第14話 旅の途中
マリアの遺体が壁から降ろされる。
激しい戦闘で警備の方にも被害は出ていた。
死んだのは6人ぐらいだが、すぐに病院に送らねばならないのが5人。手当は済んだが、使えないのが7人。軽傷者は21人にも及ぶ。
半分以上が死傷した事になる。
まだ、行程の3割にも達しない段階で、これでは先が思いやられるとレイは思った。警備担当のカールはさすがにこの先、マリアのような強盗団と遭遇する可能性は低いとは言っていたが、そのカールも警備の人数を補充する為に次の駅で一日、停車して欲しいと願ってきた。
余裕がどんどん、無くなるのは辛いが、それでも安全第一なので、レイは渋々、それを了承した。
停車予定の駅は小さな町だった。
本来なら通り過ぎるだけの町だったが、ここで宿を取る事になった。
小さな宿屋兼酒場にカールが仲間を連れて、先行した。
彼らは町の治安を直に見る役目も負っている。
入り口から入ると、酒場だった。
昼間から酒を飲むような輩は居ない。
女主人がカウンター越しに挨拶をする。
「いらっしゃい。さっき、駅に停車した汽車の人かい?」
「あぁ・・・宿を頼みたいが・・・今の宿泊者は?」
「ははは。小さな町だからね。今は誰も居ないよ」
それを聞いてカールは安堵する。
「それじゃ、全ての部屋を明日まで貸し切ってくれ」
カールはカウンターの上に札束を置いた。
「えぇ・・・それは構わないけど、5部屋しかないよ」
「十分だ。うちの主と直近の護衛が泊まるだけだ。あと、建物の周囲に人を立たせる。そいつらはうちの警備のヤツだから」
「物々しいね」
「ちょっとな。詮索はごめんだよ」
「はいよ。飯は?」
「当然。最高の物を出してくれ。あと酒はあるか?」
「小さい店だけど、量はあるよ」
「気に入った。汽車の奴らに差し入れたい。箱でくれ」
「はいよ」
カールは用事を済ませると保安官事務所へと向かった。
小さな町でもとりあえず、保安官は居るようだ。
事務所の扉を叩くと、一人の老人が出て来た。
カールは彼を見て、軽く笑った。
田舎の保安官は銃もまともに撃てるかどうかのおいぼれ。
そんな風に思った。
「やぁ、保安官のジェフだ。あんたは?」
「さっき、駅に到着した列車の警備を担当するカールだ。一泊するので、挨拶に来ただけだ」
「そうかい。警備担当とは物々しいね。金か有名人でも積んでいるのかい?」
「詮索は遠慮して貰おう。ただ、この町の治安について聞きたくてね」
「治安か。特に何も無い町だ。平和そのものだよ。稀に小悪党が出る程度」
「小悪党か・・・あんた、銃の腕は?」
太っ腹に締められたガンベルトのホルスターには年季の入ったパーカッションリボルバーが入っている。
「ここ数年、撃ってないよ。火薬もしけってるかもな」
「平和で良いな。解った。とりあえず、不審者が居たら、連絡を貰えるか?」
「解ったよ」
カールはチップだと言わんばかりに金を保安官に渡した。
カールが戻って来ると、レイはイブキと護衛の5人を連れて、徒歩で宿屋へと向かった。
道中、平和な町ではあったが、人々の好奇の目が一行に集まる。
多分、この手の小さな町では珍しい光景なのだろう。
宿屋に着くと、女主人がレイを見て、目を丸くする。
「お人形みたいな綺麗な顔立ちしたお坊ちゃんだ。どこかの金持ちの子かい?」
それを聞いたカールが嫌そうな顔をして、女主人にそれ以上、声を掛けるなと言わんばかりの手ぶりをする。
「ははは。元気の良い女将さんだ。世話になります。チャールズと呼んでください」
「チャールズだね。覚えたよ。飯はいつ食べる?」
「夕方ぐらいで。それまで部屋に居ますから」
「解った。酒場は今日は貸し切りにしておくから」
「ありがとう」
女主人はイブキにも目がいった。
「おや、こっちは東洋系のメイドさんだね。珍しい」
イブキは深々とお辞儀をする。
「調理のお手伝いをいたします」
イブキはそう言うと、女主人の所へと向かう。
「いやいや、別にいいよ」
女主人は断ろうとするが、イブキは強引にカウンターから奥の調理場へと行く。
「まぁ、タダで手伝ってくれるならありがたいけどさぁ」
女主人は少し困惑気味にイブキを見た。
レイは一人で部屋に入る。無論、すでに部屋が安全かどうかは確認済みだった。
ベッドしかないような小さな部屋だ。
「とりあえず、ここで・・・一人用の小さなベッドだな」
レイからすれば、馬車かと思うぐらいの部屋の広さだった。
窓があるのが唯一の救いではあった。
他の部屋は5人の護衛が使う。無論、彼らは仮眠こそ交代で取るが、基本的には不寝番である。皆、カールが認める腕の持ち主だった。
そして、宿屋の周囲には5人の立ち番が立たされた。こちらも交代で列車からやって来る。主に列車の警備に重点が置かれる。本当ならば、列車で寝泊りをして貰う方が警備としては分散されずに済むが、先の銃撃戦でレイの乗る客車にもかなりの穴が開いてしまった為、安全と快適の為に宿屋を取ったのである。
剣客メイド 三八式物書機 @Mpochi
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