことで」
ちょっとだけ茶化したような口調で男は呟いた。銀縁の眼鏡の店員が男をきっと睨む。氷のように冷たく威嚇してきたが、男はちょっとだけ肩をすくめただけだった。
「ふん。事故現場近くでお前が持っているスマホとやらを見つけたのだ。魂はそのスマホにつられてここへ来た。お前の竪琴のおかげもあって、無事に冥界の門をくぐることが出来たから今の発言は聞かなかったことにする」
「でも、なんでアイリッシュコーヒー?」
男は、最初の質問に戻った。
「そのスマホについている飾りをよく見てみろ」
そう言われて、男はスマホについているキーホルダーを手に取った。丸っこい三つ葉が透明なケースに入っている。
「ん? 三つ葉のクローバー?」
「そうだ。シャムロックだ。シャムロックといえばアイルランド。アイルランドといえばアイリッシュコーヒーだろ? 後悔に凝り固まっている魂を温めるには丁度いいコーヒーだと思わないか?」
おしまい
UTAKATA珈琲店 一帆 @kazuho21
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます