第13話 激突
列車強盗を行う方法には幾つかある。
一つは列車を停めてしまう方法だ。
列車は線路の上しか移動しない。
つまり、線路を妨害すれば、それだけで停める事が出来る。
しかし、当然ながら鉄道は保線の意味でも常に警戒がされている。
鉄道での待ち伏せはそれらと衝突する危険が高かった。
その為、列車強盗は待ち伏せよりも乗り移りの方が圧倒的に多かった。
だが、上手くいかないのは大抵の列車には保安官が搭乗しているからだ。
襲撃時に応戦されれば、大抵は失敗する。
特に今回のように大金を積んだ列車となれば、乗っているのは警備の為の連中。
だが、大金を得る為にリスクを躊躇するようでは強盗団の名折れだった。
マリアは馬を走らせる。
最初から常套手段でやればよかった。
相手が強力だと思って、待ち伏せを選び、わざわざ、大砲まで用意したのは愚かだったのだ。
自分達が慣れ親しんだやり方を通す。それこそが必勝なのだ。
36頭の馬が線路を挟んで走る。
彼女の手下はどれも経験豊富な玄人共だ。
手にはライフルやら散弾銃、拳銃を握り、血気盛んだった。
やがて、線路の先に黒い煙を吐いて進む列車が見えた。
開けた荒野の真ん中。
襲い掛かるには十分だった。
荒野の中を突き進む列車。
最後尾に付けられた車掌車で後方を監視していた警備員が馬の大群を確認した。
「強盗団だ。社長に知らせろ」
彼が叫ぶや否や、銃弾が車掌車の壁を叩いた。
迫り来る強盗団が発砲を始めた。距離はあるとは言え、ライフル弾は届く。
最後尾と強盗団との間で銃撃戦が始まった。
列車側は限られたスペースからの射撃で圧倒的に不利だった。
一人の警備員が撃たれて、列車から転がり落ちる。
激しい銃撃戦の中、列車は大きな曲がりで速度を落とす。
強盗団はここぞとばかりに列車に追い付いた。
最後尾の車掌車に銃撃が集中して、警備員達が次々と倒れていく。
そして、遂に強盗団の一部が列車に乗り移った。
彼らを援護する為に左右から銃撃を加える強盗団。
列車に設置されたガトリングガンが唸る。
激しい連射は恐怖だが、並走する馬に当てるのは簡単じゃない。
マリアが列車に飛び移った。
彼女は拳銃を構えながら、次々と客車を制圧してゆく。
イブキは刀を腰に携える。そして、拳銃を握った。
「ご主人様・・・賊です。この車両に乗り込んだら、迎撃します」
イブキは車両の扉に向かい、仁王立ちする。
すでに警備の責任者であるカールは応戦に向かっていた。
強盗団の一部は先回りして、先頭の機関車を襲っていた。
何とか警備員達は応戦して、機関車を守っていたが、いつ、機関車を乗っ取られるかも時間の問題だった。
敵は百戦錬磨の強者達だった。
当初あった数の優位性はすでに崩れ、今は劣勢になりつつあった。
マリアは勝てる。そう思っていた。
空になった弾倉に弾を装填しつつ、笑みが零れた。
倒れた警備員を踏み越え、次の車両へと向かう。あと少しで獲物に会える。
楽しくて仕方が無かった。
死を恐れぬ彼女の攻撃は警備員達を怯えさせる。
彼女の射撃は荒いが精確だった。
一撃、一撃が確実に当たる。
その猛攻に怯える者も出始めた。
カールは怒声を上げる。
士気を維持する為にも怒鳴る必要があった。
そのカールの前についにマリアが現れた。
カールの持つ自動拳銃が唸る。
激しい撃ち合いが始まった。
マリアの華麗な銃裁きはカールの部下達を次々と倒す。
カールも懸命に撃ち合うが、マリアの手下も乗り込んできて、劣勢となった。
「いよいよだねぇ」
マリアは手下に銃弾を込めさせた新しい銃を手にすると、疲労困憊のカールに攻め寄る。カールも狙いをマリアに定めようとするが、連射で熱くなった銃は引き金を引くより早く、発砲をしてしまい、スライドは中途半端に停まった。
殺される。
カールはそう思った時、彼の背後から何者かが、過ぎ去る。
マリアは慌てて発砲した。
だが、その銃弾をメイドは刃で弾いた。
そして、一閃。
だが、マリアも底知れぬ身体能力で背後に跳び、片手で床を叩き、クルリと一回転して、立ち上がる。
「メイドかぁあぁああああ」
彼女は怒りの形相になる。
その瞬間にも一閃した彼女は刃をマリアに突き立てんと迫る。
あまりの速さに手下たちの発砲も間に合わなかった。
だが、マリアも素早く銃を構えて、イブキを撃つ。
だが、イブキは紙一重でその銃弾を躱し、刃を突く。
マリアもそれを銃身で防ぐ。
二人の女が僅か10センチの鬩ぎ合いをする。
「はやく!この女をやるんだよ!」
マリアが怒鳴ると、慌てて、手下たちが銃口をイブキに向けようとするが、イブキはマリアを蹴り飛ばし、刀を一閃させた。
それで手下二人の首が斬れる。
血飛沫が飛び散る。
イブキは更にマリアに斬撃を浴びせつつ、他の手下も斬った。
狭い車内では団子状態になっている為、全てが刀の届く範囲だった。
マリアは転がるように躱しつつも、刀を振り抜いて、がら空きになったイブキの腹に向けて、発砲をした。
銃弾は見事にイブキの腹に当たり、彼女は軽々と吹き飛ばされる。
「やったよ!くそがき」
マリアは更に銃弾を射ち込もうと立ち上がろうとするが、イブキは吹き飛ばされつつ、刀をマリアに投げつける。その刃は彼女右肩を貫いた。そして、彼女は壁に縫い付けられた。
「ぎゃあああああ」
彼女はあまりの痛さに銃を落とす。その銃を拾う事も敵わない。
イブキは何とか態勢を立て直し、腰のホルスターから拳銃を抜いた。
「終わりです」
彼女は手にした大型自動拳銃を振るうように構え、連射した。
刀で右肩を貫かれ、そのまま、壁に縫い付けられたマリアはそれを躱せない。
銃弾は彼女の胸、腹を次々と貫く。銃弾は彼女の身体を貫き、壁にも穴を開けた。
それでもマリアは左手でスカートを捲り、足に巻いたホルスターにあるマッチボックス銃を抜こうとした。だが、それを許すイブキじゃない。
連射された銃弾はマリアの左腕を貫き、そして、彼女はぐったりと動かなくなった。
それから、イブキは他の車両へと向かい、次々と、マリアの手下を撃ってゆく。
カールもそれに加勢して、圧倒的に不利だった状況は終わった。
機関車を襲っていた連中も上手く乗り込めないどころか、後方で状況が悪くなったことを悟ると、諦めて、逃走を始めた。
イブキは状況が好転すると後をカールに任せて、主の元へと戻った。
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